2018-07

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日記47日目

   深き夢の中へ蒔かれた着想の種は 
   心の中で芽吹き育み 概念という蕾をつける
   笑みの眉開くまで その色を誰も識ることはできない



 動かなければ何も知る事はできないし、何も始まらない。
 フィーの言葉の真偽を確かめる為、私はテーセウスに直接会ってお話を聞く事にした。
 しろきの庭と呼ばれる、テーセウスのお屋敷の一室へ案内された私は、誕生日の帰り道にフィーとの間に起こった出来事の一部始終を彼に話した。
 先ず初めに、お父様とお母様が、テーセウスの作った万華鏡に閉じ込められているという話を聞いた事。
 次にフィーが本当のオリフィエル・ニフルハイムであり、私はオリフィエルの身体を借りている“何か”であるという事。
 最後に、フィーが4日後には手段はあるので、私に身体を返すように要求した事を話し終えると、私はテスの言葉を俯きながら待った。
 暫しの沈黙が続いたので、不安になって私が顔を上げると、真剣な面持ちだったテーセウスは、急に表情を和らげて苦笑いを返した。

「フィー様は、とうとう答えにいきついてしまいましたか……確かに、わたくしが貴方のご両親を万華鏡に閉じ込めました。しかし、そうすることでしかヴォルフラム様、アンネリーゼ様が存在し続ける方法がなかったのです。」

「……はい。テスに何らかの事情があって、お父様やお母様にそのような措置をしたのだと思っています。
フィーのお話が真実であったことが、今のお話で理解できました。」

 フィーの言葉を裏付ける結果となってしまったが、覚悟はしていた事なのでそれ程ショックではなかった。

「貴方と引き合わせたいという考えはありましたが、結界内は人が入れないほどに損傷が激しかったもので。それならば、いっそ隠してしまった方が貴方のためになると……自分勝手なのは承知の上ですが。」

「はい……もし、お父様やお母様に逢えたとしても、今の私にはどう接して良いのか分かりません。フィーが言うように、私はオリフィエルさんではありませんし、殺されそうになった記憶などもありません。
でも、ご両親が生きていらっしゃっただけでも、私は嬉しく思います。フィーがご両親とお話できる可能性を作ってくださったのは、テスなのですから。」

 私がどうであれ、フィーが両親と生きて再会できた事は喜ばしい事だと思う。その機会を与えてくれたテーセウスに、私は怨むというよりも感謝の想いしか懐かなかった。

「オリフィエ……」

 テーセウスはオリフィエルではないという事を気遣って、私をどう呼ぼうか躊躇いながらも、腕を伸ばして私の身体を引き寄せた。

「あ、私の事はオリフィと呼んでくださって、大丈夫です。急に名前がなくなってしまったら、私もどう呼ばれていいのか分かりませんし……今は、贋物といえどもオリフィなのですから。」

 私はテーセウスに引き寄せられるままに身体を預け、できるだけ自然体で微笑むように努力した。

「たとえ贋物だとしても今の貴方はオリフィエル・ニフルハイムに変わりありません。もしフィー様がオリフィエル・ニフルハイムになったとしても、わたくしも彼女もあの契約の履行を望む事は無いでしょう。」

 テーセウスは私の魔女帽を脱がせると、優しく大きく厚い手で頭を撫でた。

「はい……私が本当にオリフィエルさんに何の関係もない“モノ”であれば、この契約そのものが成立し得なかった筈です。え、契約を履行しない……ですか?その気持ちは嬉しいですが、フィーに身体を返してしまった先はどうなってしまうのか、私にも予測がついていません。」

