2017-08

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表日記19日目(精霊日記-1日目)

 ノウァが部屋の外の深雪に気付いたのは、夜食の為に酒場に降りようとドアに手をかけた時だった。

「なにこれ、ドアになんか置いてあるの。ちょっと、重いんだけどっ。」

 勢い良く扉を開けると、その勢いでドア寄りかかっていた深雪が、床にしたたか頭をぶつけて呻いた。

「痛ったぁいっ……なにすんだよぅ。」

「サクラさんの所から戻ってこないと思ったら、何でこんなとこで寝てんのよ。それで、ちゃんと謝って来たの?」

 まだ突っ伏している深雪を抱え起こすと、ノウァは深雪の頭をさすって怪我がないことを確認した。
 深雪の頭には、ややタンコブができていたが、我慢できる程度だろうと撫でるだけで済ませた。

「ううん、サクラお姉ちゃん寝てたみたいだし……それより、深雪はもう元の世界に帰れないの?なんか、携帯で電話したら、あっちにも深雪が居た。」

「……そう、電話をかけてしまったのね。原因はよく分からないけど、元の世界の深雪はこっちの世界に来てない事になってるわ。穴に落ちてセルフォリーフに来た深雪は……居なかった事になってる。」

「なんでっ、深雪はここに居るのに、居ないってどういう事?深雪、どうなっちゃうの?」

 深雪の質問に、ノウァは推論でしか答えることができないことを歯痒く思った。

「落ち着いて、深雪。深雪が別にすぐに消えたりはしないと思うわ。ただ、今ここに居るあなたは、もう元の世界には帰れない事だけは確かなの。」

 ノウァの言葉をある程度理解したのか、深雪は大粒の涙を零しながらノウァに抱きついた。

「なんでっ……深雪、お家に帰りたいだけなのに……こっちに居たって、またみんなに迷惑かけちゃうもん。深雪はこんな所に来なければよかったのにっ……帰りたいよぅ。」

 ノウァは深雪の背中を摩りながら、思案を巡らせていた。 
 強い運気を持つものは、無意識に周りの人の運を奪うこともある。
 テーセウスさんの妻であるオリフィエルも、強烈な運気の持ち主だが、彼女の周囲に居る者が不幸な目に遭うことは決して少なくなかった。
 
 深雪も同じ類の人種で、自分の幸運と引換に周りの運を吸い取っているのではないか。
 現にFPがノウァの手元にあれば、カテリーナとの戦闘も避けられた可能性があったし、サクラの怪我に至っては深雪を庇ったが故に起きた事故である。
 深雪がここに居ることで、また誰かに不幸が起きる確率も否定できない。 

 そして、深雪が元の世界に帰れないという結果も、深雪がこの世界に来なければ、起こらなかった現象ではないのか。
 深雪がこの世界へ呼ばれる原因を断てば、すべての悲劇は無かった事になる。
 
 ノウァが、ブレインさんから借りたパソコンで調べてみたところ、深雪がこの世界に呼ばれたのは、とある魔法実験の失敗が原因だと分かった。
 その魔法実験とは特別卒業試験の課題で行われた、奇しくも異世界から来た人達を元の世界へ還すための魔法だった。
 その魔法の影響で、深雪は元の世界から隔絶されてしまったのかもしれない。
 魔法の使用者は、ジェイド王国の錬金術アカデミーに所属するウルドという少女とまで調べはついていた。
 彼女の呪文が成功するかしないかは兎も角、ウルドが魔法を唱えることさえ阻止出来れば、深雪がセルフォリーフに来る事はない。

