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2018-09

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日記8日目

 北限の地、ニフルハイムの空は一年中薄暗い雲に覆われ、日中でも太陽が顔を見せる事は殆どない。
 雲ひとつない夜空も同様に稀で、星空の見える日には天体観測をするのが二人の習慣だった。
 姉のアンネリーゼがニフルハイム家に嫁いでからもそれは変わらず、姉はフレースヴェルグ伯爵が寝静まった後、夜中に寝室を抜け出してニフルハイムの館のテラスで私と落ち合った。
 
 フロストロードの魔道師の一人として館への行き来は許されてはいたが、アンネリーゼの妹である事を公にはできないため、フロストロードの塔を出るときは常に深くフードを被り容姿を隠していなければならない。
 夜空を眺める前には必ずテラスに人払いの結界を準備し、誰もテラスに立ち入れない事を確認したあと、私はようやくフードを取ることができた。

「お久しぶりね、ローゼっ。元気そうで何よりだわ。」

 一緒にフロストロードの塔で魔術を学んでいた時より、少しやつれたように見える姉は、自分よりも私の身体の事をいつも気に掛けた。

「お会いできて嬉しいです、リーゼ姉様。私の方は相変わらず……退屈な塔の中で書物と研究に埋もれる毎日ですわ。」

 変り身として私がフレースヴェルグ伯爵と、何度も諸国を同行している話をアンネリーゼは知らないし、周囲から知らされることはない。
 それは姉に余計な心配を掛けまいとするフロストロードの意向によるものだが、その余計な足枷によって私は姉に隠し事をしなければならなくなった。
 姉は星々の点を線で結んだ星座の話が好きで、星座に纏わる物語や伝説を楽しそうに私に話した。
 少女趣味の姉の話に合わせて相槌を打ちながら、私は純粋に夜空の景色を眺める事を楽しんだ。

「ねぇ、聞いてるの?ローゼったら……一つの事に集中しちゃうと、いつもそうなんだから。」

 頬に姉の指が当たるのに気付き、夜空に魅入っていた私は姉の話しすら上の空だった事に気づいて苦笑した。

「ごめんなさい、お姉様。つい夜空に魅入ってしまって。それで……何のお話でしたの?」

「だから、ヴォルフラムって言うの。フレースの従弟で、紫の瞳がとても綺麗で優しくて……この前は私が落としたイヤリングを一緒に探してくれたのよ。」

「え?」

「え?」

 オウム返しに、私の言葉に首を傾げるアンネリーゼ。
 瞳を輝かせた姉の口から、思いもがけぬ名前を耳にした私は言葉を失った。

「彼って、ニフルハイム家の男にしては変わってるのよ。詩が上手で、踊りが得意で……年も同じぐらいだから、気が合うのかしら。」

「リーゼお姉様はその……ヴォルフラムと言う人が好きなんですか?」

 動揺する気持ちを悟られまいと、なるべく平静を装い私は姉の方を見た。
 アンネリーゼは微笑みながら首を傾け、私の言葉を肯定した。

「ええ、さっきそう言ったのよ。もう、ローゼったら、本当に話を聞いてなかったのね。」

「お、お姉様!そんな事がフレースヴェルグ様に知られてしまったら、姉様の命にも係わります!考え直してください!」

 姉の肩を強く掴み、思わず大声で私は叫んだ。
 アンネリーゼは突然の出来事にやや茫然としたものの、肩を掴んでいだ私の手に柔らかい手を優しく重ねた。

「ローゼったら、落ち着いて……ね。あなた、今日は少しおかしいわよ?」

 アンネリーゼは心配そうに、私の顔を覗き込んだ。
 私は心の内を見透かされている気分になり、思わず顔を伏せて姉から視線を逸らした。

「はい……私ったら何を勘違いしてたのかしら。心配させてしまってごめんなさい。」

 リーゼ姉さんに限って浮気などできる人ではないと、私は改めて思い出した。
 それよりも、姉の名を偽ってヴォルフラムとの逢瀬を重ねた事がフロストロード知られた時の事を想定すると背筋が凍るのを感じずにはいられなかった。

「そろそろ冷えるから帰りましょう、リーゼお姉様。また、夜空が晴れた時にここで。」

「ええ、そうね。ローゼの手……とても冷たくなっているもの。風邪を引かないうちに部屋に戻りましょう。」

 結局、あれからアンネリーゼに気配を悟られるのを恐れた私は、彼女と別れるまで視線を合わせる事ができなかった。




 ―数日後。
 私は手紙を書いてニフルハイムの郊外にヴォルフラムを呼び出した。
 銀髪の髪に赤色の目、姉が少しやつれている事以外に殆ど見た目は変わらない私は、フロストロードには内緒で姉、アンネリーゼの振りをした。

「アンネリーゼ様からお誘いを頂けるなんて光栄ですね。このような場所に呼び出されたという事は何か、悩み事でもありましたか?」

 藍色の髪に紫目の青年ヴォルフラムは、私の手紙をアンネリーゼのものと疑うことなく一人で郊外の丘までやってきた。
 手紙は、ニフルハイム家の封蝋を用いたので疑う余地は無いのだが、無断でニフルハイム家の紋章を使用した後ろめたさで私は早々に彼と話を済ませて立ち去りたくなっていた。

「わざわざ来てくれて感謝します、ヴォルフラム。実は……最近ね、あなたとの仲をフレースに疑われているの。」

「それは……僕の事は未だしも、アンネリーゼ様にご迷惑をお掛けする訳にはいきませんね。」

 ヴォルフラムは額に手をあて少し考え込むと、意を決したように頷いて私を真剣な眼差しで見つめた。

「アンネリーゼ様は如何様にお望みですか?私はアンネリーゼ様にご迷惑をお掛けする訳にはいきませんので、明日にでも此の地を去ろうと思います。」

 ヴォルフラムの言葉に、私は慌てて彼を制した。

「ま、まって!その……まだ、噂程度の話でフレースには気付かれていないとは思うわ。ただ……館では出来るだけ私に係わらないように接してほしいの。これはヴォルフラム、あなたの為でもあるのよ。」

そう。
 姉のアンネリーゼにさえ近付かなければ、ヴォルフラムとの仲をフロストロードや姉に知られる事も無い。
 そして、彼にも疑いが掛る事は無いのだ。
 ヴォルフラムは私の言葉に少し驚いた表情をしたが、口元に手を当て考え込むような仕草でアンネローゼのほうを見た。

「それがあなたのお望みならば、仕方ありませんね。でもいつの日か、アンネリーゼ様の苦悩の枷を僕が断ち切りますので、それまで暫しの間お待ちください。」

 雪の降る丘で膝をつき深々と頭を下げるヴォルフラムに、私は思わず駆け寄って肩に積もった雪を払った。

「無茶はしないで、ヴォルフラム!私は人目を忍んで貴方に会えるだけでも幸せなのよ。元気を出して……ね。」

「また、ここで……お逢いできますか?」

「え?ええ、また逢いましょう。」

 成り行きとはいえ、また余計な約束を彼と交わしてしまった事に私は少し心を痛めたが、彼を護る為の嘘だと自分に言い聞かせて心を落ち着けた。
 
 これは仮初の幸せ、いつか終わりが来る。どこかで終わらせないといけない。
 この先に訪れる不安を漠然と私は感じていたが、ただヴォルフラムと一緒に居る安らぎが心地良くて、いつしかその不安を心の隅に追いやってしまっていた。
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