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2019-09

精霊日記6日目

「あの、あのね、ウルド。ちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど……」

 隊商の護衛の途中、突如襲ってきたゴブリン達を片付けて一息ついていた時。
 サクラが思いつめたような表情でやってきたので、私達は隊商から少し離れた木の陰で話をする事にした。

「え、どうしたの急に。何か困った事でもあるの?私でよければ相談に乗るよ。」

 サクラは頷くと、恥ずかしそうに袖で顔を伏せながら、数日前に起きた事件について話し始めた。
 大怪我を負ったセツカ兄ィの看病で、疲労したレイヤ先生に元気をつけるために栄養剤を作って持っていった事。
 栄養剤を飲んだレイヤ先生の様子がおかしくなって、レシピを確認したら媚薬だったこと。
 媚薬を飲んだレイヤ先生にベッドに押し倒された事。
 そのままキスされそうだったけど、先にレイヤ先生のほうが気絶したのでこっそり逃げ出してきたと、包み隠さず私に打ち明けた。

「それでね、自分が悪いのは分かってるけど、なんか意識しちゃって恥ずかしくて顔もまともに見れないよ……」

「あ、うん……」

 あまりにも唐突な話で、私は頭の中が真っ白になり、曖昧な返事しか返すことができなかった。 
 レイヤ先生何してんの!?
 元々はサクラの作った薬が原因なのに、私はレイヤ先生の行動を責めたくて仕方がなかった。

「レイヤ先生は様子変わらないし、あたしだけ意識してるみたいでなんかもやもやするし……」

 袖に顔を伏せながら赤面するサクラの表情は、まるで恋する乙女のように見えた。

「ねぇ、ウルド。どうしたらいいと思う?」

「えっ、どうしたらって……そんな事私に聞くの!?サクラお姉ちゃんはレイヤ先生の事、好きなの!?」

 自分でも、どこから声を出してるのか分からないような甲高い声でサクラに私は詰め寄った。

「えっ?」

 頭にハテナマークが浮かぶぐらいに、サクラが驚いた顔をするので、私は自分の質問が場違いだった事に気づいた。

「あっ!?そういう話じゃないよね!?うん、分かってる!?分かってるんだよ!?」

 サクラが求めている答えは、レイヤ先生と会っても意識しないようにするにはどうすれば良いのかという話で、レイヤ先生が好きとか、付き合いたいとか結婚したいとかではないのだ。
 このままだとサクラお姉ちゃんが、レイヤ先生に取られてしまう。
 そんな危機感が、私の冷静な思考を完全に奪い去っていった。
 不安そうにこちらを見ているサクラお姉ちゃんに、私は今どんな表情をしているのか分からないぐらい、焦りと不安と失望が入り混じったものが頭の中で渦巻いていた。

