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2018-11

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表日記16日目

 ―つまりは。
 自らが招いた油断による代償。
 零したミルクを嘆いても仕方がない。
 身体から滴り落ちる青色の血溜まりを眺めながら、私は見過ごしてしまった潜在的な警告を、今更ながらに思い返していた。 

 この地は分割世界と呼ばれている二つの世界がある。
 一つは躍動の世界「セルフォリーフ」
 自然に恵まれた肥沃な大地で、最近動植物が恩恵に預かり過ぎて巨大化したり、暴走したりする事件が起きた。
 世界を復元するために、他の世界から召喚されたり、派遣されたりした者達が冒険者としてやってきている。
 もう一つの世界は、否定の世界「アンジニティ」
 セルフォリーフはもちろんの事、他の分割世界の掟に触れたものが送り込まれる無法者の地。
 一度放り込まれたら戻る事のできない世界だが、最近『世界の隔壁の一部が破壊された。』と噂され、住民たちは躍起になってその場所を探している。
 多少凶暴な生物のいるセルフォリーフだが、アンジニティに比べればまだ平和で、深雪のような脳天気でも暮らしていける平和な世界である。
 鏡の映し身を使って二つの世界で暮らしている私にとって、セルフォリーフでの活動は同行している魔術商会や玩具屋さん。さらには、腕利きの護衛のファーヴニールがいるお陰で、身の危険を感じた事がなかった。


「はぁ、粛清人?何それ。」

 酒場で一緒に食事をとった時、ウサギの着ぐるみを着た相棒のファーヴニールから、聞いたこともない単語が出てきた時も、私は気のない返事を返すだけだった。

「眷属なのに知らんのか……異教徒や吸血鬼に対して、異常な執着を見せる連中のことだ。ノウァも注意しておいたほうがいい。謂れもない理由をつけられて、一つの村ごと粛清した事件もある程だ。」

 ファーヴニールはエールを煽りながら、真剣そうな声で語った。

「注意はするけど、相手から名乗ってくれるわけじゃないし、そんな連中に会うとしたらアンジニティでしょう?あっちの私は映し身だから、別に壊されても問題ないわ。」

 私は、セルフォリーフが安全な場所であると錯覚していたのだ。


 ジョンさんが言うには、不幸には匂いというものがあるらしい。
勿論それは比喩だと思われるが、不幸を糧とする眷属であれば、生贄に訪れる災厄を察知する能力があっても不思議ではない。
 オリフィエルと一緒にいる事が多いため見逃しがちだが、テーセウスさんにも不幸を嗅ぎとる能力は備わっているように思える。
 眷属である私にも同様の力が備わっていて良い筈なのだが、正直なところ実感がなかった。
 注意深く観察してみれば、幸の薄い人種を判別することは難しくはないが、それはただの考察であり、不意に起こる不幸を予測する事はできなかったのだ。
 
 ジョンさんが魔術商会に出入りしている理由は、そのうち起きる不幸を「食べるため」だと言っていた。
 身近な人に不幸が起きることは私にとっても糧になる事だが、ファーヴニールの友人であるナナさんや、商会の主であるメイガスさんの命に関わるようなら手放しには喜べない。
 
 私が魔術商会に関わっている理由は、武器の流通を円滑に進めるためだった。
 使用者にいかなる大義があろうとも、武器を振るえば傷つくものがいる。
 ニールの作った武器に呪いを掛けて、それを振るう者の周囲で起こる不幸を私が搾取する。
 私は誰かと契約する労力を要せずに、武器の使い手が倒れるまで糧を得ることができる。
 一時の不幸より、魔術商会が何らかの理由で利用できなくなる事のほうが、私にとってはデメリットだった。
 ジョンさんには誰に何が起きようと構わない素振りを見せたが、予測できない不幸の芽は摘んでおきたかった。
 テーセウスさんの知り合いだからと、迂闊に私に情報を渡してしまうジョンさん。
 そんな性格だから、カテリーナさんにうだつが上がらないのだと、同族ながらに憐れみを覚えた。
 
 カテリーナさんを、狩りに特化した僧侶だから注意しろと彼は言っていたが、狩りに特化した錬金術師の二人が身近に居るので、僧侶も食べるためには狩りをするのだとしか捉えていなかった。
 その不幸が私にも訪れる可能性があることを自覚していれば、彼女に不用意な接触を試みようとはしなかった筈だ。
 彼女が私に声を掛けてきた時は、不思議に思うよりも話し合いができる良い機会とさえ思っていた。
 

