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2018-12

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日記48日目

 フィーと和解するためには、先ず自分が何者であるかを知らなければいけない。
 早朝にテーセウスのお屋敷を出た私は、事故の原因となった移送鏡を調べるべく、自分のテントへと戻った。
 テントの中では、オリフお姉様が健やかな寝息を立てて眠っていたが、フィーは居ないようだった。
 私はお姉様を起こさないように、そばを通り抜け移送鏡の前に立った。
 薔薇の彫刻の施された移送鏡はテーセウスとの契約以降、くすむことなく鏡としての機能を果たしている。
 移送鏡の能力は目的の場所まで移動する事だが、この鏡は多くのマナを消費する事で異世界へも行き先を繋ぐ事のできる特別なものだった。
 製作者はオリフィエル。ヴォルフラムお父様の祖母にあたる人で、ニフルハイムの郊外の森に住む紫の魔女として人々に恐れられていたらしい。
 私の記憶は正しいものではないと分かっているが、こちらは鏡の世界を出てから本で調べた事なので間違いはないだろう。
 試しに自分の姿が映るかどうか確かめてみると、鏡に自分の姿は映らなかった。
 私が鏡に映らないという事は、フィーが移送鏡の中にも戻ってきていない事となる。
 今の状態でフィーに会って話をするのは怖かったので、私はホッと胸を撫で下ろした。
 テーセウスとの契約で手に入れた力により、私とフィーは鏡の中へと入る事ができる。
 フィーは魔力を失った移送鏡に閉じ込められていたにも拘らず、移送鏡の中に両親と暮らしていたニフルハイムの屋敷を再現して住んでいた。
フィーの記憶の一つに潜る事で、私の知らない何かを見つける事ができるかもしれない。
 私が鏡に手をかざすと、鏡面は靄のように溶けて身体をすり抜けた。

 鏡を通り抜けた先には、懐かしい風景が一面に広がり感傷に浸っていたい気持ちになったが、フィーとの約束の日まで時間がない事を思い出し、私は先を急いだ。
 私の子供の頃に一番長い時間過していた場所、書斎の扉を私は開けた。
 窓は厚いカーテンにより日差しが閉ざされ、立て掛けてある時計すべて止まっている静寂の空間は、私の記憶通りのものだった。
 机に置いてあるものまでは詳しく記憶してはいないが、一輪挿しに飾られた黒い薔薇は恐らくフィーが持ち込んだものだろう。
 何処から調べようか周りを見回していると、ふと沢山ある本棚の一つが気になり、私はその本棚を覗き込んでいた。
 他の本棚の本は隙間なく棚に並べられているのに対し、私が気になったその場所には本と本の間に隙間があった。
 私がアルフラウ様のお屋敷で書斎を掃除していた時の記憶では、本棚の本はきっちりと並んでいて、隙間などなかったはずだった。
 たかが本と本のあいだの隙間でしかないが、塵一つ付いていない空間に私は途轍もない違和感を憶えた。
 ここにあった筈の本をフィーも私も覚えていない。
 同じ棚に並んだ本が殆ど絵本である事を考えると、恐らくこの隙間にあった本も絵本の一つに違いなかった。
 私達の記憶にはなくても、ここにあったものを調べる手段は存在す事を私は思い出した。

「アルフラウお姉様の書斎へ行ってみよう……何か分かるかもしれない。」

 私は急いで移送鏡の元まで戻ると、再び移送鏡の鏡面に手をかざした。
 この鏡の本来の目的である望みの場所をイメージすると、アルフラウお姉様の書斎を鏡が映し出した。
 鏡の中へ溶け込むように飛びこむと、薄暗いランタンに照らされ物憂げに本を読むアルフラウお姉様の傍に私は現れた。

「あら、おりふぅ。何処へ行っていたの?何処かへ出掛けるってメモに書いてあったけど、用事は終わったのかしら?」

 物音に気付いたアルフラウお姉様は、優しげな紅い瞳を私に向けて微笑んだ。

「あ、いえ。私はオリフお姉様では……その、書斎に用事があって。ちょっと調べ物をして良いですか?」

「調べ物……何かしら?おりふぅの好きに使って構わないけど、後で読んだ本は戻しておいてね。」 
 
 私はひらひらと手を振るアルフラウお姉様に一礼すると、調べたかった本の元へと急いだ。
 本棚にはフィーの記憶と同じく絵本が沢山並べられていたが、隙間のあった部分にも本が収められていた。
 箔押されている背文字のタイトルは「魔王と森の魔女」と書かれていて、書斎の本を殆ど読んだことのある私の記憶にはない絵本だった。
 何か触れてはいけないような錯覚を感じながらも、私はその本を恐る恐る手に取った。
 表紙の絵には白い服を着た魔女と、魔王らしき黒衣の少女。
 そして、紫の髪をした少女が描かれていた。
 
