2018-07

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日記42日目

 かがみよかがみ わたしは だあれ

 
 カレイドスコープもしくは万華鏡と呼ばれるものは、鏡を張った筒を通して中に入れられた欠片が模様になるのを楽しむ玩具である。
 私が知り合った和風の着物を身に付けた少女、嬬園またはデルタと名乗る少女は、この島に来てある男から万華鏡を贈り物に渡されたという。
 その男の名はテーセウス。
 やや癖のある長い黒髪にターコイズの瞳を持った、おりふぃと契約して彼女に鏡界を操る力を与えた悪魔である。
 鏡界を操る力によっておりふぃに召喚された私は、鏡の分身という立場で呼び出されたにも拘らず彼女とは異なる性格であり、なおかつ記憶まで彼女と異なっていた。
 その原因は力を与えた筈のテーセウスも知るところでは無く、呼び出した鏡のひずみが原因だとか、この島の澱んだマナの影響だとか、おりふぃや周囲の知人も明確な答えを出すことができなかった。
 私もおりふぃを模倣した、ただ従うだけの分身であれば、何も考えることなく己の責務を果たして毎日を過ごしただろう。
 だが、分身であるという違和感と毎夜の如くうなされる悪夢が、私をただの分身としての己に依存する事を許さなかった。
 私は本当におりふぃの分身なのか?それとも、それ以外の何かなのか?
 遺跡の探索が終わってしまえば、おりふぃが私の力を必要とする事は無くなってしまうかもしれない。
 この世界から消えてしまう前に、私は自分自身を知るため、手掛かりになりそうなものを求めて探し歩いた。
 
 そうして辿り着いたものの一つに、デルタが持っている万華鏡があった。
 私は注意深く、なお且つ好意的にデルタと接し、ふと彼女との会話に出てきた万華鏡に触れる機会を伺っていたが、デルタはあっさりとそれを手渡してくれた。
 鏡の悪魔、テーセウスから贈られたその万華鏡には、筒を覗き込むと私に似た少女が映るという。
 私はデルタから万華鏡を受け取ると、私が万華鏡を覗き込む間に退屈にならないよう、荷物袋から少し大きめの鏡を手渡した。
 それは以前、NoAH商会の商人であるリリから買い取った真実を写さない鏡、反真の鏡というものだった。
デルタは私から鏡を受け取ると、何か抵抗があるのかそれを覗こうとはしなかったが、私は構わず万華鏡を注意深く覗きこんだ。
 万華鏡の中は、何かの破片が華のような煌びやかな模様を描いていたが、人影らしき姿は見えなかった。
 私が万華鏡の筒を丁寧に回していくと、筒の中の模様は幾度も変化し、やがて二つの人影のようなものへと変化していった。
 私が筒の動きを止め人影を覗き込むと、そこには見覚えのある二人の姿があった。

「……お父様と……お母様?」

 私の呟きは万華鏡の中の二人には聞こえないようで、ヴォルフラムお父様らしき人とアンネリーゼお母様は手を取り合いながら、お互いをうっとりと見つめ合っていた。
 万華鏡といえども鏡の世界の一つ。
 鏡の中へ入る事は私にとって造作もない事だが、合わせ鏡の場所では自分の位置を見失って帰還できなくなる可能性もあった。
 何かの罠かもしれないと勘ぐってはみたが、こんな回りくどい罠をテーセウスが仕掛けているとは思えない。

「ねぇ、デルタさん……ちょっとお願いがあるのだけど、この万華鏡を動かさないで持っていてくれるかしら?」

 彼女はコクリと頷くと、持っていた反真の鏡を私の荷物袋の近くに立て掛け、万華鏡をそっと受け取った。

「……なにか……するんです……か?」

 万華鏡を持ったままジッとしているデルタに私は頷くと、デルタの背後から覗き込むように万華鏡の中を見た。

「ええ、中の人とお話をしてくるわ。動かしてしまうと危ないから、少しの間だけ持っていてくれるかしら?」

 デルタは万華鏡を動かさないよう、慎重に筒を両手で支えるように持ちながら、少しだけ頭を下げた。

「わかりまし……た……おしゃべりして……きてください…」

「ええ、行ってくるわ。それでは、留守番お願いするわね。」

 そう言うと私は万華鏡の覗き穴に、まるで霧が吸いこまれるかのように入っていった。
 
 万華鏡の中の世界は思っていたよりも広く、模様を作りだしていた欠片は、大きなオブジェのように点々とそびえ立っていた。
 私が大きな欠片の合間をすり抜けて行くと、さっきの二人の姿らしきものが見えてきた。私は相手の反応をうかがう為、あえて正面から二人の元へと近付いていった。