 微笑んでいようと心掛けても、自然に湧きあがる感情が抑えきれず顔が強張ってしまいそうだったので、私は視線を床に落として心を落ち着かせようと深呼吸した。

「“僕”はね“君”が好きだから契約をしたんだよ。だから君が本物でなくても構わない、いまの“オリフィエル”でも、たとえ存在が変わっても君を愛し続けるよ。」

「ありがとうございます。貴方のその言葉だけで、私はとても満たされた気持になる事ができます。って、あ……テス?」

 心が少し落ち着いたので私が顔を上げると、そこにテーセウスの姿は無く、代わりにテーセウスが若返ったような姿をした青年が立っていた。

「君がその姿で居るのにはきっとなにか理由があるんだよ、だから諦めないで。もし彼女に契約を続ける気があっても、僕は断っていたと思う……彼女と君は違うからね。」

 目の前に現れた青年に頭を撫でられながら、私はテーセウスの身体も今は仮初のものである事を思い出した。
 多少見慣れない姿ではあったが、彼の特徴である瞳の色と身に付けているターコイズのカフスピアスは変わらない事で、それ程違和感は感じなかった。

「ああ……驚かせてごめん。真意を伝えるなら、嘘偽りない姿の方が伝えられると思ったんだけど。
矢張りびっくりしちゃったかな、慣れないならすぐに戻るよ。」

「偽りない姿……ですか?いつものテスの姿ではなく、今の貴方の姿が本当なのですか?」

 首を傾げる私に、テーセウスの姿だった青年はやや曖昧に頷いた。

「あ、はい。驚きはしましたけど……そういう事であれば、受け入れようと思います。私はテスに、ずっとすべてを受け入れると言ってきたのですから。」

「多分……そうなんだと思う、この姿を自分で見るのも随分久しくてね。君は優しいな、本当に。有難う。」

「あの、テスの真実の姿……というのは、やはり人間だった時の“もの”という事ですか?
どういたしまして。私こそ、テスの事をもっと知る事ができて良かったです。」

 普段のテーセウスの姿の方が落ち着く事は否めないが、誠意として私に今の姿を見せてくれた彼の気持が嬉しかった。

「うん、そうなるね……いつも見せていた姿と比べると随分野暮ったいかも、ごめんね。
ははは、やっぱり人にわかって貰えるって嬉しいけど…やっぱり照れるね。」

 青年の姿のテーセウスは、恥ずかしそうに後頭部を掻きながら笑った。

「あはー、若々しいテスの姿も素敵ですよ。ちょっと、年齢差が近くなった気がして嬉しいです。
テス……テーセウスというお名前は、本当のお名前なのですか?女性の姿の時にドラクロワさんというお名前を名乗っていたので、もしかすると、いつもの姿の時も人間の時の名前ではないのかなと思いました。」

「あー…僕も本名というものは分からないんだ。孤児院では“オズボーン・ヒル”で呼ばれていたけど、それは僕が拾われた時につけて貰った名前だし。」

「なるほど、それでも今のお名前とは違うのですね。オズボーン……覚えておきます。
あの、私……フィーがオリフィさんだと分かった今、私自身が誰なのか調べてみようと思っています。
ただ、身体をお返しするとしても自分がどういう理由でこの身体に居るのか知りたいですし。
それに、若しかしたらフィーに身体を返さなくて良い理由が見つかるかもしれませんし。」

 オズボーン・ヒルと名乗った青年は、緩く笑うと私の髪の触り心地が良いのか、優しく撫でた。

「それにしても……君は初めて会った頃と随分変わったね、自立心がとても強くなったというか。
なにか助力できればいいんだけど……こんな状態じゃ、こうして君と手を取ったりお茶をしたりするくらいしかできないから、歯がゆいや。僕としては君が君のままで居てくれる事を願っているよ。
手を貸す手段もあるけど……あまりそれは使いたくはないからね。」

「あはー、その気持ちとお言葉だけでも嬉しいです。鏡の力は私が望んだものですし、その契約があるから私は今を諦めないで居られます。この件はフィーと私の問題ですので、必ず私達の中で解決してみせますね……できれば貴方の望むとおりの結果になるように。」

