2018-07

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日記68日目

 -ヴァルプルギスの夜- 



「カボカボさんから招待状を頂いたのよ。」 

 パタパタと音を立てて、廊下を駆けてゆく二つの小さな焔。 
 一人の少女は片手に松明、もう片方の手には南瓜の刻印のついた招待状を握り締めていた。 
 窓からの陽射しを受け燦めく金髪は、上機嫌な少女の気持を示すかのよう、踊るように風になびいた。 
  
「たんたんさんからお洋服も頂いたのよ。」 

 もう一人の少女も片手に松明を持ち、もう片方の腕にはキモかわいい鳥人の冥怒人形を大切そうに抱えていた。 
 二人の甘く弾む声が、ハーモニーとなって廊下に反響する。 
 ドレスのスカートの隙間から、黒くて細い尻尾が鞭のようになめらかに撓った。 

「キュンキュンしてヴァルプルギスの夜が来るまで待てないわ!」 

「待てないわ!オリフィエルに自慢しに行かなくちゃ!」 
  
 碧色の目を輝かせながら二人の少女、ドルチェとアマービレの声が木霊のように響いた。 
 広い屋敷の中を迷うこと無く、少女達はオリフィエルの部屋へと息せき駆けてゆく。 
 フォンティン家の双子は、すっかり白きの庭のお屋敷の生活に順応したようだった。 

 ヴァルプルギスの夜。 
 それは死者と生者の境界が弱まり、人外の者達の力が満ちる日。 
 魔女や魔の眷属達が中心となって、篝火を焚き春の到来を祝う前夜祭である。 
 魔女のオリフィエルはこの日の為に、テーセウスに夜会用のドレスを仕立てて貰っていた。 
  
 数日前。 
 オリフィエルとテーセウスが、ヴァルプルギスの夜に参加するという話を、双子はスパイごっこと称して、隣部屋の壁にコップ当てて盗み聞きしていた。 
 ドルチェとアマービレは部屋に戻って室内会議をし、こっそり二人の跡をつけてヴァルプルギスの夜に参加する計画を企てた。 
 折角の晴れの舞台に着てゆく衣装代を手に入れるために、オリフィエルのへそくりを探したり、テーセウスの美術品を質屋に横流ししようと試みたが、思うように計画は進まなかった。 
 失意のどん底に沈み、自分達の部屋でぐったりと項垂れていた二人だったが、屋敷に届けられた荷物によって状況は一変した。 
  
 ドルチェとアマービレ宛に送られてきたその荷物は、リボンで包装された大きめの箱で、包装を開けてみると箱はハンガーボックスになっていた。 
 ハンガーボックスの中には、双子のサイズにピッタリな衣装が二着と、メッセージの添えられたカードが入っていた。 
 カードには南瓜のシルエットの刻印があり、それを見た双子は歓喜の声を上げた。 

「カボカボさんからだわ!『ドレスをプレゼントします』ですって!」 

「たんたんさんからだわ!ヴァルプルギスの夜への招待状よ!空気読みすぎだわ!」 

 早速プレゼントされたドレスに着替えた二人は、暖炉の火を松明に移してオリフィエルへ自慢しに向かったのだった。 

 オリフィエルの部屋には、テーセウスが仕立てた夜会用の純白のドレスが飾られていたが、肝心のオリフィエルの姿はなかった。 

「……おじさま、パネェな。まさに馬子にも衣装というやつね。」 

「ええ、でも私達の衣装も負けてないわ。ってか、それ褒めてねーから。」 

 双子はオリフィエルのドレスに近付くと、自分達のドレスと見比べながらデザインの批評を始めた。 

「白は確かにオリフィエルのイメージには合うけど、ヴァルプルギスの夜はもっとこう、殺伐としたものなのよ!」 

「そう、目を合わせただけで殺るか、殺られるかぐらいの雰囲気!人妻はお帰りください!」 

「きっとみんな、私達の犯罪スレスレの魅力に釘付けね!契約も思いのまま!今から燃えてきたわ!」 

「はぎゃぎひゃふぐが!」 

「あら、冥怒人形も燃えているのね!ってか……何かこいつの髪の毛燃えてね?」 

「ばぎががはひゃひがぐわらまママァー!ママァー!!サトウガジローガ、毛先からサトウガジローガがクルヨォォオオオ!!」 
  
 松明が引火した冥怒人形の髪が激しく燃えている事に気付いた双子は、慌てて冥怒人形を叩いてみたり、床に擦りつけてみたりして火を消した。 
  
「ふぅ!危なかったわ!もう少しで、冥度人形がサトウガジローになるところだったわ!」 

「私達の衣装も無事ね。大事にならなくて良かったわ!ところでおめー……松明どこやった?」 

 ドルチェの質問に、冥怒人形をだき抱えたアマービレが辺りを見回すと、松明は既にオリフィエルのドレスの裾元で煌々と燃えさかっていた。 

「わーぉ!ファンタスティック!」 

 二人は思いつく限りの消火活動で火を消そうと努力したが、勢のついた炎はあっという間にドレスを焼き尽くし、壁も屋根も火の渦に呑まれていった。 

「うん!やれるだけのことはやったわ!」 

 炎で崩れ落ちるオリフィエルの部屋を後目に、双子は清々しい笑顔で頷きあった。 
 双子たちは廊下を抜けだすと、ドレスを着ているにもかかわらず、疾風のように屋敷の外まで駆け出していった。 
  