「深雪。帰る手段だけど……あるかも知れないわ。」

「えっ、ほんとに?」
 
 ノウァの言葉に、深雪は驚いて顔を上げた。
  
「……私と契約しなさい。深雪が望む願いを叶えてあげる。」

「契約?あのねこっぱちがよく言ってるあれ?」

 涙を袖で拭いながら、深雪はノウァに尋ねた。

「ええ、ねこっぱちのとは少し違うけど。深雪の望みを叶える代わりに、深雪の運を貰うの。別に痛くはないわよ。」

 ノウァが深雪の耳元で囁くと、深雪はやや声を震わせながら呟いた。

「深雪は……元の世界に帰りたい。」

「そう、本当にそれでいいのね。」

 ノウァがもう一度尋ねると、深雪は小さく頷いた。

「それじゃ、深雪。ここにキスしてくれないかしら?」

 ノウァは立ち上がると、深雪の目の前に契約印の刻まれた足を差し出した。
 深雪は、ノウァの足の甲に顔を近づけて鼻をヒクヒクさせると、露骨に嫌そうな顔をした。

「ちょ、匂い嗅ごうとすんな!?儀式なんだから、ちょっとは我慢しなさい。元の世界に帰りたいんでしょ?」

「えー、でも……うん、じゃ我慢する。」

 深雪がノウァの足の甲に口付けをすると、契約印から黒い霧のようなものが立ち籠め、深雪の身体に纏わり付いた。

「うぁ、なんか入ってくる……気持ちわるぃ。」

「契約成立ね。私の魔力を深雪に渡してるんだから、嫌そうな顔すんな。気持ち悪い感覚はそのうち慣れるわ。」

「魔力……深雪、魔法が使えるようになったの?」

「魔法の素質が身についただけね。そんな簡単に魔法が使えるようにはならないわ。でも、この前使えなかった異送鏡が、深雪も使えるようになる。」

「ほんと?それじゃ、深雪は元の世界に帰れるの?」

 ずっと暗い表情だった深雪が、久々にノウァに微笑みを見せた。

「ええ、結果的には……ね。深雪自身が、深雪をこの世界に呼んだ魔術師の魔法を阻止しなさい。」

「えっ、なにそれ。どうやってやんの!?深雪、魔法とかまだ全然わかんねーし!?」

 慌てふためく深雪の頭を、ノウァはぽんぽんと軽く叩いて微笑んだ。

「今やれとは言ってないわ。5年前位……ジェイド王国が復興した頃に飛んで、深雪が過去を変えられるだけの力を身に付けるのよ。」

「過去に……飛ぶ。そんな事、できるの?」

「どうなってるのか分からない未来や、深雪のいた元の世界に飛ぶよりよっぽど確実ね。座標だって変わるわけじゃないし。まぁ……専門的な話は深雪に言っても仕方ないわね。」