「ちょっとお話があるのだけど、いいかしら?此処では話せないことだから、二人きりで会える場所が良いのだけど?」

 ゾンビ討伐を終えて街へ帰る途中、私は魔術商会の護衛をしているカテリーナさんに肩を叩かれた。

「ええ、構いませんけど。私とお話しないと解決しない問題なのでしょうか?」

 カテリーナさんは、思わせぶりな笑みを口元に浮かべると、周りに聞こえないよう小声で私に囁いた。

「貴方なら知ってそうな人の事でちょっと、ね。周りに知られると貴方も困ることだと思うから。」

 カテリーナさんの不穏な言葉に、ドラクロワさんを追いかけてきてしまったオリフィエルが結局迷って、この辺りに来ている可能性を考えた。
 無いとは思うが、私を探しに来たとい可能性も捨てきれなくはない。
 何かオリフィエルがトラブルに巻き込まれているのなら、従者として速やかに救助に向かわなければならないだろう。
 
「……分かりました。一足先に街で落ち合いましょう。ニールにも、少し先に街に帰ってると伝えておきますので。」
 
「ありがとう。それじゃあ、よろしくね。」
 
 ひらひらと手を振り立ち去るカテリーナさんを見送ったあと、私はニールに一言告げると深雪を預けて街へと向かった。
 
 
 街で落ち合ったカテリーナさんは、人気にない裏路地へと私を誘った。
 周囲に誰も居ないことを確認すると、カテリーナさんは薄笑いを浮かべながら、私の方へと近寄ってきた。
 
 「ねぇ、貴方。アストゥリアスの名前をご存じない?関わってる悪魔が近くに居ると聞いたから、粛清しようと思って。」

 粛清という言葉に、カテリーナさんが僧侶だった事を今更思い出す。
 ジョンさんが言っていた狩りに特化した対象が、まさか悪魔だとは思っていなかった。
 だが、私を悪魔だと分かっていれば、こんな質問をする筈がない。
 私は魔術商会に身を置くものだし、彼女は雇われの身。
 こちらからボロを出さない限り、彼女が私を傷つける理由は存在しない。
 オリフィエルが自分の名前を誰かに名乗った事で、アストゥリアスの眷属が近くにいるという情報に変化したのかもしれない。
 オリフィエルと私の容姿は似ているので、何らかの関連性をカテリーナさんが勘繰っていたと言う事だろうか。
 もし、セルフォリーフにオリフィエルが居るなら、彼女より先に接触を試みなければならない。
 FPと連絡さえ取れれば、オリフィエルの所在は直ぐ把握できる。
 知らないと言ってしまうのが安全だが、少しでも彼女から情報を引き出したかった。 

 「……どうして、カテリーナさんがその名前を?どちらにせよ、あなたの手の届く場所には居ないわ。聞いても無駄よ。」

 カテリーナさん。いや、カテリーナは私の言葉に嬉しそうに目を細めた。
 
「あら、ご存知なのね。そう、手の届かない所……嗚呼!『あそこ』なのね、連絡手段くらいあるでしょうし調べてくるわ。」

 もはや、私に用がないと言わんばかりに立ち去ろうとするカテリーナ。
 彼女の興味を削ぐはずが、結果としてアンジニティにドロクロワさんの姿で居るテーセウスさんへ向かってしまった事に、私は自分の迂闊な発言を呪った。

「ちょっと、待ちなさい!テーセウスさんにちょっとでも触れてみろ!あんたが魔術商会だからって、タダで済むと思うなよ!」

 駆け寄って、彼女の肩を掴んで足止めすると、私はカテリーナに怒鳴った。

「……テーセウスという名前なのね。教えてくれて有難う。私が言うのもアレだけど、貴方って、凄くおばかさん。」

 背中越しからでも彼女の嘲りが目に浮かぶ。
 
「……っ!?」
  
 カテリーナに完全に嵌められた動揺と憤りで、私は言葉を失ってしまった。
 
 ―刹那。
 カテリーナは、私が肩を掴んでいた外套をするりと外すと、振り向きざまに私の懐へと潜り込んだ。
 少しだけ反応が遅れたが、私は一歩飛び退いて彼女から距離をとった。
 
 筈だった。

「く、はっ……」

 飛び退いた着地と同時に、お腹から焼けるような痛みを感じ思わず立膝をつく。
 あまりに激痛に目眩を覚えながら、ゆっくりと腹部を手で確かめると、ヌメリした生温かい血の感触と、冷たい金属の感触があった。
 青い血に塗れながら鈍く光るそれは、お腹から生えている一本の短剣だった。 

「冬の湖のような色。とても綺麗。」

 場違いなほど朗らかな笑みで、私を見下ろすカテリーナ。
 

『粛清人。』
 
 
 その言葉が彼女に相応しい言葉だと識るには、私は遅すぎたのだ。







※http://sicx.x0.com/result/k/k601.htmlさんとの練習試合へと続く。
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