 私が青年の姿のテーセウスに微笑むと、彼も微笑みを返して額にそっと口づけをした。

「何か良い……別の方向に行く事を祈っているよ。僕も要因の一つに入れてもらえるなんて歓迎だね。
そうだ。もし心細くなった時のために、お守りをあげようかな……がんばっている君へのご褒美だ。」

 彼はそう言うと、耳につけていたカフスピアスを外して、私の耳にそれを付けた。

「これは……テスの大切なピアスではないのですか。本当に私がいただいてしまっても良いのですか?」

 ターコイズのカフスピアスの感触を、確かめるように指で触れながら、私はテーセウスの瞳をじっと見詰めた。

「うん、デザインが気に入ってずっとつけていたんだけど。オリフィが喜んでくれるならあげるよ。
僕だと思って大事にしてね。」

「あはー、ありがとうございます。贋物はオリジナルとは違いますが、贋物なりの良さがあるって信じています。私はどんなことがあっても、貴方の傍を離れませんよ。だって贋作商人のお嫁さんになりたいのですから。」

 私は彼の背中に両手を回して、広い胸元に顔を埋めた。

「本当はもっと貴方を受け入れたいのですけど……テスの身体が元に戻るまでは、これで我慢いたしますね。」

 暫くずっと青年の姿のテーセウスに抱きついていたが、反応がないので見上げてみると、彼はいつの間にか元のテーセウスの姿に戻っていた。

「矢張りこの姿でいますかね……わたくしは貴方をリードしたいので。オリフィエル、今度レーレさんもお誘いして誕生日パーティーを開きませんか?」

「あれ、私が何かリードしていましたか? あ、はい。もちろん、歓迎いたします。私がこの言った事を、覚えていて下さったんですね。ありがとございます。」

「よかった……楽しいパーティーに致しましょう。誕生日というものは祝われて嬉しいものですからね。
わたくしは貴方が喜んでくださりそうなことは、なんだって致しますよ……楽しみになさっていてくださいね。」

「……はい。誕生日は一度も祝って貰ったことがないので、楽しみです。自分の誕生日ですけど、ケーキは自分で用意しますね。みんなに美味しく食べて貰えたら、嬉しいですので。」

 私はテーセウスに抱き付いたまま、顔だけあげて微笑みを返した。

「矢張り!それも初体験でしたか。どうやら、腕によりをかけて頑張らねばいけないようですね。おお、貴方の誕生を祝う筈がケーキを頂けるとは……わたくしにとっても楽しみが出来てしまいましたね。」

 テーセウスが目を輝かせて表情を綻ばせるので、私も誕生パーティーが待ち遠しくなった。

「あはー、お誕生日を無事に迎える為にも、ちゃんと戻って来なくてはいけませんね。
はい、レレさんにもテスにも喜んでいただけるよう、腕によりをかけて頑張ります。
そう言えば……レレさんはお料理の方、ビーフシチューが食べたいって前から私に言ってました。」

「そうですよ?然り怪我一つなく帰ってきてくださいね。これ以上腕によりをかけられてしまったら、わたくしの頬も落ちかねない勢いですね、こわいこわい。
ビーフシチューですか……なるほど。しかし誕生日なのにオリフィエルにばかり手間をかけさせるのはいけない。
其方はわたくしが受け持ちましょう。」

「はい……はい、借り物の身体ですから「傷付けないように」ってフィーからも言われています。ご安心ください。あ、よろしくお願いします。本当は、ご一緒にお作りしたいのですけど、時間と手間が掛かりますものね。
お料理の方は、お任せ致します。レレさんもきっと喜んでくれるはずです。」

「女性の柔肌に傷がつくのは好ましくありませんからね。フィー様の行動には不可解な念を感じざるえませんが、このときばかりは感謝せねばいけないようです。
しかし、人が喜んでくださるために料理を作るというのも悪くありませんね。貴方の気持ちがわかる気が致します。」