「あれ……この女の子、誰かに似てる。」 

 そう言いながら本の項を捲ろうとする指が震えて動かない事に気がついた。
 感情は中身を読みたい気持ちで焦っているのに、身体がそれを否定するように動かなかった。
 この本を読む事で、何か良くない事が起きると本能が拒否しているのかもしれない。
 フィーの記憶にも私の記憶にもない、子供の頃に“読んだことのあるはずの絵本”
 この本に、何か私の記憶に関わる事が隠されている可能性が高い。
 私は深く深呼吸をして感覚を研ぎ澄ますと、少しずつ身体の硬直が解けて行くのを感じだ。
 身体の自由を取り戻して私が項を捲ろうとすると、絵本に引きずり込まれる感覚に襲われ、私は書斎ではなく何処かの違う部屋の中に立っていた。 その部屋は窓が一つもなく、壁は何の素材で作られているのか分からない黒い部屋だった。
床には黒の薔薇が敷き詰められていて、疎らに置かれた燭台が仄かな灯りを放っていた。
私の手前には錆一つない金属で出来たような、光沢を持つ灰色の扉が一つだけあった。
部屋の奥には黒いカーテンに覆われた天蓋付きのベッドがあり、そこには白いフリルをふんだんにあしらったドレスを纏う少女が座っていた。
紫の長い髪に紫の目をした少女は、大きなクマの縫いぐるみを抱えて退屈そうに足をバタつかせていた。
 こんな所に一度も来た記憶はない筈なのに、私は何故かこの部屋に懐かしさを感じていた。
目の前の少女はさっき開いた絵本で見た紫の髪の少女に似ていて、初めて見る筈なのに何処かで会ったような錯覚に囚われた。

私は床に敷き詰められた薔薇を踏まないように気をつけながら、少女の腰掛けるベッドまで近寄っていった。
紫の髪の少女は私の事に気がついていないようで、私が近くで声をかけても何の反応も示さなかった。
少女に気付いて貰うために私が彼女に触れようとした時、奥の扉が軋むような音を立てて開くのが見えた。
少女もそれに気がついたようで、扉を開けて部屋に入る人影を興味深そうに見つめていた。
部屋に入って来た人物は、青い髪に青い目をした白衣を着た大人の女性だった。

「……あなたは誰?」

扉の向こうからやってきた女性に、紫の髪の少女は首を傾げながら尋ねた。

「良かった……ここまで来て誰も居なかったら、絶望的だった。」

青い髪の白衣の女性は安堵の息を漏らしたあと、少女のいる天蓋付きのベッドの方へと歩み寄った。
彼女も私の事が見えていないのか、私が会釈をしても何の反応も示さなかった。

「私はヲルン・シフェル。オリフィエル……貴方を助けに来たの。」

ヲルンと名乗る女性が私の傍を通り過ぎて、ベッドに座る少女の頭を静かに撫でた。
オリフィエルと呼ばれた少女は不思議そうにヲルンを見つめたあと、目を細めて首を横に振った。

「私はオリフィじゃありませんよ?私はオリフィア。オリフィのお友達です。」

「あ、え……オリフィアさん?オリフィって、フィーの事なの?ここは何処なんですか?」

私がオリフィアと名乗る少女に触れようとすると、私の手は彼女の身体をすり抜けてしまったので、驚いて手を引っ込めた。
私はどうやら幽体か意識体になっているらしい。
試しに燭台の灯に触れても、手は炎をすり抜けるだけで熱くも寒くもなかった。
もしかしたらこれは誰かの夢の中かもしれないし、私の記憶の一部かもしれない。
二人に触れる事も話す事も出来ない歯痒さに胸が締め付けられる思いだったが、これから起こる事だけでも忘れないように二人の会話に耳を傾ける事にした。