 ノウァは洗濯の終わったウサギの縫いぐるみのFPを部屋から持ってくると、深雪へと手渡した。

「詳しいことは、FPに聞きなさい。深雪が元の世界に帰るために何をすればいいか教えてくれるわ。深雪が寂しくないように、FPはあなたにあげる。大事にするのよ?」

「大事にしてよね。」

 FPは深雪に念を押すように言った。

「えっ、うん。ありがとう……ノウァ。」

 深雪がFPを抱きしめながら嬉しそうに微笑むと、彼女は視線を逸らすように顔を伏せた。

「……礼を言われるようなことじゃないわ。私の自己満足だから。そうだ、異送鏡を使う前にちゃんとサクラさんに挨拶してきなさい。そして、ちゃんと謝ること。いいわね?」

「うん、分かった。サクラお姉ちゃんにちゃんと謝ってくる。」

「よろしい。今日はもう遅いから、明日の朝に出掛けなさい。お腹も空いたでしょ?少しは美味しいもの食べて栄養をつけないと。」

 
 ―翌朝、深雪はサクラの部屋へとこっそりお別れの挨拶に向かった。
 部屋のドアをノックして深雪が声をかけると、扉の向こうからサクラの返事が聞こえた。

「はーい。開いてますよぉ。」

 深雪が緊張しながらドアを開けて中の様子を伺うと、ベットに上半身だけ起こしたサクラがこちらの気配に気付いた。

「あっ、深雪ちゃん。良かったぁ……しばらく会えなかったから、心配しちゃった。」

 いつも通りの様子のサクラに、緊張していた深雪の表情が少し緩んだ。

「深雪はすげー元気だよ……サクラお姉ちゃんに助けてもらったんだもん。サクラお姉ちゃん、怪我大丈夫?」

「うん。本当はね、普通に動けるくらい元気なんだけど、念の為に安静にしてくださいってセツカさんが言うから、寝てるだけなんだよ。」

「良かったぁ……あのね。深雪のせいで、サクラお姉ちゃんに怪我させちゃってごめんなさい。」

 深雪が頭を下げると、サクラは困ったように苦笑いをした。

「大げさだよ、深雪ちゃん。怪我は治ったんだし、あまり気に病まないで、ね?」

 深雪はサクラの言葉に、ふるふると首を横に振った。

「ありがとう……でも、深雪がここに居るとみんなに迷惑がかかるから、元の世界に帰るね。」

「えっ、迷惑だなんて思ってないよ? でも、深雪ちゃんがお家に帰れるのは、良かったとおもう ……」

 むりむり笑顔を作るサクラの表情から、自分の事を第一に考えてくれる優しさが伝わって、深雪の心臓は張り裂けそうなほどに苦しくなった。
 また泣いてしまうとサクラが余計心配するので、深雪も泣くのを我慢しながら彼女に微笑みを返した。

「深雪、本当にサクラお姉ちゃんとお友達になれて良かった。お姉ちゃんの事、絶対忘れないね。ばいばい。」

「うん、あたしの怪我のことは後悔しないで、向こうに戻っても元気な深雪ちゃんで過ごしてね。」 
 
 サクラの柔らかい手が、深雪の小さな手を包み込むように握りしめた。

 部屋からこっそり帰る途中、深雪は結局みんなに見つかった。 
 

「アホなおせよ。」

 相変わらずの素っ気なさで、ユカラは別れ際に深雪にダメ押しした。

「そうか、じゃあな。」

 レイヤ先生もいつもの調子だった。

「あんまり気にするなよ、はげるぞ?……まあ、元気でな。」

 セツカはちょっとフォローしたような感じで、深雪の頭を撫でた。

 サクラの部屋から戻ってきた深雪は、異送鏡の前で待つノウァの所へと戻った。

 「挨拶は終わった?それじゃ、準備はいいかしら?」

 「うん、ちゃんと謝ったら、サクラお姉ちゃんが許してくれたよ。」

 「そう、良かったわね。」

 FPを抱えながら笑顔で答える深雪に、ノウァは笑顔を返した。

 「色々ありがとう、ノウァ。んじゃ、頑張ってくるね!ばいばいっ!」

 泣きながら深雪はノウァに微笑むと、深雪は異送鏡へと飛び込んだ。
 深雪の身体が靄に消えるように鏡の中へと溶けこんでいくと、ノウァを残して静寂だけが残った。
 ただ一人鏡の前で、ノウァは微笑みを返すこともなく俯いていた。

 「さようなら……深雪。」

 深雪は願いどおり、この世界から消滅したのだ。
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裏日記15日目

 ダチョウともキーウィとも違う不思議な生き物に出会った。
 
 その生き物は、何処かでみた事のある顔だというか、顔だけ鳥人のナナさんに似ていたので、とりあえず野性のナナさんと名付ける事にした。

 なんだか物欲しそうにしていたので、お菓子をあげると後をついてくるようになった。

「……ひょっとして、これ。懐いているんじゃない?」

 自信有りげな顔でずっと後をつけて来る、野性のナナさんを見詰めながら魚臭いフィーが言った。


「いや、寧ろフィーが食べたくて付いてきてるんじゃないかしら。鳥って魚も好物よね?」

「やめてよ、冗談でも想像しただけで寒気がするわ。それなら、今襲いかかられてもおかしく無いでしょ。餌付けに成功したのよ。ノウァの魅力も捨てたもんじゃないわね。」

 ふと足を止めて、野性のナナさんの方を振り返ると視線があった。
 野性のナナさんは、立ち止まって私を見ると不敵な笑みを浮かべた。

「……まったく思考が読めないわ。」

「私が思うに、きっとノウァに乗ってくれって言ってるのよ。ほら、あの足カモシカみたいに逞しい。」


 フィーが野性のナナさんの足に見蕩れるように、感嘆の息を漏らした。

「え、そう?全然乗っていいような素振り見せてないんだけど。寧ろ、懐いたのかどうかさえ疑わしいわ。」

 恐る恐る近づいてみると、野性のナナさんは不敵な笑みを浮かべたまま、膝をついた。

「あ、あの……乗っても宜しいでしょうか?」

 どうしてこんな変な鳥に、敬語を使ってしまったのか自分に疑問を抱いたが、その存在感はそれ程に圧倒的だった。
 野生のナナさんは否定とも肯定とも取れない不遜の態度で、私の前に鎮座していた。

