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2018-12

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日記13日目

 ニフルハイム荘園より北に少し離れた、雪が降り積もる針葉樹の森に魔女の洋館はあった。
 
 雪の合間から所々見える古い赤レンガ造りの壁は、ツタが鬱蒼と生い茂り、まるで来るものを拒むかのような雰囲気を醸し出している。
 冬にも関わらず奇妙な形のキノコやシダの生い茂る庭には、館にそぐわない豪華な装飾の施された大きなソリが停められていた。
 来客は既に館の中に居るらしく、ソリに残された従者と犬達は退屈そうに欠伸をしながら、陰鬱な雰囲気の館を眺めていた。

「ねぇ、この鏡で何処へでも行けるって本当なの?」

 黒髪の少年は紫の瞳を輝かせながら、壁に立て掛けられたくすんだ鏡を指さして、白髪混じりの年老いた魔女に訪ねた。
 樫の木のベッドに半身を起した魔女は、少年の突然の言葉に少し片眉を上げるが、無愛想な表情のまま少年の方を見た。

「……本当でもあるし、嘘でもある。その鏡がお前の姿を映す時が来れば、それも叶うだろう。ただし、帰って来れなくなっても知らんぞ。」

 少年は袖でくすんだ鏡を拭いながら覗き込んだが、鏡面は周りの景色は勿論、目の前に居る少年の姿も全く映しださなかった。

「え、戻って来れないの?それはヤダなぁ……せっかく、オリフィエルお婆ちゃんとお稽古ごとのない世界に行きたかったのに。」

「……そんな暇な世界に連れていかれても困る。ところで、その話は誰から聞いたのだ?私が誰かに話した覚えは無いのだが。」

「うん?この家に居るドラクロワっていう女の子から聞いたんだよ。お婆ちゃんの知り合いじゃないの?」

 独り暮らしの魔女の館に住むのは使い魔の黒猫ぐらいで、あとは時折森から来る小動物が館に迷う込む程度である。
「そんな知り合いは居ない。」と魔女は答えそうになったが、何となく思い当たる節があったので思い留まった。

「その女の子はまだ館に居るのか?ヴォルフラム、案内してくれ。」
 
 魔女の言葉に少年は笑顔で首を振った。

「ううん。用事があるって、お外に行っちゃったよ。近くの家の子なの?外は寒いのに、あんな服装で大丈夫なのかな。」

 少年は何も映らない鏡に飽きたのか、魔女の寝室に無造作に置いてある奇妙な道具や置物を物珍しそうに手に取って眺めだした。
 少年は手に取った置物や奇妙な道具について片っ端から聞いてくるため、いちいち答えるのが億劫になってきた魔女ではあったが、その目は心なしか笑っているように見えた。

「壊しても構わんが、怪我だけは気をつけるんだぞ。さて……そろそろ帰る時間ではないのか。母上が心配しないうちに戻った方がいいだろう。」

「ええっ……まだ大丈夫だよ。だって、オリフィエルお婆ちゃんともう少し居たい。」

 少年は口を尖らせて不満げな表情で魔女を見詰めたが、魔女は表情を変えずに首を振った。

「その気持ちは受け取るが……私がお前のお母様に怒られる。」

 少年は暫くは駄々をこねていたが、魔女の態度が変わらないので、手に取っていた奇妙な道具を元の位置に片付けると渋々帰りの支度を整えた。

「また遊びにくるね。オリフィエルお婆ちゃん。いつもの約束っ。」

 少年が小指を差し出し、指きりの仕草をすると、魔女は少し目を伏せながら少年の手を握った。

「……すまないが、私は暫く旅に出かけなくてはならなくなった。すぐ戻って来れないかもしれないから、約束はできない。また今度にお預けで良いか?」

 魔女は少年の髪を撫でながら静かにそう言うと、起こした半身をベッドに戻した。

 「えー、いつ帰ってくるの?帰ってきたら手紙ちょうだいね。約束だよ?」

 「ああ、帰ってきたら連絡する……必ずな。」

 
 窓越しに見える、ソリの上から館に手を振りながら去ってゆく少年の姿を見送ったあと、魔女は深い深呼吸と共に目を瞑った。
 暫くして暖炉にくべた薪も灰に近づくと、部屋の隙間から冷え込んだ空気が入り込むせいか、魔女の吐く息も白くなり始めた。
 