「おかしいわね……オリフィはどこにいるの?それに、オリフィア。貴女は何故ここにいるの?」

ヲルンさんは少女に視線を合わせる為に腰を屈めると、クマの縫いぐるみを抱えるオリフィアの肩に手を添えて訪ねた。

「オリフィは消えてしまいました。私もオリフィを探し回りましたが、何処にもいませんでした……私はずっと、オリフィの帰りをここで待っています。」

妙に大人びた口調の少女は、目を伏せながらヲルンに答えた。

「消えてしまった……そう。本当にオリフィがいないのなら、貴女はここにはいない筈よ。だって、此処は―」

背筋が凍るように寒くなり思わず身震いをした私は、ヲルンから紡がれる次の言葉を待って息を飲んだ。

「オリフィ、貴方の夢の中なのだから。」

オリフィと呼ばれた事にオリフィアはきょとりとしたあと、首を横に振ってヲルンに言った。

「はい、ここはオリフィの夢の中。でも私はオリフィじゃありません……私はオリフィのお友達になる為に、絵本から呼び出されたオリフィアです。」

「……貴方が持っていた「魔王と森の魔女」という絵本の?」

ヲルンが尋ねると、オリフィアは少しだけ微笑んで頷いた。

「はい、よくご存知ですね。オリフィにはお友達がいなくて寂しいので、夢の中では私が一緒に遊んでいるんですよ。」

オリフィアはそう言うと、クマの縫い包みを持ち上げてヲルンに見せた。

「ここで縫い包みと遊んだり、お絵描きをしたり、唄を歌ったりしていました……でも。」

少女は哀しそうに目を伏せながら、小さく呟いた。

「オリフィは大人になって、もう私の事はいらなくなってしまったみたい……この部屋にも、殆ど来てくれないし。」

オリフィアの言葉にヲルンは頷いて、彼女の頭を優しく撫でた。

「そう……だから深層に、この部屋があるのね。貴方がいる事で、オリフィを助ける事ができるかもしれないわ。」

「……私がオリフィを助けるの?」

 首を傾げるオリフィアにヲルンは頷いた。

「ええ、オリフィアの記憶からオリフィを再構築する事ができるかもしれないから……ねぇ、オリフィア。聞いてくれる?このまま待っても、オリフィはもう来ないわ。」

「あ、え……そんな事ありません、きっと戻ってきます。だって、今までだってちゃんと……」

 オリフィアの言葉を制してヲルンは彼女の肩を強く掴んだ。

「いいえ……オリフィは死んでしまったの。もう、此処には戻って来ない。」

「っ!?……そんな、嘘。オリフィは戻ってきます……死んでなんていません。」

 俯くオリフィアにヲルンは下から覗き込むように視線を合わせて、彼女に言った。

「確かにオリフィの身体は生きているけれども、心は死んでしまったの……このままでは衰弱して、貴方もこの部屋も消えてしまうわ。」

「そんな、でも……オリフィは死んでいません。どうすればオリフィを助けられるんですか?」

 私はデジャヴを感じ、ヲルンがこのあと告げる言葉を制止すべく彼女を掴もうとしたが、やはり手は身体をすり抜けてしまいどうする事もできなかった。

「違う!止めて!オリフィの心は鏡の中に封じられているだけなの!私はオリフィじゃない!」

 私の叫び声は聞える筈もなく、ヲルンはオリフィアに優しく微笑みながら言葉を紡いだ。

「そう……死んではいないわ。貴方がオリフィなのだから。」

「私がオリフィ?違います……私はオリフィアです。私はオリフィのお友達で……」

 ふるふると首を横に振る紫の髪の少女……あの子は――私。
 私は心を落ち着かせようと、無意識にテーセウスから貰ったカフスピアスを指で何度も擦っていた。

「鏡の世界でとても辛い事があったのでしょう。でも、何時まで夢の世界に逃げていてしまっていたら、現実の貴方が死んでしまうわ。お願い……帰ってきて。」

 ヲルンの言葉にオリフィアは身震いすると、俯いてクマの縫いぐるみをぎゅっと抱きしめた。

「オリフィがお母様に刺されて、真っ赤になって……お母様もガラスが割れたみたいに真っ赤になって……どうして、オリフィは何も悪くないのに……」

「ええ、あなたは悪くないわ……オリフィ。貴方を責める人は誰も居ない。だから、一緒に戻りましょう?」

