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2018-11

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表日記7日目

 ある晴れた日の空の下。
 黒髪の少女は、大熊猫の玩具屋から買ったペンで虚空に向かって何かを描いた。
 走らせたペンの先には、少女の描いた落書がゆらゆらと風に揺れて浮かぶ。
 少女の落書きはあまりにも杜撰で、本人以外に認識できるような代物ではなかった。
 偽島の探索者であった佐藤淡雪を知るものが居るならば、その落書きが彼女の書いた報告書に描かれた似顔絵と酷似していること気づくだろう。

「おぉ……すげー。」

 黒髪の少女、深雪は空に描かれた落書きに満足そうにシャルトリューズの瞳を輝かせた。
 
 桃色の髪の錬金術師、サクラが散歩の途中で深雪を見かけたのは、次々と描かれる形状し難い何かで、少女の周りが埋め尽くされた頃だった。

「あっ、サクラお姉ちゃんだ!見て、見て、これすげーでしょー?」

「こんにちは、深雪ちゃん。今日はふぉるてと一緒じゃないの?珍しいね。」

「あ、うん。カレーこぼしちゃったから洗ってる……ねぇ、それよりこれ見て!」

 周りに描かれた奇妙な物体を指さし、深雪は自慢気にエヘンと鼻を鳴らした。

「わぁ、ほんとだ~。これ、深雪ちゃんが描いたの?ええと……いっぱいで、すごいね~。」

 空に描かれたソレをどう表現して良いのか言葉が見つからず、たくさんの絵に感心するようにサクラは相槌を打った。

「うん、うさぎさんがいっぱい。いいでしょー!」

「えっ、うさぎ……。あっ、美雪ちゃんはうさぎさん大好きだものね。大熊猫さんの玩具屋さんで売ってたペンで描いたのかな?本当に描けるんだ~」

 描いた落書きを触れて消さないように気をつけながら、サクラは深雪のそばまで近寄って優しく微笑んだ。

「うん、すごいでしょー。サクラお姉ちゃんもなにか描いてー。」

 深雪は周りにある、うさぎというにはあまりにも杜撰な何かを手で掻き消すと、サクラに黒いペンを手渡した。

「あたしに貸してくれるの?ありがとう、深雪ちゃん。どんな感じで描けるのかな……黒板に書く感覚と同じなのかな。」

 試しに、最近レイヤ先生に教わった錬金の合成式を何もない空間に書くと、サクラの筆跡の通りに文字が空に漂った。

「あれ、この式……前に教わったあの式の応用だったんだ。という事は……これとこれをこうして……と。」

 何かに取り憑かれたように、サクラはペンを走らせて何かの式をひたすら書き殴った。
 心配そうに眺める深雪を他所に、桃髪の少女は一心不乱にペンを走らせる。

「あっ、そっか~。これなら、今度の薬の調合は上手く行きそう。」

 空いっぱいの数式に囲まれて、幸せそうにサクラは呟いた。

「サクラお姉ちゃん……算数はいいから、うさぎさん描いてよー。」

 唇を尖らせて袖を引っ張る深雪に気づき、サクラはようやく我に返った。

「あっ、ごめんなさい!今度の調合で作る薬の式に、つい夢中になっちゃって!?うさぎさん、うさぎさんだよねっ。うん、今描くから……あっ。」

 錬金術の式に埋め尽くされた空間は、突如吹いてきた強い風と共に遥か上空へと飛んでいった。
 
 サクラは文字が飛んでいった空をぼーっと眺めていたが、少し経つとガックリと跪いてしまった。

「……あの式、メモするの忘れちゃった。」

「サクラお姉ちゃん……大丈夫?追いかければ見つかるかもしれないよ。深雪、探してこよっか?」

 心配そうに背中を撫でる深雪にサクラは首を横に振ると、埃を払いながら立ち上がった。 

「……ううん、ありがとう。一度書いた式だから、また思い出しながら書くから大丈夫だよ。深雪ちゃんがペンを貸してくれたから、答えが分かったのだから感謝しなきゃ。」

 心配そうに見上げる深雪の頭を、サクラは優しく撫でた。

「そう?えへへー。深雪のお陰だね。お姉ちゃん、今度はうさぎさん描いてね。」

「うん、上手に描けるかな……って、あれ?」

 サクラはペンで空をなぞってみたが、さっきまで描くことができた空間には何も描かれていなかった。
 試しにペンを何度か振ってみると、とても薄い線が空に漂いすぐに消えてしまった。

「あれ、もしかして。インク切れ……かな。」

「ええーっ、うさぎさんもう描けないの。そんなぁ……」

 何も描かれていない空を呆然と見上げながら、深雪はガックリと肩を落した。

「ほんとにごめんね、深雪ちゃん……あ、それじゃあ、今から玩具屋さんに行ってペンを買ってあげる!」

「え、本当?お姉ちゃんが買ってくれるの?」

 目を輝かせて顔を覗き込む深雪に、サクラはめいっぱいの笑顔で応えた。

「うん、あたしもいっぱい書いちゃったから。あ、そうだ!他の色で欲しい色もあるのかな?美雪ちゃんのプレゼントに買ってあげるね。」

「おおーっ、ありがとうサクラお姉ちゃん!深雪ね、全部の色が欲しい!」

「えっ……全部はむ……」

 泣きそうになる深雪に気づいたサクラは、慌てて口元を袖で抑えて目を逸した。

「え、ええと、全部で買ったほうが安いものね。今月のお小遣いを節約すれば……うん、大丈夫、うん。」

 自分に言い聞かせるように、呪文のように何度もうんとサクラは呟いた。

「ありがとう、お姉ちゃん大好きー!またペン貸してあげるね!今度はうさぎさん描いてね!」

 弱々しく微笑むサクラの胸元に、深雪はとびきりの笑顔で埋もれるように勢い良く飛びついた。




「傍から眺めていると、仲の良い姉妹のようね。」

ノウァは目を細めながら、遠間から二人の様子を眺めて呟いた。

「なんだ、羨ましいのか?」

ピンクの着ぐるみの男、ファーヴニールが佇みながらノウァに尋ねた。

「……別に?深雪に関わる時間が減るのは、私にとって都合の良い事だわ。」

「そうか……金も浮いたな。」

「そういうことを言ってる訳じゃないわ。」

「そうか……深いな。」

 手を繋ぎながら玩具屋へ向かうサクラと深雪の姿が見えなくなるまで、ノウァとファーヴニールは何時までも二人を見送っていた。
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