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2018-09

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日記17日目

「ねぇ、ヒスカ。良かったら一緒にバレンタインのお菓子作らない?」
 
 ―バレンタインデー
 それは偽島に伝わる恒例行事。
 伝承では女性が想いの相手にチョコレート等のお菓子を渡す日とされている。
 
 私にとってお菓子作りは初めてで、お母様の手伝いを少したぐらい程度の経験しかない。
 ひとりで悩むより、一緒にお菓子作りをした方が上手く行くかもしれない。
 そう考えた私はちょうどテントに遊びに来ているヒスカをお菓子作りに誘ってみる事にした。

「うん、もちろん喜んで!おりふぃと一緒にお菓子作りができるなんて楽しみ!」

 目を細めて微笑むヒスカが声を弾ませるのを見て、彼女を誘って良かったと心から思った。
 
「良かった。お菓子の材料は遺跡外に出た時に買ってあるんだよ。明日、ヒスカは服が汚れないようにエプロンだけ準備して来てね。アランさんやバレットさんには勿論内緒だよ?」

 私は人差し指を口元に宛て微笑む。
 あと一人男の子が居たような気がするけど、影が薄くて名前が思い浮ばなかった。

「うん、バレットやアランには内緒にしておくね。今から楽しみだなぁ、早く明日にならないかなー」

 翌日、エプロンを持参してきたヒスカがやって来たので、私はテントの外に用意した簡易的な調理場に彼女を案内した。

「今日はチョコレートマフィンを作ろうと思ってるんだよ。料理の得意じゃなかったお母様が私に作ってくれたのを見た事があるから、私達が作ってもきっと難しくないと思う。」

 笑顔で言う私に、ヒスカは少し眉をひそめると、こちらの方を見た。

「え、おりふぃはもしかして、お菓子作りが初めてなの?」

「うん、初めてだよ。ヒスカはエキュと一緒にお菓子作りをしてるかなと思って誘ったの。私ひとりじゃ不安だし、一緒に作った方が楽しいかなって。」

「あ、うん。確かにエクと一緒にお菓子は作ったりはしたけど……私は摘み食い担当で、ほとんど手伝ってなかったから。」

「……。」

「……。」
 
 無言で見つめあう二人。
 長い沈黙と静寂が二人の刻を支配した。

「あ、でもっ!二人で頑張ればきっとお菓子ぐらいできると思う!」

 ヒスカの根拠のない励ましは、私の心に何か自信を持たせてくれた。

「うん、ヒスカと私が頑張るんだもの、きっとできるよ。一緒に頑張ろう!」

 私は予め昨日お菓子作りの本から書き写したレシピをヒスカに手渡した。

「この通りに作ればいいだけだから、難しくは無いと思う。って……どうしたの、ヒスカ?」

 私の書いたレシピを見詰めていたヒスカは、やがて首を傾げながら私の方を見た。

「おりふぃ……これ、何て読むのかな?」

「あぁ、ごめんっ!鏡を見ながら写していたのを忘れてた!今、書きなおすから待って!」

 私は慌ててメモを取り出すと、手鏡を取り出し鏡文字を正しい文字に書きなおした。

「本当に、大丈夫……かなぁ。」

「よしっ、善は急げ!早速お菓子作りを始めよう!」

 ヒスカの不安そうな呟きが聞こえた気がしたが、私は聞こえないふりをして材料の準備を進めた。

「柔らかくなったバターに砂糖を混ぜてかき混ぜて、っと。ヒスカはその間にそっちのチョコレートの湯煎をしておいてくれるかな?」

「うん、湯煎ね。分かった。ねぇ、おりふぃ……湯煎って何?」

「えーと、直接火を掛けないで、温めたお湯で間接的にチョコレートを溶かすんだよ。その容器にチョコを入れてお湯に置いておけば大丈夫。あれ……私どこまで材料入れたんだっけ。」

「おりふぃ、お砂糖と塩を間違えるなんて、お約束はしなくていいからね。」

「だ、大丈夫!ちゃんと入れる前にちょっと舐めたからっ!あとは卵と牛乳を混ぜるだけ……いっぱい混ぜた方がいいよね。多分。」

「ねぇ、おりふぃ。このチョコレート、溶かさなくても美味しいよ?」

「ヒスカ……少しならいいけど、あまり食べちゃうとただのマフィンになっちゃうからね。」

 私は卵と牛乳をしっかり混ぜ合わせた生地に、ヒスカが湯煎して溶かしておいたチョコを混ぜ加えた。

「ええと、あとは仕上げに何を入れるんだったかな。」

「きっと膨らませるから、ふくらし粉だよ!重層ってここにあるから、これを入れるんだよね?」

「あ、うん……でもレシピに薄力粉って書いてあるから、こっちを使おう。」

 粉を混ぜて出来上がった生地を、ヒスカと一緒に小さなカップに流し込む。

「そういえば、おりふぃ。オーブンが見当たらないんだけど、どうやってお菓子を焼くの?」

 ヒスカの質問に、私は大きな鉄の鍋を掲げた。

「じゃーん!それは、これ。ダッジオーブンを使います。熾した炭を蓋の上にも乗せて、オーブンの代わりにするんだよ。これは、なんでもできる魔法の鍋なんです。」

「へぇ、すごい。でも、それなら最初から素材だけをそこに入れて、下拵えしなくても良かったんじゃないかな?」

 ヒスカの鋭いツッコミに、私は鍋を掲げたまま硬直した。

「うん、ごめん。魔法の鍋というのは比喩で、普通の鍋なの。オーブンの代わりにもなるって意味で……ごめんなさい。」

「え、おりふぃがどうして謝るの!?よく分からないけど、元気を出してっ!」

「だ、大丈夫。とりあえず炭を熾そうか……火加減が結構難しいと思うから、マフィンを焦がさないように気をつけないとね。」

 熾した炭に鍋を掛け、鍋の蓋にも炭を乗せて待つこと、数十分。
 蓋をあけて出来上がったマフィンのようなものは、表面が真っ黒に焦げた塊だった。
 その塊は合成で作った“どうしようもない物”にも見えなくもなく、料理と合成を間違えたのかと疑うぐらい黒い塊だった。