 ヲルンは微笑みながら、オリフィアに手を差し伸べた。

「私がオリフィの代わりに貴方と一緒に行けば、オリフィを助ける事ができるの?」

 静かに頷くヲルン。

「分かりました……貴方と一緒に外の世界に……行きます。」

 紫の髪の少女がヲルンの手に触れると、彼女の髪の色は藍色に変化して、眼の色のそれはオリフィと同じになった。

「オリフィ、失ったものは取り戻して行けばいいの……貴方の欲しかったお友達もきっと作る事ができるわ……大丈夫、心配しないで。」

 私の姿になったオリフィアを、ヲルンは優しく抱きしめた。
 姿の変わってしまった自分にオリフィアは戸惑いの表情を見せていたが、クマの縫いぐるみをベッドに置くとヲルンに手を引かれてベッドから身を起こした。
 部屋の去り際にオリフィとなったオリフィアは、首から下げていた宝石の散りばめられた鍵を取り出してヲルンに言った。

「オリフィがいつでも戻って来れるように……この部屋は残しておきます。」

 私は彼女達を追う事を忘れ、ただ呆然と部屋に立ち尽くしていた。
 灰色の扉が閉じ、カチャリと鍵をかける音が聞こえると二人の足跡は遠ざかっていった。
 彼女達の足音が聞えなくなった頃、燭台の灯は次々と消えてゆき私の視界は真っ暗になった。

「待って!」 
 
 扉の向こうに叫んだ筈の私の声は、いつの間にか還って来た現実の書斎に響き渡った。

「……おりふぅ、大声を出してどうしたの?」

 心配そうな表情で駆け寄るアルフラウお姉様に、私はどんな表情をしていたのだろう。

「やっぱり、私はオリフィさんじゃなかった……私はオリフィさんの夢……」

「おりふぅ、どうしたの?ね、そんな顔をしないで……貴方は夢じゃないわ。此処にちゃんといるじゃない。」

 アルフラウお姉様はおそらく重いであろう私の身体を抱きとめながら、肩をあやす様に叩いた。

「あ、はい……その、大丈夫です。それでも、オリフィさんと話しあえる希望が持てました。」

 私よりきっと、現状を把握できていないアルフラウお姉様の方が混乱しているに違いない。
 深呼吸をして心を落ち着かせた後、私はアルフラウお姉様からそっと離れて立ち上がった。

「私が誰なのか分かりました。私、彼女に会ってもう一度話しあってきます。私もオリフィさんの一部なんだって伝えないと……彼女の居場所は私の中にあるってちゃんと言わなきゃ。」

 アルフラウお姉様はきょとりとしながら私を見ると、曖昧な微笑みで私に頷いた。

「良く分からないけど、悩みが解決したみたいね?いってらっしゃい、気をつけて戻ってきてね。」

「はい、行ってきます。アルフラウお姉様。」

 私は書斎にある転送用の魔法陣へ乗ると、偽島へ戻るべく場所をイメージしながら呪文を詠唱した。
次の瞬間、私の身体は魔法陣から姿を消し、見慣れた場所へと降り立っていた。

「はやくフィーに会わなきゃ……って、あ。」

 そこは、とても私に見覚えのある、沢山の薔薇に囲まれた庭先だった。
 
「あら、オリフィエル様、ごきげんよう……門から入れば宜しいですのに、わざわざ飛んでいらしたのですか?箒も持たずに。」

 のんびりと綺麗な装飾の施された如雨露で、薔薇に水をあげているヘルメスさんと目が合った。

「あ、いえ……その、ちょっと間違いが……」

「ああ、今日はオリフィエル様のお誕生会でしたね。準備の方は整っていますのでどうぞ此方へ。」

 如雨露を一旦地面に置いたヘルメスさんは、一礼するとお屋敷の方へ手をかざして微笑んだ。
 私の強く想い描いた場所は、どうやら自分のテントではなくテーセウスのお屋敷だったらしい。
 それ程に私の心がテーセウス……彼に依存している自分に気付くと同時に、じっと見つめられているヘルメスさんの視線にも気づいて私は言葉を失った。

「あ、そのっ!?出直してきます!すみませんっ!」

「……あ、逃げた。」

 私は恥ずかしさのあまり火照る頬を手で抑えながら、全速で自分のテントへと舞い戻っていった。
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