「……の、乗りますね。」

 一言断りを入れて、背中からゆっくり彼女の頭に横乗りで乗ってみた。
 野生のナナさんは身動きひとつせず、私が乗っても抵抗はしなかった。
 羽毛でそれなりに頭は柔らかいものの、綱も何もついてないので、もみあげあたりにとりあえず手を添えてみる。


「ええと、動いて?命令したほうがいいのかしら。走れ!」


 私の号令にまったく動じること無く、野生のナナさんはまったく動かないどころか、すやぁといびきかき始めた。

「きっと……乗馬と同じよね。お尻のあたり、叩きますね。」

 空いてる片手でペシペシとお尻のあたりを叩くと、野生のナナさんはいびきをかくのをやめ、すくっと立ち上がった。

「あ、ええと……山本さん達を追っかけてください。あっちの集団です。」

 野生のナナさんが私の方を見上げるので、とりあえず行きたい方へと指を差した。
 
 野生のナナさんは、周りの風景が流れるような速度で駆け出した。
 それはまるで疾風のようであり、見る見るうちに山本さん達の姿が遠ざかって行くようだった。

「って、ちょっと!?行く方向逆なんだけど!?止まって!若しくは戻って!?ちょぉおおおお!?」
  
 野生のナナさんは更に加速し、このまま空も飛べそうな勢いで大地を駆け抜けた。
 砂埃が舞い、景色もあっという間に飛んでゆく。
 私は風と一つになったような錯覚を覚えた。
 というか、最早風の一部となったと言っても過言ではないだろう。
 野生のナナさんは、私を振り落としたのも気づかないまま水平線の彼方まで走り抜けていったのだった。

表日記15日目

 大熊猫さんの便利道具に、部屋番号のついたプレートというものがあり、適当な場所に貼り付けると目の前に扉が現れ、特殊空間で繋がった共同設備の部屋の一つに入れるというものを使ってみないかと提案があった。
 確かに私は異送鏡の中に部屋を作って生活できるが、深雪やニールは屋外ではテントの寝泊まりをしなければならない。
 まったく外敵の危険性が無いわけではないので、どこからでも部屋に移動することができるプレートの使用は、テントよりも安全かつ快適で魅力的なものに思える。
 
 だが、私にとっては相手の作った結界内に一時的にとはいえ閉じ込められる事に抵抗を感じていた。
 子供のようで情けないことだが、自分の匂いのしない空間だと、落ち着いて眠れなかった。
 快適性と安全性も異送鏡の中で満たされてしまう私には、それほどメリットがあるわけではない。

