FC2ブログ

2018-11

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

日記5、6日目

 壮言な管弦楽の音が鳴り響く広間。
 グランツ国王の結婚10周年を記念して、ここムスペルヘイム王宮では舞踏会が厳かに行われていた。
 グランツの貴族達が優雅にワルツを踊るなか、銀髪の女性はただ独り大理石の柱に背を預け、憂鬱げに人々の踊る姿を見つめていた。
 彼女の名はアンネリーゼ・ニフルハイム。北限の勇、フレースヴェルグ伯爵の妻であり、フロストロードと呼ばれる優秀な成績で魔導を修めた魔術師でもある。

「お身体の調子が宜しくないのでしたら、お部屋までご案内しますよ。」

 伯爵夫人がふと声の主へと視線を向けると、見覚えのある紫の目と藍色の長髪の男が立っていた。
それが夫、フレースヴェルグの従兄弟である事に気付くと、彼女は柔らかな微笑みを浮かべて彼に駆け寄った。

「お気遣いありがとう、ヴォルフラム。別に疲れてる訳じゃないわ……ただ、みんな楽しそうに踊っているから羨ましくて拗ねていただけ。」

 ヴォルフラムと呼ばれた細身の男は苦笑いしながら大広間を見回すと、何処にもフレースヴェルグ伯爵の姿がない事を知り、溜息をついた。

「なんて事だ。ニフルハイム伯爵はアンネリーゼ様を置いて、部屋に戻られたのですか。従兄様らしいといえばらしいですが……もう少し気を利かせてくれてもいいのに。」

「慣れたつもりでも、放って置かれると寂しくて……ね。ヴォルフラムはニフルハイムの男なのに、本当に変わってるわね。みんな武勲にばっかり執着して、舞踏会になんて誰も出ないのに。」

 伯爵夫人はからかう様な目で彼を見つめた。

「あはは……僕は生まれつき身体が丈夫じゃ無かったもので。これで音楽の才も全く無かったら、こうやって呑気に音楽家なんてやらせてもらえなかったでしょうね。」

 ヴォルフラムは、頭を軽く掻きながら苦笑いをした。

「親切な方からは踊りましょうって誘われはしたけど、実は断ったの。私は魔法を修めただけの田舎娘だから……殿方の足を踏みつけてしまっては失礼でしょ。」

アンネリーゼはおどけて、口元に指をあてて見せた。

「僕の足ならいくら踏みつけても構いませんよ。壁の花になるには勿体ない。ニフルハイムの美しい華の存在を皆にお披露目しなければ。」

 ヴォルフラムは優しく微笑むと、彼女の手をとった。

「ねぇ、ヴォルフラム……今宵だけでいいから、私の恋人を演じてみる気はないかしら?」

「……それが貴女の望みでしたら、喜んで。」

「一夜限りの夢でも構わないわ。それでも私は永久にすることができるもの。」

 壮言な管弦楽は鳴り響き、二人は踊りの輪の中へと滑り込むように消えていった。 5日目日記 Another Side

「嗚呼、ひどく退屈ね。」

 そう呟く彼女の言葉は、壮言な管弦楽の音にかき消されて誰の耳にも届かない。
 今宵は、グランツ国王の結婚10周年の記念日。
ここムスペルヘイム王宮では、近隣貴族達を招いての舞踏会が厳かに行われていた。
 退屈な時間は、まるで周りの時間が止まっているかのように進む気配が感じられない。
 銀髪の女性は緋色の目を曇らせながら、大理石の柱に背を預けると、広間で踊る人影と懐中時計の針をしきりに見比べては溜息を漏らした。

 彼女は北限の勇、フレースヴェルグ伯爵の妻であるアンネリーゼ・ニフルハイムの変り身としてやってきたアンネリーゼの妹のアンネローゼ。
 アンネリーゼはフロストロードのとある計画に重要な役割を果たす人物。
 グランツへ赴く事で、万に一の危険にも晒される訳にはいかなかった。
 舞踏会がニフルハイム領内であれば、魔導師集団であるフロストロードが宮廷内を随時監視するため替え玉など必要ないが、ここはグランツ国王の膝元。
 フロストロードがいくらニフルハイムで権威を持とうと、グランツの王宮へ許可なく入る事は許されていない。
 
 そのため、フロストロードに籍を置く妹のアンネローゼは、フレースヴェルグの承諾の元、彼に付き添いアンネリーゼとして妻を演じる事となった。
 姉妹は変装も魔法も用いずともそれほど変わらない容姿であったため、今までに彼女が社交場に出席してそれをアンネローゼだと気付く者はいなかった。
 ただし、今宵は舞踏会。
 習ってもいない舞踏で醜態を晒す訳にもいかず、アンネローゼは壁の花としてただ時間を過ごす事しかできなかった。

