2018-07

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日記10日目

喪った真実から目を背けて


見ないふりをしていても現実が追いかけてきて


それでも後戻りはできなくて


知らなければ先に進めなくて


いっそここから消えたくなる




「人がいっぱいいる場所って……なんだか、落ち着かない。」

 赤い薔薇のコサージュを髪と胸元に一輪、白いドレスを纏った彼女の姿は周りの視線を集めるのに十分な華やかさであったが、それがかえってオリフィエルを気後れさせる結果となった。
 周りの視線を避けるように、壮厳な管弦楽の調べに合わせて踊る人々の輪を離れ、オリフィエルは知らず知らずのうちに壁の隅へと背中を預けていた。
 オリフィエルは踊りや歌を父から稽古を受けてきたが、実際に舞踏会に臨むのは今夜が初めて。
 鏡面世界の静寂の中で一生を暮らしてきたオリフィエルにとって、舞踏会の喧騒は未知の恐怖であった。

「気分が優れませんか?もし、具合が宜しくないのでしたらお部屋までお送りしますが。」

 ふと、声を掛けられたオリフィエルが振り向くと、オリフィエルと同じ紫と赤の眼をした長髪の眼鏡の男が笑顔を浮かべてそこに立っていた。

「あ、大丈夫です。私、こういう場所が初めてなので……お気遣いありがとうございます。」

 男の眼を興味深く見つめていたオリフィエルは、我に返って恥ずかしそうに目を伏せながら男にお辞儀をした。

「そうですか、それではフロイラインローゼが緊張するのも仕方のない事です。私とでよろしければ一緒に踊ってくださいませんか?」
 
 男の差し出す手にオリフィエルはコクリと頷いて、手を差し出した。
 二人が踊りの輪に加わると、周りの群衆はあまりの流暢で華麗な舞いに感嘆の溜息を漏らした。
 紫の長髪の男は踊りの間にも気の効いたお世辞をオリフィエルの耳元で囁くため、彼女は気恥ずかしさを我慢しながら、踊りに集中しなければならなかった。
 男は最初のうちは彼女をリードしていたものの、緊張気味だったオリフィエルが少しずつテンポを合わせていくにつれ、自分の足元が覚束なくなっていくのを感じて苦笑するしかなかった。

「そろそろ、踊り疲れたでしょう。少し休みましょうか?」
 
 長髪の男の言葉にオリフィエルはまだ踊りたそうな輝いた目をさせながらも、「はい。」と微笑んで頷いた。


 二人がテラスへ向かうと、テーブルで本を読みながら紅茶を飲む貴族の男装をしたオリフラムの姿があった。

「お久しぶりですね、オリフ。相変わらず健康そうで何よりです……そしてまたカッコよく……いえ、美しくなられましたね。」
 
 長髪の男はオリフィエルの手を引いたままオリフラムに対して軽く声を掛けると、オリフラムは本から視線を外し、座ったままで長髪の男とオリフィエルの方を見た。

「ファウも相変わらずの調子みたいで何より。実は相談があって、私の従妹の事なんだけど……ちょうど連れてきたんなら都合がいいや。」

 ファウストはオリフィエルとオリフラムを見比べながら、「ほぅ。」とか「なるほど。」などと呟きながら何度も頷いた。

「あなたはオリフの従妹さんでいらっしゃいましたか。なるほど、踊りが素晴らしいのも頷ける。私はオリフの恋人のファウスト・ヴァレスティと申します。ファウとお呼びください。」

「いや、全然恋人じゃねーから。とりあえず、オリフィもファウに挨拶しといて。」
 
 オリフラムが手を振って呆れ顔をしていても、ファウストは微笑んだままオリフィエルの耳元で「いつもの事です。」と囁いていた。
 オリフィエルがファウストに自己紹介を済ませた後、二人はオリフの座るテーブルについた。

「実は、ファウに力を貸してもらおうと思って。この子……今度、偽島の探索に行くんだよ。」

 オリフラムは隣の席に座るオリフィエルの頭を軽く手で引きよせてると、ポンポンと叩いた。オリフィエルは突然の事にキョトンとしていたが、頭を傾けながらファウストの方を上目遣いで見た。
 
「なるほど、あの島に行くのですか。ですが、オリフの頼みとは言え無償で力を貸すわけにはいきません。私も悪魔ですので……相応の対価を頂かないと。」

 テーブルの上に肘をつき手を組みながら、ファウストは品定めをするようにオリフィエルを見つめた。オリフィエルはファウストに向けられた視線に怯むように、視線を逸らして身を強張らせた。

 「オリフィ、利用できるものは悪魔でも利用するんだ。偽島に行くのにそんな弱気じゃ到底やっていけないぞ?」

 オリフラムが強気な笑顔でオリフィエルにそう言うと、ファウストも笑顔で頷いた。

 「そうですよ、オリフは力を手に入れる為に胸を対価に支払ったぐらいですからね。」

「え……そうなんですか?」

 驚いた表情をオリフラムに向けるオリフィエルに、ファウストは思わず吹き出して肩を震わせた。

「ばっ……な訳ないだろ!?ってか、オリフィも信じるなよ!?」

 ファウストを睨みつけつつ、オリフラムは照れ隠しなのかオリフィエルの頭を掴んで揺さぶった。

「オリフのそういう所、好きですよ。さて……オリフィエルさん。契約についてですが、価値の高いものを捧げるほど、相応の力を貸す事ができます。寿命や若さというのも価値の高いものですが、オリフの従妹さんから頂く訳にもいきません。あなたは何を私に下さいますか?」

 ファウストの問いに、オリフラムの手から解放されたオリフィエルは暫く考え込んでいたが、やがて意を決したのかファウストの方を見つめた。

「ファウストさん……それでは私の歌と舞踊を捧げると言ったら、それは対価になりますか?」

 ファウストは少し驚いた表情を垣間見せたが、すぐにいつもの笑顔に戻るとオリフィエルに頷いた。

「そうですね、先ほどの舞踏は素晴らしいものでした。オリフィエルさんの歌もここでお聞かせ願えますか?あなたの歌う最後の歌となりますが。」

「オリフィ……オリフィにとってそれは命ぐらいに大切なことじゃないのか?もう少しよく考えなよ……一生歌ったり踊ったりできなくなるかもしれないんだぞ?」
 
 オリフラムの言葉にオリフィエルは首を振ると、笑顔で答えた。

「はい、歌で世界が救える訳じゃありませんから。」

「ほぉ……歌で戦ってきた私に喧嘩売ってるだろ……お前。」
 
 顔が引きつるオリフラムとその表情に呆気にとられたのオリフィエルの間に割って入ったファウストは、オリフラムを宥めながらオリフィエルの方に向き直った。

「まぁまぁ、オリフは落ち着いて。それではオリフィエルさん、その自慢の歌声をお聞かせ願えますか?」

 ファウストの言葉にオリフィエルは黙って頷いた。
 オリフィエルは席を立ち深呼吸をすると、テラスに響き渡るくらいの声で心地良さそうに最後の歌を披露した。
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