 「さて、少し話しておきたい事がある。出てきてもらおうか。」

 魔女は目を瞑ったまま、誰も居ない筈の扉の向こうに語りかけた。
 扉の向こうからはノックと共に、貴族風の服装をした緑目の男が恭しく頭を垂れながら魔女の眠るベッドの傍までやってきた。

「よくお気づきで。折角ですから、リンゴでも剥きましょうか?」

「悪いがリンゴを食ってる暇も惜しい。私に時間が無い事ぐらい察してると思ったのだが、私の見込み違いだったのか?」

「……相変わらず手厳しいですね。貴女とお話をしながらリンゴを頂く時間はあると言う事ですよ。信じていただけませんか?」

「疑っても仕方がないが、それは悪魔の言う台詞ではないな。」

 男はベッドの脇のテーブルに置いてあったリンゴを、手際良く果物ナイフで剥いて薄く切ると、その一つを魔女のほうに差し出した。
 魔女はベッドから半身だけ身体を起こすと、リンゴを受け取って男の方を向いた。

「そこにある移送鏡の事だが、お前に譲ろうと思う。」

 魔女の突然の言葉に、男は驚いた様子で目を丸くした。

「それは光栄ですが、わたくしが頂いても宜しいのですか?貴女なら他に頼れるあてもあるかと思うのですが。」

「移送鏡を壊そうとした人などあてにできるものか。少なくてもテーセウスに預けておけば、鏡が壊れる事は無いだろう?」

「確かに……そういう意味では信用していただいても構いません。本当にオリフィエル様はあの鏡の事が大事なのですね。何か想い入れでもあるのですか?」

 テーセウスと呼ばれた男の問いに、魔女は目を細めながら何かを思い出すように呟いた。

「その移送鏡は師匠の形見でもあるのだ……私も鏡の素材集めの旅に師匠と各地を飛び回って苦労したものだ。他の連中が造った移送鏡とは出来が違う。」

「なるほど。ただの移送鏡ではなく、思い描く世界を創り出す鏡となれば世界に唯一無二と言っても良いでしょう。」

 男の言葉に魔女は片眉を少し上げたが、無愛想な表情は変えずにリンゴを一口齧った。

「鏡の向こうに箱庭を作る程度の力だ。別に、たいしたことではない……問題は一度空間を創り出すと再び魔力を蓄えるまで、鏡としても機能しないガラクタになると言う事だな。」

 男は壁に立て掛けられた、くすんだ鏡を覗き込み「確かに。」と頷いた。

「誰かに預けて、棄てられても困りますね……それでは暫くのあいだ、この鏡をお預かりしましょう。」

「預ける?私が鏡を引き取りに行けるわけがないのに、奇妙な事を言うものだな。」

 首を傾げる魔女に、テーセウスは口元をややつり上げて答えた。

「オリフィエル様のご子息がお使いする日まで、大切に保管させていただきますよ。」

「ヴォルフラムが使うとでも言いたげな様だが、そんな日は来ないから安心して持って帰るといい。」

「その日が来ないとは限りませんよ。賭けますか?」

「テーセウスがヴォルフラムを誘惑しないという条件でなら、な。」

 ベッドの傍に近寄って見つめるテーセウスに、オリフィエルは目を逸らさずに見つめ返した。

「その条件を飲みましょう。賭けは成立ですね。」

「……余命幾許もない私に、賭けるものなどあるものか。」

「そうですね。私が勝ったら貴女の笑顔を見せていただけませんか?前払いでも構いませんよ。」

 笑顔で答えるテーセウスにオリフィエルは視線を逸らすと、ふてくされる様にベッドに横になり目を瞑った。

「くだらん……そんなもの、地獄で幾らでも見ればいい。」

 それが魔女の最後の言葉となった。


 ―残念ながら、貴女の召される処は天国だったようです。

 年老いた魔女との会話をテーセウスは想い返し、曇った空を見上げながら心の中で呟いた。

「あの……どうかなされましたか?」

 テーセウスの様子を不思議そうに、紫と赤の目を持つ少女は窺った。

「いえ、何か降ってきそうな気配でしたので。どうやら気のせいだったようです。」

「そうですか。テーセウス様が急に空を見るので、雪でも降ってくるのかと心配してしまいました。」

 年老いた魔女と同じ名を持つ少女は、テーセウスの言葉に上目遣いで微笑んでいた。
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