「でも、深雪の安全を考えるなら、使わない手もないわね。」

 着ぐるみを着たニールが私の独り言に振り向いた。

「大熊猫に貰ったプレートの事か?確かに野営の危険を回避できる点で、俺も賛成だ。早速申請してきたほうがいいか?」

 ニールの言葉に私は首を横に振った。

「深雪ね、私にあんな態度だけど一人じゃ眠れないのよ。部屋に一人にする訳にもいかないわ。異送鏡の中にも何故か深雪は入れないし。」

「は?それならそれで、大熊猫の部屋に深雪とノウァが一緒に入ればいい話だろう?何の問題があるんだ。」

 着ぐるみのせいで、ファーヴニールの表情は分からないが、声色は明らかに不服そうな声だった。

「私にも色々事情があるの。パーティメンバーとはいえ、全てを信頼しているわけではないわ。万が一のことも考えて、領域に干渉できる私が外に居たほうが都合がいいの。」

「……何を言ってるのか、俺にはさっぱり分からん。」

「ニールに理解を求めてないわ。私の都合だから、放っておいて。とはいえ、深雪の事を考えたら、部屋に泊めたほうが私も安心ね。歯軋りから解放されるし。」

 私はポンと柏手をうって、ニールにプレートを押し付けた。

「ニールが深雪と一緒に入ればいいのよ。深雪もニールに懐いてるし問題解決ね。」

「いや、ちょっと待て。深雪が好きなのは俺の殻だけだ。俺の中身に懐いてるわけじゃない。着ぐるみを脱いだら、間違いなく拒絶される。」

「何言ってるの、深雪の見ている間は着ぐるみを脱がなければいい話じゃない。簡単な事よ。」

「なん……だと。」

 ニールがプレートを持ったまま硬直しているのを眺めながら、私はふとある事を思い出して、顎に手を当ててニールを見つめた。

「よく考えてみたら、ニールって大人の男よね?幼いとはいえ、女の子と一緒に生活させるのはどうかと思うわ。」

「今更そんな事を言われるとは、俺自身もびっくりした。むしろ、今まで俺を何だと思ってたんだ。」
 
「え、ニールってロリコンだったの?あらやだ、やっぱりこの話は保留ね。」

 私はプレートをニールから取り返すと、ポーチの中にさっさと仕舞った。
 
「……ノウァの俺への信頼度というものを、改めて理解した。」

 そういうニールの背中は心なしか、いつもより小さく見えた。

表日記13日目

 綺羅びやかな甲冑や剣などが飾られた石造りの部屋。
 
 中年の男は、机の上で手持ちの剣の手入れをしながら、目の前に立つ和風の着物を着て腰には白鞘を佩びた女の報告を聞いていた。
 中年の男の後ろには彼の背中を守るかのように、二人の少女が微妙だせず立っていた。
 二人の少女の髪は、綺麗に切り揃えられたやや紫掛かった白髪で、その目は柘榴石のように赤かった。
 体温の通っていないような白い肌と、双子のように良く似た容姿はまるで人形のようで、
中年の親父の趣味とするならば些か、気味が悪いものに見えた。
 着物の女は、男の背後の少女達の反応に慣れているのか、気に留める様子もなく報告を淡々と続けていた。
 着物の女の隣には、床に触れるほどの長刀を背中に佩びた、目付きのとても悪い男が退屈そうにつっ立っている。
 この男も、後ろの少女がまるで静物であるかのように、何の興味を示さなかった。
 白鞘の刀を佩びた女性はシズク。長刀を佩びた男はカスミといい、共に剣客流という剣術の使い手である。
 イウラの民と呼ばれる彼らの多くは黒髪のため、邪なるものの血を継いでいると忌み嫌われているが、中年の男にとっては腕さえ立てば出身など気に留めるものではなかった。

「ちゅう事で。そろそろ、ファーヴニールはんが帰って来ますけど、迎えに行かはった方がええどすか?」

「ふむ。もうそんな時期だったか。」

 中年の男、ジェラルドは手入れをしていた剣を机に置いて、顎に蓄えた髭をしごきながら何やら思案し始めた。
 ジェラルドの治める黒剣は、表向きは傭兵や武器の調達を行う武器屋ギルドだが、裏では盗賊ギルドや暗殺者ギルドとしての顔も持つ。
 「黒剣」の剣称を持つファーヴニールは、裏の黒剣を束ねるリーダーであったが、グランツ王国の近衛隊長を務める「聖剣」のサウス・ウインド殺害のほとぼりが覚めるまで、ジェラルドが近隣諸国へ支部長として出向に出していた。
 近衛隊のサウス・ウインドは、グランツ王国の長女であるエレアノール王女と親しい仲であり、長男でファーヴニールの従兄弟の関係でもあるクロークス王子の野心に警戒を抱いていた。
 グランツ国王であるリューノが病に倒れて、次期王位の継承の噂が宮廷内で囁かれ始めた頃、次期国王の候補としてエレアノール王女を四伯に推したのがサウス・ウインドだった。
 国を守る要人に送られる「四つの風」と呼ばれる剣の一つを持つサウス・ウインドの信頼は高く、四伯とも交流のあるサウス・ウインドはクロークス王子の次期王位継承を脅かす存在となった。
 サウス・ウインドは表黒剣の取り纏め者でもあり、ジェラルドの信頼も厚かったのだが、ファーヴニールがクロークス王子との繋がりを持ち、エレノアール王女を支持する諸侯達を暗殺している内情を突き止めると、ファーヴニールの凶行を阻止すべく動いた。