「ねぇ、ウルド。顔色悪いよ、大丈夫?あっ……」

「ごめん、サクラお姉ちゃんっ……ちょっと、トイレ!話は後で聞くから!」

 私はサクラから逃げ出すように駆け出すと、隊商の荷物と一緒にFPの置いてある幌に潜り込んだ。

「FP大変だ!サクラお姉ちゃんがレイヤ先生に取られちゃう!」

 黒うさぎの縫いぐるみを、半泣きで私は思い切り抱きしめた。

「取られちゃうって何。そもそもサクラはウルドのものじゃないでしょ?」

 FPの的確な指摘に悔しくなって、私は思わずFPの首を絞めた。

「私のものじゃないけど!サクラお姉ちゃんが、レイヤ先生に媚薬飲ませて変になっちゃったんだよ!」

「やめてあげてよぅ……あと、僕に理解できる言葉で話してよ、ウルド。」

 私はしゃくりあげるのを我慢しながら、順を追ってFPにサクラに相談された話を説明した。

「僕にこういう事を相談されても、恋愛とかよく分からないんだよね。ノウァに相談してみたらどうかな?」

「ダメだって!ノウァに言ったら、ドヤ顔で『これが契約の代償なのよ』とか言うし!絶対言わねー!」

「ああ、そう。とりあえず、サクラがレイヤ先生に取られないように、ウルドも媚薬作ってレイヤ先生に飲ませたら?」

「あ、そっか!レイヤ先生が私に夢中になれば、サクラと離れるよね!分かった、今から媚薬作ってくる……って、何でだよ!?」

 怒りに身を任せてFPをそのへんに投げつけると、二、三回あたりをバウンドして、私の足元にまた転がってきた。
 
「ウルド、絶対うさぎのこと嫌いでしょ……暴力反対。分かったよ、じゃサクラに媚薬飲ませればいいじゃない。」

「だからなんで媚薬飲ませる話になるの!?そういう話じゃなくて、今の状況をどうにかしたいんだよ!」

 床に落ちたFPを抱き上げて思いっきり揺さぶると、FPの何処かから中に入ってるビーズのようなものが何粒か転げ落ちた。

「ねぇ、ウルドはどうしたいのさ?サクラが別にレイヤ先生以外にだって仲良くなる可能性もあるし、いずれ結婚ぐらいはするでしょ。ウルドはそういうのを邪魔したいわけ?」

「えっ……違うよ、だって私はサクラお姉ちゃんの約束ために、ここに来たんだ……よ。」

「うん、約束は果たすとして、その後どうしたいの?アカデミーの試験を卒業したら、サクラだってウルドだってずっと一緒って訳でもないでしょ。」
 
 FPの問いに私は答える言葉が見つからなかった。
 確かに私はサクラとの約束でここに来た。
 それは自らが望んだことで、サクラが強要したことでも、サクラの所為にすることでもない。

「それはっ、そう……だけど。」

 サクラと一緒に課題を達成してアカデミーを卒業することは、自分の願いでもあった筈。
 それが達成されてしまうことで起こる不安など、微塵にも考えていなかった。

「あのさ、サクラの未来を私がちょっとだけ覗いてくるって、ダメかな?ノウァの異送鏡、私も使えるはずだよね?」

「覗いてくるのは構わないけど、その未来はウルドが消えて起こる未来なんだから、確実に今に繋がらないでしょ。見に行くこと自体が無意味だよ。未来に飛んだら、今度はスクルドって名乗る?」

「そんな簡単に師匠の名前を名乗りたくないっつーの!ふざけないでよ……なんで、なんでこんなタイミングなの。もう少しサクラと一緒に居させてくれてもいいでしょ。」

 約束を果たすためにここへ来た自分の志が折れそうで、何かに祈るように私は呟いていた。

「分かった。サクラのことを独占したいって事だよね。直接サクラに言ったらどうかな?離れちゃヤダって。」

「FPのアホっ。サクラにそんなこと言ったら、本気でそう考えちゃうでしょ!サクラお姉ちゃんを助けるためにここに来たのに、足引っ張ってどうすんの。それじゃ5年前の私と変わらないよ!って……あ。」

 私は自分の心の矛盾にやっと気がついた。
 サクラと一緒に居たいと願う気持ちは、5年前ここへ置いてきた12歳の深雪の心。
 あの時無力だった自分は、サクラお姉ちゃんの力になりたかった。
 サクラへの想いを繋ぐために、過去への遡行を経てようやく戻ってきた現在。
 それで全てが元通りになると、勝手に思っていただけだった。
 
 深雪の記憶が鮮明に残っていても、今はサクラの友達で錬金アカデミー卒業試験生のウルドでもある。
 最初に私に会ったサクラが戸惑っていたのも、私がウルドであり深雪だったからだと気がついた。
 ウルドとしての私は、サクラに頼られる立場でもあり、今回ようにサクラが包み隠さず話してくれる仲間という立場。
 過去の深雪は既に此処には居ない。
 行場を失った深雪の記憶が、ウルドである私の心を締め付けるのだ。
 
「そっか……私がお別れしなきゃいけないのは、サクラじゃなくて深雪なんだ。」

 次にサクラに会ったとき、どんな風に話したらよいのか考えるだけで、息ができなくなるくらい苦しくなった。

「ウルド、お願いだから僕にわかる言葉で話してよ。サクラと同じ症状になってどうするのさ。」

 跪いて胸を押さえる私の背中を、少女の姿になったFPが優しく背中を撫でた。
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