「オ、オリフィエル!無事だったのか!?でも……どうして此処に!?」

 私を先に見つけたのは、ヴォルフラムお父様だった。
 お父様は私の方へ駆け寄ると、紫色の目を輝かせながら力強く私の身体を抱きしめた。

「……お父様達が此処にいるって、テーセウスさんが。」

 私はとっさに、疑われないような無難な嘘をついた。

「え、テーセウスが?ここに住む事はできるが、この世界から抜け出す事はできないと言っていた彼が?どういう事だ?」

 お父様の言葉から察するに、私の思っていた通りこの空間は不安定で、お父様達の力では抜けだす事ができないらしい。
 テーセウスの名前を出した事で、私自身の事はオリフィエルだと思いこんでいるようだが、私がやって来た理由に疑問も持たれているようだった。
 どちらにせよ、デルタに今の状態を維持してもらっている以上、あまり長い時間は此処にいられない。
 早目に用件が済ませられるように、私は話の辻褄を合わせることにした。 

「あ、はい……テーセウスさんに協力して貰って、一時的に安定した状態を保っているので、今は大丈夫です。だから、ずっと此処にいる事はできないけれど、少しでもお父様達にお会いしたくて。」

「そうか……それでも、お前が生きている事が分かっただけでも嬉しいよ、オリフィエル。」
 
 お父様は私をようやく解放すると、笑顔を浮かべながら頭を撫でた。

「オリフィ……オリフィなの?……ごめんなさい。」

 震えるような小さな声で、アンネリーゼお母様は、私より少し離れた所から声を掛けてきた。

 私はふと、ある疑問を解消するために、あえて何も答えずにアンネリーゼお母様を見詰めた。
 私に見詰められたお母様は、顔を覆いながらしゃがみ込むと、肩を震わせながら啜り泣きを始めてしまった。

「あの時は……気が動転してしまって、取り返しのつかない事をしてしまったわ……赦してくれないかもしれないけど……本当に……ごめんなさい。」

 お母様が泣き崩れる姿をただ見つめる私に、ヴォルフラムお父様はさっきの笑顔とは打って変わり、辛辣な表情となった。

「私が居ない間に小屋の中で起こった出来事は、リーゼから大体聞いている。オリフィエル……彼女のした事は赦される事ではないと分かってはいる。だが、あの時には已む得ない事情があった事を知っていて欲しい。」

「……事情?どういう事なんですか……お父様。」

 私はあまり感情を表に出さないように装うと、不思議そうに首を傾げた。

「あの鏡で造られた世界はね。もともと、二人だけしか住む事ができない世界だったんだ。そこにお前が生まれて、結界に亀裂が生じてしまった。」

「あ、え……でも、それなら……なぜ、私を産んだのですか?それに……あの世界が壊れ始めたのは、私が生まれてからずっとあとの筈です。」

 ヴォルフラムお父様は、まだ重い表情のままで、私に視線を合わせるように少し屈みながら私の顔を見た。

「オリフィエルが生まれた頃に、一度テーセウスが私を訪れて、警告をしには来たんだ……結界が綻び始めているって。」

「テーセウスさんが?」

「ああ、その原因は彼と私の契約に対する、認識の齟齬だった。だけど……オリフィエルが成人するまでには結界が崩壊してしまうから、それまでに答えを出して置くように……とは言われていたんだ。」

「そんな……あの世界が壊れてしまった原因は、私のせい……なんですか?」

 目を潤ませてお父様を見詰めると、彼はその視線を受け止めるのが辛いのか、私から視線を逸らした。

「いや、最後の最後まで答えを出す事ができなかった、私のせいだ……すまない。その事で、アンネリーゼが追いつめられて、あのような行為に及んでしまった事も……私の責任だ。」

