2018-07

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裏日記3日目

 ―とある少女の記憶

 そこはお父様とお母様と私しか居ない世界だった。
 お部屋には絵本はいっぱいあったけど、絵本の中に出てくるような動物も人もここには誰も居なかった。
 お父様とお母様からは、むやみに家から出てはいけないと言われていたけど、家の外に何があるのか、どんな景色が広がっているのか興味はつきなかった。
 知らない人に会いたいという好奇心が抑えられずに、私はお母様やお父様に見つからないよう、こっそりと家を抜けだして探索に出かけた。
 探索の終わりはあっという間で、少し歩くと何処へ行っても白い壁に行く手を遮られた。
 白い壁は触れると金属のように固く冷たくて、ずっと触っていると何かが奪われるような錯覚がして近寄るのが怖くなった。

「お母様。お外の壁の向こうには何があるの?」

 私の質問に、お母様は首を横に振り「なにもないわ。」答えるだけだった。

 何処へ行っても白い壁に阻まれる憂鬱さで、探索にも飽きてきたある日。
 私は白い壁に、見たことのない黒い模様がついている場所を見つけた。
 それはよく見ると模様ではなくて、壁に入った亀裂だと触れて初めて気づいた。
 亀裂の中を覗き込もうと近づくと、突然亀裂の向こうから低い声がしたので私は尻餅をついてしまった。

「何……誰かいるの?」

 私は尻餅をついた服の埃を払うと、声のした方に警戒をしつつ尋ねた。

「あぁ、僕の声が聞こえるんだね。怖がらないで……僕は君とお友達になりたいんだ。」

「……お友達?」

 魅惑的な言葉に思わず身を乗り出した私は、壁の方へと近寄った。

「そう……お友達になりたいんだ、オリフィエル。僕のことはそうだな……ナナシとでも呼んでおくれよ。」

「ナナシ?どうして、あなたは私の名前を知ってるの?」

「ああ……そんな事はどうでもいいじゃないか。オリフィエルはお友達が欲しいんだよね。僕もお友達が欲しかったんだ。仲良くしよう、オリフィエル。」

 ナナシと名乗った壁の向こうの声は、親しげに私に語りかけてきた。

「ナナシ……ナナシは壁の向こうにいるの?そっちには動物さんや、妖精さんもいる?」

「ああ……いるよ。動物もいるし、妖精もいる。美味しい食べ物だっていっぱいある。こっちの世界が気になるかい?」

「うん、私の家にはお父様とお母様しか居ないの。いいなぁ……ナナシの世界のお話をもっと教えて?」

 それから私は、ナナシと話をするために家を抜けだしては亀裂のある壁の前にやってきた。
 ナナシの住む世界の話は、まるで絵本で読んだような世界と同じく動物や妖精がいて、人もたくさんいると聞いた。
 私は次第に壁の向こうの世界に思いを馳せるようになり、ナナシの住む世界へと行ってみたくなった。

「ねぇ、ナナシの世界に連れて行って。」

「ああ、もちろん大歓迎さ、オリフィエル。でもね……その為にはこの壁が邪魔なんだ。オリフィエルが手を貸してくれたら、通れるようになるよ。」
 
「私が……何をすればいいの?」

「そんなに難しいことじゃない。毎日この壁に触ってくれるだけでいいんだ。ちょっと疲れちゃうかもしれないけど、疲れたら休んで次の日に触ってくれたら大丈夫。」

 私はナナシの言うとおり、毎日家を抜けだして壁の亀裂に触れるようになった。
 初めの数日は何の変化もなかったが、暫く続けると壁の亀裂が少しずつ大きくなっていくのが分かった。
 壁に触れると何かが奪われるように疲れるので、それほど長い時間は壁に触れることはできなかったが、繰り返すことで確実に亀裂が広がる事が私の楽しみになった。