 白きの庭の屋敷の者達が火事に気付き、迅速に消火に努めたものの、完全に鎮火するまでには屋敷の半分が焼け落ちていた。 

「……お怪我はありませんか。」 

 館の主であるオリオンを持ち上げて脱出したテーセウスは、人形のように無抵抗で無表情な彼を心配そうに見詰めた。 
  
「大事ない。些か胸焼けがするだけだ。すぐに直る。」 

 オリオンの言葉に胸をなで下ろしたテーセウスは、主をそっと降ろすと先に避難していたオリフィエルの方へと駆け寄った。 
  
「大丈夫ですか、オリフィ。怪我はないようでなによりです……オリフィ?」 

 テーセウスがオリフィエルの目の前で手を振っても、まるで彫像のように固まったまま反応がない。 
 白い魔女服は煤けてしまって灰色だったが、焼け落ちた自分の部屋を呆然と見つめるオリフィエルの表情も、真っ白な灰のようだった。 
  
「……相当ショックだったようですね。屋敷の方の片付けもありますし、今日は屋敷で大人しくしていましょうか。」 

 テーセウスはオリフィエルの身体に付いた煤を丁寧に払うと、予め持ち出しておいたファーケープをそっと掛けた。 
  
「テーセウスさん。屋敷の者たちの無事は確認しましたが、ドルチェ様とアマービレ様の姿が見えません。」 

 屋敷の使用人の一人であるノウァは、オリフィエルの安否を気遣うテーセウスに状況を報告した。 

「そうですか……あの子たちが逃げ遅れるとは考えにくいですね。むしろ、この火事の首謀者じゃないかと睨んでいるのですが。」 

「火遊びですか……調子にのって『これから毎日家を焼こうぜ』なんて事になっているかもしれませんね。被害が大きくならないうちに、お二人を探しに行って参ります。」 

 真っ白な灰のように立ち竦んでいるオリフィエルに視線を向けると、ノウァは憐れむような表情でため息を漏らした。 

「よろしくお願いします。後片付けの方は、こちらでやっておきましょう。ドルチェと、アマービレの方を頼みますよ。」 

「御意にござります。」 

 ノウァは一礼したあと支度を整え、白きの庭の門を潜り抜けようとした。 
 門の前にはちょうど郵便屋の男が立っていて、リボンで包装された大きめの箱を抱えてこちらを見ていた。 
  
「こんにちは。こちらにノウァ・ルーナ様はいらっしゃいますか?荷物のお届けものです。」 

「はい、私ですが。荷物?私宛に……誰からかしら。」 

 郵便屋から荷物を受け取ると、ノウァは一旦屋敷に戻って包装を開けてみることにした。 
 大きめの箱は見た目よりは軽く、試しに箱を振ってみたがスカスカという音しかしなかった。 

「これは、ドレス?私の為に誰が?」 

 箱の中身はハンガーボックスになっていて、ドレスが掛けてあった。 
 ドレスには南瓜のシルエットの刻印されたメッセージカードが添えられていて、ノウァはカードを手に取るとそれを読み始めた。 
  
「この刻印。カボたんさんからかしら。これ、ヴァルプルギスの夜の招待状?篝火を持って参加って……まさか、ねぇ。」 

 ノウァはカボたんさんはとても器用で、レーレさんの衣装なども仕立てているとオリフィエルから聞いたことがあった。 
 おそらくこの素敵なドレスも、カボたんさんの仕立てたものだろう。 
 フィーの頃から彼に興味を持たれていたことは知っていたが、それはオリフィエルに対する興味の延長上でしかないと思っていたので、この突然のプレゼントにノウァは些か驚いていた。 
  
「……なんとなく、ドルチェ様とアマービレ様の居場所が分かった気がするわ。夜会に行けば、なにか手掛かりが見つかりそうね。」 

 ノウァは白きの庭の茂みでドレスに着替えると、灯りを用意してヴァルプルギスの夜の会場を目指し歩きはじめた。 

 
 


 会場には大きな篝火が焚かれ、魔女や人外な者達が踊ったり会場に用意してある料理を飲み食いしたりして楽しんでいた。
 ノウァが会場を見回すと、長身で長髪のシルクハットの男がすぐに目についた。
 ずいぶん背の高い人間だとはじめノウァは思ったが、その男の手と足は異様に長く口の端は糸のようなもので縫われていた。
 人外の気配と容姿を持つシルクハットの男は、ロボットのカボたんさんとは違うようだが、フォンティン家の双子達は既に懐いている様子で、彼の傍で陽気な笑い声を上げていた。

