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2018-09

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日記67日目

語られることのない物語。

むかしむかしあるところに悪魔の兄弟がいました。
お兄さんはたいへん強くわがままで、欲しいものは何でも手にいれないと気がすみませんでした。
弟は器用でうそつきでしたが、わがままではありませんでした。
ある日お腹がすいたお兄さんは我慢ができなくなって、弟まで食べてしまいました。
身体をはんぶん食べられた弟は、嫌いだった兄さんのことがもっと嫌いになりました。



 壁掛けランタンの灯りだけが仄かに部屋を照らす薄暗い部屋。
 赤い目と紫の目を持つ少女は、天蓋の付いたベッドに腰掛け一人で本を読んでいた。
 大きなクマの縫いぐるみを背もたれにして、父の書斎から持ち出してきた絵本を黙々と捲る姿は年端もいかない子供には相応しくなく、長い睫毛に憂いを帯びた瞳は大人の女性を思わせる。
 
 少女の細い指が絵本のページを捲ろうとすると、音もなく大きな何かが灯を遮った。
 少女が顔を上げて灯を遮った先を見ると、そこには黒髪の長身の男が笑顔を浮かべて立っていた。

「へぇ……弟の匂いを辿ってきたら楽しい処に来ちゃったなぁ。裏界に生者を隠すなんて、素晴らしいじゃないか。」

 突少し眉をしかめながら首を傾げる少女に、黒髪の男は手を伸ばすと無造作に頭を撫でた。

「結界に綻びがなかったら、気づかなかったけどねぇ。無理やりこじ開けてきたから、力を随分使っちゃった。」

 大げさな身振りではしゃぐ男を足元に影がないことを、少女は不思議そうに見つめていた。

「おっと、自己紹介がまだだった。僕はオルドローズ。君の名前はなんて言うんだい?」

 男は黙ったままの少女の長い髪を、弄ぶように細い指で梳いた。

「……オリフィエル。」

 少女が名乗った名に思い当たる節があるのか、男は顎に手を当て少し考え込んだ後、思い出したかのようにパンっと手を叩いた。

「オリフィエル!あの紫の魔女の?こりゃ驚いた!君はそうか、転生体なのか……確かにただの人の匂いじゃない。」

 興味深そうに眺める男の視線を嫌がるように、少女は顔を背けた。

「君が鍵じゃ、僕も此処では我慢するしかないかぁ……こんな処で心中したくはないからね。」

 恨めしそうな表情で溜息をつくオルドローズに、少女は訳が分からず首を傾げた。

「ああ、こっちの話だから気にしなくていいよぉ。それよりも、オリフィエル。」

 すぐに笑顔に戻った男は少女の隣に腰掛けると、ベッドのスプリングの跳ね心地を子供のように楽しんだ。

「君はこんな処で寂しくないのかい?外の世界は楽しいよ。美味しい物もいっぱいあるし、楽しい事も沢山ある。」

「外の世界?この本みたいに他の世界があるの?」

 少女は読んでいた本を指さして男に尋ねた。

「そうだよ。僕は外の世界から来たんだ。僕に鍵を渡してくれれば、君を外の世界に連れ出すことだってできる。」

 ベッドから飛び起きたオルドローズは、少女の宝石のような瞳を覗き込んだ。

「部屋の鍵の事?でも、鍵がなくても貴方は入って来たじゃない。」

「いやぁ、その鍵じゃないんだけどね……でも、君が鍵の掛け方を覚えてしまったら、僕は此処に来ることが出来なくなっちゃうんだ。」

「おじさんは謎々が好きなの?言っていることがよく分からないわ。」

 ふくれっ面をする少女の頬を、オルドローズは指でつついてその触り心地を楽しんだ。

「ああ、ごめんごめん。もっと簡単な取引をしよう。僕が君の願いを叶えるから、代わりに鍵を僕に渡して欲しいんだ。」

 玩具のように扱われて機嫌の悪そうな少女に、オルドローズは蕩けるような甘い声色で囁いた。

「僕は優しいから、君の願いを何でも叶えてあげるよ、オリフィエル。」
 
 突然の申し出に、少女はきょとんとしながらオルドローズの顔を見た。
 やがて少し考え込んだ後、読んでいた絵本を抱えて彼に尋ねた。

「……本当に?」

「本当ですとも、お嬢様。」

 オルドローズは淑女に挨拶をするかのように、自分の胸元に手を当てるとやや大袈裟に頭を垂れた。

「だったら、この本の中のお姫様を助けてあげて。私……この子とお友達になりたいの。」

「おやおや、随分メルヘンチックなお願いだねぇ。本の中のお友達を助けてあげるだけでいいのかい?お安い御用さ。」

 オルドローズが少女の持っていた絵本に触れると、絵本のページが生きもののように次々と捲られていった。
 オリフィエルが興味深く絵本を眺めると、ページに描かれた絵や文字がまるで絵の具のように混ざり合った。
 全てのページが書き換えられると、持っていた絵本は表紙がきらびやかに装飾された黒い本になっていた。

「さぁ、最後のページを捲ってごらん。君の望む結末を用意してある。」

 少女が言われたとおりにページを捲ると、呪いの解けたお姫様が幸せに暮すお話が綴られていた。

「それじゃあ、約束どおりに鍵を渡してもらうね。ああ……心配しなくても大丈夫だよ。鍵を君から奪うわけじゃない。スペアの鍵を作るだけさ。僕が元の世界に帰れるようにね。」

「ねぇ、本は確かに変わったけど、約束とちょっと違……」

 少女が口を尖らせると、オルドローズはその口元に指をあててウインクをした。

「大丈夫、その願いも半分だけ叶えてある。残りの半分は、君が僕の処に来たときに叶えてあげよう。」

「あなたの処へ……どうやって?」

「んー、オリフィエルが大人になったら、僕の処へ来れるように手筈を整えておこう。外の世界に出たら薔薇を身につけておいてね。薔薇が君を僕のところまで導いてくれるから。」

 少女がなにか言おうとすると、オルドローズは虚空を割くように手を振りかざした。

「おっと、そろそろ君のお父さんとお母さんに見つかってしまいそうだ。僕はこの辺で失礼するよ。」


「愉しみだなぁ。弟が君に会ったら、どんな顔をするか楽しみだぁ。それじゃあね、オリフィエル。」

 男はそう言うと少女の返事を待つことなく、虚空から現れた渦のようなものに飛び込んで消えた。
 オルドローズがいなくなった後、少女は遠くで硝子のようなものが割れる音を聞いたような気がした。
 
 オリフィエルは母親が部屋にやってきた時、今日起こった出来事を話そうとしたが、いつの間にかオルドローズと過ごした時間は彼女の記憶から消え去っていた。
 悪魔によって書き換えられた絵本だけが手元に残され、オリフィエルはその本を肌身離さず持ち歩くようになった。
 オリフィエルが絵本を抱えて眠りにつくと、夢の中で絵本の少女……オリフィアと出会ことができた。
 二人はすぐに仲良くなると、一緒に歌を歌ったり、外の世界の話をしたりして遊んだ。
 本を読むことしか楽しみのなかったオリフィエルにとって、夢の中で過ごす時間は、両親と過ごす時間よりも、かけがえの無いものとなっていった。

コソコソと追記。
67日のテーセウスさんの絵日記に日記の絵を描いていただいていました。
幼女のフィーの姿が見れて感激です。ありがとうございます><

野薔薇様と絵本の少女
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