「……おりふぃ、これは食べても大丈夫なものなのかな?」

「……うん、素材は食べられる物だし、食べられる……はず。」

 私が試しに竹串をマフィンに刺すと、見事に竹串は折れた。
 もう一度慎重に竹串を刺すと、固い表面とは違って中身はぐにゃりと半生な感覚を手に伝え、引き抜いた串の先には焼く前と同じ生地がべっとりと付着していた。

「ええと、ヒスカ。ごめんなさい……これはきっと食べたらお腹を壊しそう。」

「ど、どんまい、おりふぃ!次は失敗しないように頑張ろう!」

 項垂れて跪く私の背中を、ヒスカは励ますように揺すり起こした。

「多分、熾した炭の温度が高かったから、表面だけ焦げちゃったのかもしれない。ヒスカ、今度はもう少し炭を弱くしてやってみよう。」

「うん、今度は中の様子を見ながらやろうね。焦げそうだったら、炭を除ければいいんだし。」

 ヒスカの激励によって立ち直った私は、失敗の反省を踏まえて再びお菓子を焼く事にした。
 今度は焼き加減を見る為に、鍋の蓋を時々開けて表面はもちろん竹串で中身の焼け具合も確かめた。
 完成して鍋から出したマフィンは、鍋の温度が均等ではないため焼き具合に多少の差はあったものの、お菓子としてちゃんと認識できる形に仕上がっていた。

「おりふぃ!今度はいい匂いがするよ!ちょっと試食していいかな?」

 瞳を輝かせるヒスカに、私は笑顔で頷いた。
 できたてのチョコレートマフィンを頬張るヒスカを微笑ましく見守りながら、私は紅茶を淹れる準備を始めた。
 
「これ、とっても美味しいよ、おりふぃ。やっぱり二人で一緒に作ったからかな?」

 簡易のテーブルと椅子を用意して、紅茶を飲みながらマフィンを試食する二人。

「うん、お菓子に二人の美味しくなれって想いが通じたんだよ。マフィンに感謝していただかないといけないね。」

「……エクにも食べさせてあげたかったな。」

 少しだけ表情が曇り、ヒスカは俯いた。

「……うん。でもエキュが戻って来た時には、もっと美味しいものを用意しよう。これからも一緒に、お菓子を作ったり料理を作ったりしよう、ね?」

 私の差し出した小指に、ヒスカは黙って頷くと手を差し出し小指を絡めてきた。

「あ、コツはだいたい掴めてきたから、ヒスカのチョコレートマフィンにはアーモンドパウダーを混ぜてみる?少しサクサク感が強まるから、同じ相手に渡しても味に飽きないと思うから。」

「サクサク感かぁ。うん、私の方はそれで作ってみるね。今度は私が生地を混ぜてみようかな。ひとりで作れるようにもなりたいし。」

 ヒスカの提案に私は微笑みながら頷いた。

「そういえば、おりふぃは出来上がったお菓子を誰にあげるの?」

「ん?お世話になっている人全員に配るつもりだよ。アランさんやバレットさんにも配るつもり。」

「へぇ……じゃあ、おりふぃには特別に好きな人って、いないの?」

 ヒスカの質問に口元に手を当てながら考え込む私。

「うん、特別に好きな人……いるよ。」

 私は父親の面影にやや似たあの人の顔を思い浮かべた。
 この島に来てから色々な人と知り合い、交流を深めて来たけれども、一緒に居る事で安らぎ、または心地良さを感じるあの人。
 きっとこれは特別な“好き”なんだと思う。

「え!それって私の知ってる人かな?おりふぃにもそういう人がいるって、初めて聞いた!」

「ええと、それは……内緒。」

 私は冷静を装いつつ口元に指をあてて、おどけてみせた。

「ええーっ。教えてくれないんだ……残念。」

「ヒスカはバレットさんの事が好きなんだよね。知ってるよ。」

 マフィンを一口齧りながら、私はヒスカに微笑んだ。

「えっ、なっ!?急になにを言いだすの、おりふぃ!?私は別にそんなっ!?」

 両手を交差して激しく否定するヒスカ。
 テーブルに置いてある彼女のカップは激しく波打って、今にも紅茶がこぼれそうになっていた。

「ん、そう?でも、バレットさんはエキュが倒れた時もヒスカの事をとても心配してたよ。ヒスカの事をとても大事に想ってるように見えたけど。」

 私の言葉に項垂れて、顔を紅潮させるヒスカ。

「ば、バレットには元気を出して欲しいからあげるけど!他の人にだってあげるかもしれないし……あっ、そういえば、アランや最近やって来たエルフっぽい人も物欲しそうな顔してた!」

「……そっか。それじゃ、みんなに配る為にもいっぱい作らないとね。これを食べ終わったら、もうちょっと頑張ろう。」

「あ……うん、そうだよね。頑張ろう。」

 頬を紅潮させたまま目を伏せ、ヒスカは私の言葉にごにょごにょと呟いた。
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