 私は静かに頷いた後、テーセウスに寄り添って心の不安が静まるまで、彼の身体にしがみ付いていた。
 どれ位の時間が経ったか分からないが、彼の心臓の鼓動と私の心臓の鼓動しか感じないほどに、気がつくと部屋は静寂に包まれていた。

「……しかし食べ物の話をしていたら、なんだか小腹がすいてきてしまいましたね。軽い食事を作ろうと思うのですがオリフィエルも召し上がりますか?」

 私が完全に落ち着きを取り戻したのを確認して、テーセウスは抱きしめていた身体を解くと、目を細めて私に尋ねた。

「そうですね、そういえば私も……あまり遅い時間に食べてしまうと、太ってしまわないか気になりますが……今日は特別に良い事にしちゃいます。」

 私は頷いて答えたあと、このまま帰るのも寂しくなって、テーセウスにわがままを承知でお願いをしてみる事にした。

「あ、我儘を聞いてくださるのでしたら、今日は帰りたくありません……お屋敷に泊めていただいても良いですか?」

「おっと、女性にとっては聊か酷な時間でしたね……あまり響かない物にしましょう。わかりました、客室用の部屋を空けておきましょう。此方としてもただ広い家ですので、人が居た方が刺激になって大変良い。是非これからも泊まって行って頂きたいくらいです。」

 テーセウスは親切に最大のもてなしを私に用意してくれたのだが、有り難い気持ちとは裏腹に自分の気持ちが上手く通じない歯がゆさで、胸が少し切なくなった。
 はしたないと思われるのではないかと不安を感じつつも、私は思い切って彼にお願いしてみる事にした。

「……あの、お気遣いにはとても感謝しているのですけど。今日はテスと一緒に寝てはいけませんか?」

 テーセウスはきょとりとした顔で私を見るので、私は少し頬が紅くなってしまって、両手でそれを隠した。

「狭いベッドで窮屈だと後悔しても知りませんよ?」

「あはー……すみません、我儘言ってしまって。私は後悔しませんけど、暑くて寝苦しくなってしまったらごめんなさい。」

 私は彼に貰ったピアスを指で弄りながら、肩を竦めておどけてみせた。

「多少なり世話のかかる方が、個人的には大変可愛らしいと思うので謝らずとも。ピアス……とても似合っておいでですよ。」

「お世話になりっぱなしだとは思いますが、そう言って頂けると助かります。本当ですか?テスの身につけていたものが似合うなんて嬉しいです。鏡で確認できないのが残念ですけど。」

「もう少し頼りにして下さってもいいのですよ?なんてね。鏡で確認できないのなら、絵で描きましょうか?
多少なりお時間はかかりますけれど、ね。」

 テーセウスの申し出に私は首を横に振ると、一歩踏み出して彼の胸元に飛び込んだ。

「大丈夫です。鏡を見なくても確認できる方法がありますから……少し、失礼しますね。」

 私はテーセウスに寄り添ったまま、つま先立ちで背伸びをすると、彼の瞳に映る自分の姿をじっと覗き込んだ。

「あ、ほんとだ。似合っていてよかったです。」

 急に顔が近付いた事にテーセウスはいっしゅん身動ぎしたが、私の行動の意味を理解して直ぐに私の身体を支えた。

「ん……っ?なるほど、こんな方法がありましたか。考えつきませんでした。では、そろそろ下に参りましょうか。」

 テーセウスの言葉に私は頷くと、彼の差し出す手を取り厨房のある部屋まで寄り添って歩いた。
 
 ―明日は早く起きて、早速自分の事を調べに出掛けよう。
 移送鏡の中や、アルフラウお姉様の所に行けば何か分かるかもしれない。
 そんな事をぼんやり考えながら、今日のような日がまたやってきますようにと心の中で何度も呟いた。
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