「カボカボさん、身長は同じなのに顔がスリムになってる!」

「たんたんさん、ダイエット大成功ね!カッコイイわ!」

「ハイ、見事顔面ダイエットニ成功致シマシタ。」

 シルクハットの紳士は双子の言葉に頷いたあと、ずっと見つめているノウァの方へ会釈をした。

「確かにカボたんさんと声は同じだけど……もしかして、中の人?」

 ノウァが呟いた言葉が聞こえたのか、シルクハットの紳士は手を横に振って微笑んだ。

「中ノ人ナドイマセンヨ、夢ト希望ガ詰マッテイルダケデス。
ヨウコソ、当日突然ノ誘イトイウ不躾ナ行為ニモ拘ラズ来テ下サッタ寛大ナ貴女ニ多大ナル感謝ヲ。」

 男はドルチェとアマービレが足に縋り付いたままの状態で、やや大袈裟な素振りでお辞儀をしたあと、ノウァの姿を見て満足そうに目を細めた。

「衣装ノ方モトテモ良ク似合ッテイラッシャル…イヤイヤ、自画自賛ニナッテシマイマスガソノデザインヲ選ンデ本当ニ良カッタ。
美シイ方ヲ着飾レルトイウノハ楽シイモノデスネェ?」

「カボたんさん……とは違うのかしら。
このドレスは、あなたが仕立ててくださったのですね。素敵なドレスまで頂いて、お招きありがとうございます。貴方のことは何と呼べば宜しいのかしら?」

「ワタクシノ事ハ南瓜男ヤポチ、タマ等ドウゾ御好キニ。喜ンデ返事ヲ致シマス。
カボタンハワタクシガ作ッタロボットデス。最モ、思考ルーチンハワタクシヲ元ニプログラムシテアルノデ粗変ワリマセンガ。」

 ノウァと南瓜男と名乗る男が話しているところへドルチェとアマービレが割りこむと、ノウァの身体に人差し指を押し当てた。

「細かいことは気にしたら負けよノウァ。私達もカボカボさんにご招待されたの。あなたも呼ばれたのなら仲間に入れてあげるわ。」

「はい、ありがとうございます。ドルチェ様とアマービレ様が新しい遊びに目覚めて、街中の家を焼いていないか心配しておりました。どうやら安心して、夜会を楽しむことができそうです。」

 ノウァの言葉に双子たちは目を見開き驚いたが、表情を悟られまいと必死に冷静を装った。

「な、何を言ってるのか私達には分からねーぜ。そんな事より、ヴァルプルギスの夜を楽しむのよ!ヴァルプルギスパワーがここに溜まってきたわっ!」

 ドルチェは手を上げると、腋の下を指さして鼻息を荒立てた。

「溜まってきたわっ!お陰でなんだか漲ってきたわっ!」 

 アマービレも真似して腋の下を指さすと、二人の尻尾がピンと立った。

 ノウァは屋敷の火事の事を二人に問い質そうと思ったが、南瓜と名乗る男の好意を無碍にしてしまっては悪いので、ヴァルプルギスの夜が終わるまで黙っていることにした。

「私は尻尾がないのでなんとも……でも、そうですね。南瓜さんの折角のお誘いですから、楽しんで帰りましょうか。」

「ハイ。折角ノ御祭リデス、楽シクヤリマショウ。マダ夜ハ、始マッタバカリデスカラネェ。」
 
 ノウァは南瓜の男に一礼したあと、微笑みながら手を差し出した。

「一緒に踊っていただけますか、南瓜さん。オリフィエルの歌ほどの価値はないかもしれませんが、踊りをお披露目する相手は貴方が初めてですの。」

「コレハコレハ…ワタクシデ宜シケレバ幾ラデモ。オリフィエルサンカラ歌ヲ頂キ、
貴女カラハダンスノ御誘イヲ頂ケルトハ…イヤイヤ、ワタクシトイウ男ハ実ニ幸運ダ。
人ノ厚意ニ価値ノ差等御座イマセン、恐悦至極。参リマショウ。」

 南瓜の紳士は頷いてノウァの手を引くと、篝火を囲って踊る輪の中へと消えて行った。
 二人の様子を惚けてみていたドルチェとアマービレだったが、取り残されたことに気付いて二人は顔を見合わせた。 


「ノウァのやつ、なんですかアレ!ちょっと調子に乗ってませんか!?」

「私達のカボカボさんの独占なんて許さないわ!展望台ごっこをまだしてもらってないわ!」

「そうよ!たんたんさんは私達のものよ!私達の美しい景色を取り返すわよ!」

 ドルチェとアマービレは腕を交差させ頷くと、ノウァと南瓜男の消えた輪の中へと颯爽と飛び込んでいった。
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