「姉さんだったら……もう少し楽しめたのかも。」
 
 魔術以外学んだことのないアンネローゼに対して、アンネリーゼはフレースヴェルグに嫁ぐために最低限の作法と教養は身につけていた。
 同じ家系に生まれながら、自分は姉の身代わりでしかない事を想うと、テーブルに並んだ料理の美味しさを加味しても、憂鬱な気分にしかなれなかった。

「お身体の調子が宜しくないのでしたら、お部屋までご案内しますよ。」

 伯爵夫人を装う彼女が、ふと声の主へと視線を向けると、どこかで見覚えのある紫の目と藍色の長髪の若者が気遣うように傍にやってきた。
 アンネローゼは、彼がフレースヴェルグの従兄弟である事を思い出し、柔らかな微笑みを浮かべて彼に軽く会釈した。

「お気遣いありがとう、確か……ヴォルフラムでしたね。別に疲れてる訳じゃないわ……ただ、みんな楽しそうに踊っているから羨ましくて拗ねていただけ。」

 アンネローゼが彼に適当に話を合わせると、ヴォルフラムは苦笑いをして辺りを見回した。
 踊りの輪の中にフレースヴェルグ伯爵の姿がない事を確認すると、彼はアンネローゼに向き直って溜息をついた。

「なんて事だ。ニフルハイム伯爵はアンネリーゼ様を置いて、部屋に戻られたのですか。従兄様らしいといえばらしいですが……もう少し気を利かせてくれてもいいのに。」
 
 親身になって語りかけるヴォルフラムをアンネローゼは少し気の毒にも思ったが、あまりにも真剣な表情が可笑しくて、ついからかいたくなってきた。

「慣れたつもりでも、放って置かれると寂しくて……ね。ヴォルフラムはニフルハイムの男にしては、本当に変わってるわね。みんな武勲にばっかり執着して、舞踏会になんて誰も出ないのに。」

 アンネローゼは心の中では笑いを堪えながら、悲劇の妻を演じてみせた。

「あはは……僕は生まれつき身体が丈夫じゃ無かったもので。これで音楽の才も全く無かったら、こうやって呑気に音楽家なんてやらせてもらえなかったでしょうね。」

 ヴォルフラムは、頭を軽く掻きながら苦笑いをした。

「親切な方からは踊りましょうって誘われはしたけど、実は断ったの。私は魔法を修めただけの田舎娘だから……殿方の足を踏みつけてしまっては失礼でしょ。」

 アンネローゼはおどけて、口元に指をあてて見せた。

「僕の足ならいくら踏みつけても構いませんよ。壁の花になるには惜し過ぎます。ニフルハイムの美しい華の存在を皆にお披露目しなければ。」

 ヴォルフラムは優しく微笑むと、彼女の手をとり引き寄せた。
一瞬、アンネリーゼは自分が伯爵夫人を演じている事を忘れ、彼の紫の瞳を魅入られたように覗き込んで彼の胸元でそっと囁いた。

「ねぇ、ヴォルフラム……今宵だけでいいから、私の恋人を演じてみる気はないかしら?」

 彼女の言葉に一瞬、ヴォルフラムは考え込んだ表情を見せたが、次の瞬間にはアンネローゼに微笑みを返した。

「……それが貴女の望みでしたら、喜んで。」

 アンネローゼは、伯爵夫人としてはあるまじき言葉であったと我に返って後悔はしたが、それとは別に心に芽生えたときめきを抑える事ができなかった。
 一度紡いだ言葉は戻らない。今日の出来事は私の心に仕舞っておけばきっと大丈夫。
 アンネローゼは自分にそう言い聞かせて、彼との限られた時間を楽しむことにした。

「一夜限りの夢でも構わないわ。それでも私は永久にすることができるもの。」

 なにも言わず頷くヴォルフラムに、彼女は最高の笑顔で微笑み返した。
 
 壮言な管弦楽は鳴り響き、二人は踊りの輪の中へと滑り込むように消えていった。



かくして悲劇はこれより始まる。
スポンサーサイト

● COMMENT ●


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://mementomorinomaigo.blog81.fc2.com/tb.php/124-d26f26b0
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

1年以上寝かせてあった «  | BLOG TOP |  » 日記7日目

リンク

プロフィール

佐藤深雪

Author:佐藤深雪
いつから改装中だと錯覚していた?

なん だと…

アイコンは魔術商会さん(E№41)からいただきました。とても感謝なのです。

ノウァ
ファーヴニール
深雪

とことこ

最近の記事

カテゴリ

辺境地域(キャラのホーム世界設定) (4)
辺境黒歴史(ホーム世界の歴史) (3)
偽島2期日記 (25)
Fallen Island (2)
いただき物 (2)
オリフ (32)
ネヴァ (8)
カーズ (25)
偽島1期(TiA) (20)
カーズの日記 (1)
ティアの交換日記 (1)
おりふぃ (14)
偽島3、4期日記 (46)
六命表日記 (14)
六命裏日記 (9)
精霊日記 (19)

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。