 ジェラルドが事態を把握するよりも速く、サウスは暗殺者ギルド討伐を近衛隊の表向きの任務として、ファーヴニールの拘束を試みた。
 裏黒剣の本拠地へ突撃するも、一騎打ちに持ち込まれたサウス・ウインドがファーヴニールに討ち取られるという結果に終わり、近衛隊も撤退を余儀なくされた。
 国王リューノの信頼も厚かったサウス・ウインドの死の衝撃は大きく、権威ある四伯達の怒りの矛先が黒剣に向かわぬように、ジェラルドはファーヴニールを匿うために諸国へ出向させたのだった。
 
 三年も経てば、ほとぼりが冷めるだろうと見積もっていたジェラルドであったが、今度はクロークス王子が失態を犯して事態が急変してしまっていた。
 病に伏せたリューノ国王の原因が、クロークス王子の盛った毒の所為であると宮廷内で噂が広がり、功を焦ったクロークス派の諸侯達がクーデターを起こした。
 クーデターはサウス・ウインドを失って逆に結束力の強まった、エレアノール王女の率いる近衛隊「白羽根騎士団」に討伐され失敗に終わる。
 クロークス王子が捕らえられた今、ファーヴニールがクロークス王子の解放に向かう可能性が高く、組織の中では「聖剣」を討った者として求心力の高い彼が、ジェラルドの影を脅かす事は容易に想像できた。
  
「……潮時だな。ローゼスは、やはり俺には手が余る。クロークスの復権なぞに、手を貸すような下手は踏まんよ。エレアノールの下についたほうが、甘い汁を吸えるというものだ。」

 ローゼスとはファーヴニールの本名であり、育ての親とも言えるジェラルドや彼が信頼を置ける者しか口にすることのできない名前だった。

「ジェラルド。「黒剣」を斬れるなら俺にやらせろよ。一度ファーヴニールと死合ってみたかった。」

 さっきまで話に関心のなかったカスミが、眼を光らせて身を乗り出すかのようにジェラルドに言い寄った。
 カスミとシズクも裏黒剣の一人ではあるが、イウラの民の気質なのかあまりファーヴニールに忠誠心がある訳ではなかった。
 
「カスミはん一人ほな、手に余るでっしゃろ。うちも一緒にお供しましょか?」

 シズクがカスミに呆れた視線を向けつつ、ジェラルドに尋ねた。

「いや。お前たちの腕は信頼しているが、ローゼスは魔剣使いだ。剣の腕だけでどうにでもなるような相手じゃない。化物の始末は化物に任せるさ。」

「そら、残念ですな。カスミはん殺る気満々やったのに。ほして、その化けモンはよう来たはるんどすか?」

「ああ、後ろにいるじゃないか。二人にローゼスの迎えに行かせよう。シオンの最高傑作で、邪なるものも屠った実績もある。アウレアと、ルシリアで仕留められなければ、俺達がローゼスに殺される番になるが。」
 
 二人の少女はジェラルドの言葉に少しだけ反応すると、部屋に立てかけてあるそれぞれの得物を持って、軽く一礼だけすると音もなく部屋を出ていった。

「……そら、洒落にならへん、てんごですなぁ。」
 
 あんな華奢な小娘二人に何を期待しているのだろうと、カスミとシズクは顔を見合わせて首を傾げた。
 暫くすると、少女の一人が部屋に戻ってきて、ジェラルドのへとつかつかと歩み寄った。
 
「……相手の顔、教えてもらってない。」

「おっと、忘れてた。似顔絵はここにある。この男を狩って来てくれ。」

 ジェラルドの取り繕うような真剣な面持ちに、カスミとシズクは外の景色を眺める振りをして笑いを堪えていた。

明けましておめでとうございました

何今更ですが。

年賀絵の方はいつもお世話になっております、ENo.1351 サクラ・エゾヤマさんにお願いしました。
本当にありがとうございます。
mixiのマイミクさん宛の年賀状も、こちらの仕様でお出ししました。
好評でよかったです。

こちらがフルサイズ。

雪うさぎと深雪

雪うさぎも深雪もかわいく描いていただいて、ほっこりします。
ありがたや。

マフラーはENo.601 魔術商会のナナさんからXmasのプレゼントで頂いたものです。

アイコンもかわいらしかったです。
ありがとうございました。

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佐藤深雪

Author:佐藤深雪
いつから改装中だと錯覚していた?

なん だと…

アイコンは魔術商会さん(E№41)からいただきました。とても感謝なのです。

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深雪

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