「もうちょっとだ、オリフィエル。君の手が通る大きさになれば、こっちの世界に来ることができるよ。」

 ナナシの声は相変わらず低い声だったが、どことなく嬉しそうに聞こえた。
 それから数日経つと、壁の亀裂は私の手が通れるぐらいの大きさになっていた。

「よく頑張ったね、オリフィエル……僕の手は大きくて通らないけど、オリフィエルの手なら通れるんじゃないかな。さぁ、こっちに手を伸ばしてごらん?」

 私はナナシの言葉通りに壁の黒い亀裂に手を差し込んだ。
もうすぐナナシのいる世界にいけるかと思うと、嬉しさと緊張で胸がいっぱいになった。

「……捕まえた。」

 壁の向こうの大きな手のようなものに掴まれた私は、驚いて手を引っ込めようとしたが手が潰れるぐらいに握り締められて逃れることができなかった。

「ナナシ!痛いよ……離してっ!」

「ふふ、離すものか。ようやく手に入った生身を逃したりしないよ。」

 壁の亀裂越しに黒い霧のようなものが私の手に纏わり付くと、肌の色がみるみる青褪めて行くのが分かった。

「やめてっ!お友達になりたいって嘘だったの!?ナナシの嘘つきっ!」

 私の腕を伝って黒い霧は体の方にまで纏わりついてくると、それは人のような赤い目を持つ顔になっていった。
 黒い霧の顔は私の耳元で楽しそうに囁いた。

「いや、嘘じゃない。友達になって欲しいって取引をしたんだ……代わりにオリフィエルの身体を貰うって条件でね。」

「してない!私、そんな約束してないよ!?」

 必死に振り払おうとしても、黒い霧は身体に纏わりついて私の自由を拘束した。

「ああ、オリフィエルと約束したんじゃない。僕が取引したのはアンネリーゼだからね。」

「嘘っ!お母様がそんな事しない!そんな事っ……」

「ははは、どうせ僕のものになるんだから、どっちでもいいじゃないか。そろそろ黙れよ……」

 黒い霧は私の呼吸に合わせて口の中にまで入り込み、私は声を出すことも息をすることもできなくなった。
 助けを求めるように私はもう片方の手で何かを掴もうと腕を伸ばすが、その手はただ空を切るばかりだった。

 意識が遠のいて視界が真っ暗になり始めたころ、意識を呼び覚ますように温かくて力強い手が私の手を握り返してくれていた。

「オリフィエル!大丈夫か!」

ヴォルフラムお父様が、黒い霧を振り払うように手を掴んで私の身体を胸元へと抱き寄せた。

「お父様っ……お父様―っ!」

 私は安堵感から、お父様にしがみついて咽び泣いた。

「勝手に外に出ては駄目だといったじゃないか……大丈夫だ。お父さんが守ってやる。」

 黒い霧はまた人の形をとって私の方へと向かってきたが、お父様は私を抱きしめたまま何かを口ずさんだ。

「返せっ!オリフィエルは僕のものだ!ああ、ぐぁうあああああ!?」

 お父様が口ずさむ歌のせいか、人の形をした黒い霧はボロボロと崩れ落ちていった。

「レクイエムさ……低俗霊如きには勿体無いが、釣りは要らない。消えてくれ。」

「うぁああああ!?消えたくないぃぃいい!?助けて、オリフィエル!」

 人型の霧は絶叫をあげながら溶けるように消えていった。
 私の腕を掴んでいた黒い霧も消え去ったが、ナナシに強く握られた跡は鬱血してくっきりと紫色になっていた。

「痛むかい?時間が経てば元に戻るから、心配しなくていい。さぁ、家に帰ろう。」

それからお父様は、私を背負うと家に向かって歩き始めた。

「オリフィエル、結界……白い壁の向こうは死者の国なんだ。絶対に行ってはいけないよ。」

「お父様……ごめんなさい。あのね、お父様……さっきのナナシがね。」

「ん、なんだい?」

「お母様と取引して、私を貰う約束だったって言ったんだよ。」

私の言葉にお父様は立ち止まると、振り返って私に微笑んだ。

「……オリフィエル。嘘つきの言葉を信じてはいけないよ。アンネリーゼがそんな事をする訳がないだろ。」

「……はい、ごめんなさい……お父様。」

『でもね、ナナシは私の名前を知ってたんだよ。』

 それは、声に出してしまうと此処に居られなくなるような気がして、私は心の中に最後の言葉をしまい込んだ。



 

 それからの私は、壁の向こうの世界に思いを馳せる事も無くなって、部屋に篭るようになった。
 そして、食事には必ず銀の食器を使うようになった。
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