「あのような行為……それは、お母様が私を殺そうとした事ですよね?」

「……ああ。気の迷いとはいえ、極限の状態までリーゼを追い詰めてしまった事は、私にも責任の一端がある。オリフィエル……すまなかった。」

 そう言って私の前で膝をつくと、ヴォルフラムお父様は深く頭を垂れた。
 私は悲しみよりも、一つの真実に辿り着いた事の方が嬉しくて、思わず笑みがこぼれてしまった。

「ふふ、なるほど……私が何時もうなされていた悪夢は、真実だったんですね。それが分かっただけでも喜ばしい事ですわ。お父様。」

 声のトーンが急に変わった事に驚いたのか、お父様は深々と下げていた頭を元に戻すと私の方を驚いたような表情で見詰めた。

「オリフィエル……お前、目の色が……」

「ああ、これですか?この身体は仮初のものだから、気にしないでください。私がオリフィエルであるという事には変わりはありません。いえ……」

 もはや何も偽る事がなくなった私は、ヴォルフラムお父様に最高の頬笑みを返した。

「私がオリフィエル・ニフルハイムだという事に、いま気がつきました。」

さいこうの微笑 「オリフィエル……何を言っているんだ?私にも分かるように、詳しく説明してくれないか?」

 ヴォルフラムお父様と、アンネリーゼお母様が私の方を怪訝な表情で見詰めるので、私は余りの滑稽さに失笑してしまった。

「いえ……説明は不要です。お父様達に、理解していただく時間が勿体ありません。私を殺そうとしていたお父様達が、このような場所でのうのうと暮らしている事が分かれば十分ですから。」

 明らかに棘のある言葉に場の空気を察したのか、ヴォルフラムお父様は私から少し離れると、やや身構えるような格好となった。

「オリフィエル……どうしたんだ……急に。」

 ヴォルフラムの異変に気付いたアンネリーゼは、泣きやむのを止めると、煌めく長い金髪の隙間から恐れるような目で私の方を見た。

「オリフィ……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい……愛しているわ。」

「もう謝らないで下さい、お母様……おりふぃだったら、貴方を笑顔で赦すのでしょうね。」

 アンネリーゼは私の言葉の意味が理解できないのか、きょとんとした表情で私の方をじっと見詰めた。
 私は微笑みのままで、アンネリーゼへ静かに囁いた。

「でも、私は赦しませんよ……絶対に、です。」

「何を言っているんだ!オリフィエル!」

 ヴォルフラムが蒼白になって私に駆け寄ろうとするので、私は少し後ろに引いて距離をとった。

「でも残念。この万華鏡はデルタのものだから、勝手に壊す訳にはいかないわ。良かったわね、お父様お母様。命拾いができて。」

「オリフィ……貴方……私達を……」

 アンネリーゼの表情はみるみる蒼褪め、怯えた少女のような赤い瞳が私を見詰めていた。
 ヴォルフラムも、もはや説得は無理だと感じたのか、私に近付く事なく険しい表情で様子を窺がっているだけだった。

「オリフィエル……お前が私達を赦してくれなくても……私達は今でもお前の事を愛しているよ。」

 少し肩を落としながらヴィルフラムは、できるだけ優しい表情を作って私に微笑んだ。
 私は黙ってスカートの裾を軽く摘み、軽く膝を落してお辞儀を返した。

「ありがとう、お父様……私もお父様達の事を愛して“いました”わ。」

「オリフィ……」

 アンネリーゼとヴォルフラムの悲痛な声が綺麗に重なった。

「こんな夢のような曖昧な世界では、生きている実感もないでしょう。私からもお父様達に、素敵なプレゼントをお返ししますわ。」

 そう、ささやかなプレゼント。
 この万華鏡の世界でのうのうとくらす二人に、生きている実感を与える少しだけのお手伝い。

「テーセウスは、結界の欠片でこの空間を造ったのですね。お父様達が消えてしまわないように……ふふ、悪魔なのに優しい人。」

「オリフィ……何を……」

「ちょっとこの世界にリアルを付加させてもらいますね。お父様達に生きている実感を味わってもらいたくて。」

「リアル……実感?オリフィエル、何を言って……」

 ヴォルフラムの言葉を遮るように、私は手を差し出して言葉を制した。

「それでは、ごきげんよう。」

 次の瞬間、私は元の世界へと帰って来た。
 
 相変わらずじっと万華鏡を覗き込むデルタの背後に現れた私は、そっと彼女の肩を叩いた。
 デルタはびっくりして、思わず肩を跳ねさせながら振り向いた拍子に、万華鏡を地面に落してしまった。

「おかえり、なさい……フィーさん……おはなし……終わり……ましたか……」

 私はデルタに頷くと、彼女に落した万華鏡を拾って手渡した。

「……ありがとう……ございます……今、万華鏡から……痛み……苦痛……感じました。」

「あら?デルタは万華鏡の中にいる人の状態を感じる事ができるのね?」

 私はデルタに微笑んだ。

「うん、ちょっと生きてる実感を味わってもらおうと思って。“感覚”をあの人達にプレゼントしてあげたの。」

「……感覚……万華鏡、回すと……身体が……バラバラ……ですか?」

「ええ、そうよ。でも安心して、死にはしないから。」

 不思議そうな表情で見つめるデルタの髪を、私は優しく撫でながら抱きしめた。

「……これはデルタが私に万華鏡を貸してくれたお礼。そう、お礼なの。」

 最後の言葉は自分に言い聞かせるように、私は彼女に静かに囁いた。
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