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2018-09

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日記32日目

「―という事で、オリフィエルとの契約を破棄してきました。」

 久々の来客であるファウを部屋に招き入れ、私が彼のカップに紅茶を注いでいると、彼はにこやかにそう言った。

「はぁ、なんで?意味、分かんないんですけど!?」

 私は自分のカップに紅茶を注ぐのを忘れて、テーブルに陶器のポットを叩きつけるように置いて彼に詰め寄った。
 
「さぁ?僕も深くは追求してませんので、なんとも。とりあえず、オリフに報告に来たまでです。黙っていて後で知られたら、オリフに何を言われるか分かりませんからね。」

 激昂する私とは対照的に落ち着いて紅茶を啜るファウの姿は、ますます私の心を苛立たせた。

「いつ知ったって、なんか言うわ!なんで人の親切を無碍にするかな、アイツは!」

 ファウに怒りをぶつけても仕方がないので、私はベッドから持ち出した大裸執事抱き枕を袋叩きにして気を紛らわせた。
 
「ふぅ。取り乱して悪かった。ファウを責めても仕方のない話だし……分かったよ。」

「分かって頂けましたか。それでは、オリフ。いい加減にティータイムを再開しませんか?僕の紅茶も、もう空のままですよ?」

 ファウは空になったカップを私に差し出すと、にこりと微笑んだ。

「あー……うん。とりあえず、お茶でも飲んで落ち着くわ。」

 私はファウのカップに紅茶を注いだ後、ようやく自分のカップに紅茶を満たす事ができた。

「でもなぁ、新しい契約相手ねぇ……誰だろうなぁ。」

 クッキーを摘みつつ、島で見かけたファウ以外の悪魔について考えてみるが、特に思い当たる節が無かった。

「僕も分かりませんが、そのかたは契約を結ぶのはオリフィエルとだけだと聞きました。気になるのでしたら、直接本人に聞いてみたらどうですか?」

「ああ、此処で考えていても仕方がないし、オリフィの事も気にはなるから様子を見に行ってみるよ。」

 私の言葉に紅茶のカップをテーブルに置いたファウは、やれやれといった手振りで苦笑いをした。

「気にはなるから、ですか。相変わらず素直じゃありませんね、オリフは。そんな性格だから婚期を逃すのでは?」

 私はファウに詰め寄ると、彼の襟首を軽く掴んで、にこやかに微笑んだ。

「婚期と今の話がどう関係あるんだい、ファウくん?その辺、詳しく教えてもらおうか?」

「ええ、だから僕がオリフを嫁に貰ってあげるという話です。」

「……うん、いい。間に合ってるから。」

 
 ―夜。
 ファウと和やかにティータイムを済ませ、旅の支度を整えた私は、姉のアルフラウの居る書斎とへ向かった。

「姉さん、色々調べたい事があるから偽島に少し行ってくる……って居ねぇし!?」

 普段出歩く事のあまりないアルフラウ……アルが、こんな時間に部屋に居ない事は不自然だったが、トイレかもしれないので暫く部屋で待つ事にした。
 
 アルフラウのいる書斎は、彼女が時計の動く針の音が嫌いなのか、壁に立て掛けてある時計がみな、止まったままだった。
 そんな、時が止まったような錯覚に囚われるこの部屋を、アルフラウはいたくお気に入りで、彼女は殆ど外に出ることがない。
 ふと、ランタンが点いたままの机を見ると、開かれたまま置いてあるアルフラウの日記帳があった。

「あれ、おかしいな?日記帳はアルが肌身離さず持っている筈なのに。」

 沢山の付箋が挟まれた日記帳のページに何げなく目を通すと、オリフィエルの名がそこにはあった。
 私は少し後ろめたさを感じながらも、好奇心に負けてアルの日記帳を手にとった。



〇月×日 母、アンネリーゼの子。妹のオリフィエル。移送鏡より帰還。


「えッ、嘘……だ。」

 確かにその日は、姉のアルが地下の鏡の前で倒れていた、オリフィエルを発見した日だった。
 一番気に掛かる事は母の名前で、それは病で亡くなった私達の母親の名、アンネリーゼである事。
 オリフィエルが旅立つ前に私と話をした時、確かに彼女は母親の名前をアンネリーゼと名乗った。
 母親であるアンネリーゼが、この世に二人存在する事になる矛盾。
 様々な可能性が考えられはするが、その答えによってはオリフィエルと私が同じ人物である可能性も無くはない。

「いや、まさかね……そんな、あはは。だってあいつの方がチビだし、胸あるし。あははははは……ふぅ。」

 誰もツッコミを入れてくれない自虐的な笑いに、自分が切なくなって壁にもたれかかった。
 アルフラウが帰る前に、もう少し日記帳を調べたくなった私は、気を取り直して最初のページを読んでみる事にした。

□月×日 シオンから聞いた事。
私に明日はやって来ない。
私は恒久に死に続ける。
老人達の千の魂を贄として。

 
 シオンとは、紅の偶像使いと呼ばれる、アルと私の魔法の師匠である。
 性格はかなりの変態ではあるが、魔法の腕だけは無駄に高い。

「老人達の……フロストロードの事、か。」

 フロストロードという言葉で、ずっと忘れてかけていた、忌まわしきあの儀式の記憶が蘇える。
 蒼氷の塔の地下。折り重なるように倒れ、おぞましい表情で虚空を見つめるフロストロードたちの屍。
 千の屍の中で、淡い光を放ちながら人形のように微笑む少女、アルフラウ。
 恐怖と憎悪。後悔と自責の念で自らの心臓に突き立てた刃。
 ……あの日から。
 姉。アルフラウは、マナ異性体。
 ―エキュオスとなった。

 胸の傷の痛みを感じて我にかえった私は、アルフラウの日記帳をじっと見詰めた。
 付箋だらけの分厚い彼女の日記帳の重さと意味を、私は初めて理解した。
 あの時以来、アルフラウが歳をとらなくなった事は知っていた。
 しかし、私は今の今まで知らなかったのだ。
 アルフラウの記憶が、あの日から止まったままだという事を。

「どうして……アルはそんな大事な事を、私に内緒に……。」

 昂ぶる感情に涙を堪える事ができず、こぼれ落ちた私の涙が日記に書かれた文字を滲ませてしまった。

「あ、やばい……姉さんに見つかったら、怒られちゃうな。いや、それより大事な内容だから、書き直した方がいいかな……あはは、もう、なんか駄目だ。ああ、どうして、こうなっちゃったんだろう……どうして。」

 言葉にならない嗚咽を漏らし、日記を抱えながら蹲る私。

「ただいま。あら、どうしたの……おりふぅ?そんな所で蹲っていたら、風邪を引くわよ?」

 聞き覚えのある声に私は顔をあげた。
 そこには、あの時からずっと変わらない、人形のように綺麗な白い少女。
 アルフラウ・ニフルハイムの、宝石のように紅い瞳が心配そうに、私の顔を覗き込んでいた。

「泣いているの、おりふぅ?泣かないで。何があったの?どこか痛いの?」

 私は首を横に振って、手に抱えていた日記帳をアルの前に差し出した。

「ごめん……姉さん。日記の文字を、滲ませちゃった。いや、そんな事より、勝手に読んでごめんなさい……あと……今まで、気付かなくて……ごめんなさい。」

 アルフラウは、手渡された日記帳を受け取ると、少し目を丸くして私の方を見詰めた。
 私は居た堪れなくなって、アルフラウから視線を逸らした。

「あら……読んでしまったの?もう、人の日記は勝手に読んじゃダメだよ、おりふぅ。」

 顔を逸らした私の方へ回り込んだアルフラウは、悪戯っ子のような微笑みで私の顔を覗き込んだ。
 また彼女から目を逸らそうとする私の頬を、アルフラウの両手がしっかりと抑え込んだ。

「怒っていないから、そんなに避けないで。まさか、おりふぅ、私の事が嫌いになったの?」

 瞳を潤ませて心配そうな表情で私を見るアルフラウに、何故か私は可笑しくて吹き出してしまった。

「ううん。あのね……姉さんがずっと、私の事を赦してくれない理由。やっと、分かった。」

アルフラウは静かに頷くと、私のおでこに、おでこをくっ付けて目を瞑った。

「ええ……赦さない訳ではないの。赦した事を忘れてしまうの。あなたを苦しめたくないから、黙っていたのだけど。」

「あ、うん……今まで、気付かない私も間抜けだけどね。」

「でも。かえってあなたを苦しめてしまったのね。ごめんね、おりふぅ。ずっと、苦しかったのね。」

私が夢の中で何度も願い、叶わなかったあの言葉を、私は夢見心地で聴いていた。

「おりふぅ。あなたを赦してあげる。」

「ありがとう、姉さん。夢の中でなら、何度か赦して貰えたんだけどね……今度は本当で嬉しいよ。」

アルフラウは私の頬を優しく撫で、いつもの無邪気な笑顔で微笑んだ。

 ―それから。
 私とアルは、ただ時間の流れる侭に寄り添いながら、子供の頃のように窓の外に映る星空を眺めた。

「……姉さん、さっき日記で知ってしまった事だけど、オリフィエルは姉さんの本当の妹なの?」

「ええ、そうよ。」

 アルフラウは嘘をつかない。いや、性格に言うと嘘が付けないのだが、彼女が言う事は彼女の記憶に間違いがない限り正しい。

「そっか。それじゃ……私は?私は誰の子なの?」

「おりふぅのお父様は、ヴォルフラム叔父様。オリフィと同じよ。そして、あなたのお母様はアンネローゼ叔母様。」
 
「……そっか。それじゃ、私がアル姉さんの従妹だったんだ。なんか偉そうにオリフィに啖呵切っちゃって失敗したなぁ。あはは。」

 流石にショックが大きかったのか、私の誤魔化した笑い声はとても弱々しいものだった。

「いいえ、おりふぅは私の大切な妹よ。だって、私が悪魔にお願いしたんだもの。妹が欲しいって。」

「え……悪魔にお願いしたの?私がお母様から疎まれたのって、若しかして、そのせい?」

「さぁ、どうなのかしら?叔母様は、ずっと私を避けていたから、良く分からないわ。」

「……なんでニフルハイムの家系って、そんなに複雑なの?」

 アルフラウは私の言葉に微笑むと、甘えるように身体を預けてきた。

「そうね。ロマンスがあったから、かしら?」

「酷いロマンスもあったもんだ。なんで親の残したツケを子供が背負わなきゃいけないんだか。」

 ため息混じりの苦笑いを漏らし、私はアルフラウの髪をそっと撫でた。
 
「もぅ、ずっとこのままでいたいのに。おりふぅ。私の今日はそろそろ終わってしまうわ……明日の私も愛してあげてね。」

 瞳を閉じて、眠りにつこうとするアルフラウの身体を支えながら、彼女の背中を優しく摩った。

「うん、おやすみなさい、姉さん。」

 アルフラウの赦しの言葉を心に刻んだ私は、必ず呪われた時の檻から彼女を解放しようと誓った。
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