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2018-12

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精霊日記7日目

鍛冶屋ギルドの黒剣には二つの顔がある。
 一つはグランツ王国全土を仕切る、武器商人ギルドとしての表の顔。
 もう一つは、組織の利害で動く盗賊ギルドと暗殺者ギルドとしての裏の顔。
 表の黒剣を仕切るのはジェラルド・ランツフォートで、国王リューノが王になる以前に結成した反帝国解放軍への物資支援の功績を称えられ、グランツ王国建国時に国内の武器流通の独占権を取得した。
 市場の独占に不満を持つ商人や領主も少なくなく、水面下での小競り合いを制する為にジェラルドは盗賊ギルドを吸収して裏黒剣を組織した。 
 リューノに滅ぼされた皇帝の末裔の俺は、魔剣を操る力を評価されてジェラルドの側近となった。 
ムスペルヘイムの名を隠してファーヴニールと名乗ると、ジェラルドとは親子の契を交わして裏黒剣の長を任せられた。
 盗賊ギルド内の暗殺部隊を率いて、黒剣に逆らう者達を闇の中へと葬るのが裏黒剣の主な任務だった。
 裏黒剣は精鋭揃いの部隊ではあったが、任務が過酷なため命を落とすものも少なくない。
 部隊の補充はジェラルドから、ニフルハイム領で特殊訓練を受けた少年兵や少女兵が派遣されてやって来た。
 貧困なニフルハイムでは、スラム街の子供達を厚生課が引き取って洗脳教育的な軍事訓練を行なった後、兵士として国外に売りに出される。
 ジェラルドは売りに出される前の有望な少年兵や少女兵を、訓練所で見つけ出してニフルハイムから買い取っていた。
 ニフルハイムの少年兵や少女兵たちは、命令を忠実に遂行する優秀な部下ではあったが、その勇敢さ故に命を落とすものも多かった。
 
「ファーヴニールさんのように立派な暗殺者になりたいです。」
「お前たちは、口を揃えたように同じことを言う。暗殺者は立派なものじゃない。足を洗えるなら早いうちにしておけ。」
「えっ、暗殺をやめたらつまらないじゃないですか。」

 どこか焦点の合わない瞳で、暗殺を遊びの一環のように楽しむ少年や少女達が散って逝くのを何度も目の前にすると、次第に彼らの死に対して関心が薄れていった。
 壊れた玩具は元には戻らないと割り切るようになると、過酷な任務で少年兵や少女兵を使い捨てる頻度も増え、次々に死んでいく子供達の名前もうろ覚えになっていた。

 とある事情で、グランツ王国の近衛隊長を斬った俺は、ほとぼりが冷めるまでジェラルドに国外への出向を命じられた。
 出向先で左遷同様の傭兵家業を始めた頃、俺が酒場で出会ったのがナナだった。
 癖の毛のある赤髪で、背中に鳥のような羽を持つ少女は、グランギニョル座という殺し屋の劇団員の一人だった。
 ナナとは任務で同行する機会が多く、お互いの腕前に信頼を置く関係となった。
 謹慎に近い立場なので、なるべく人前で顔を見せたくないという俺の話を聞いて、劇団で使っているうさぎの着ぐるみを持ってきたのもナナだった。
 ナナの戦いの腕前には信頼を置いていたものの、命を軽視するような言動や死と紙一重な戦闘方法に、俺はニフルハイムの少女兵の姿を重ねて見ていた。
 恐らくナナは、大人になる前に任務で命を落とすだろう。
 食事をしたり、娯楽に付き合ったり、冗談を交わすような仲となってもナナへの感情移入を意図的に避けていた。
 酒場で酒や食事をしているうちに、カオツと知り合ったのも同じ頃だった。
 カオツは俺やナナとは違って所謂一般人だったが、知識は豊富で探索などでは頼りになる存在だった。
 カオツは獣の耳を持つ人なのか、獣人なのかよく分からない種族だったが、鳥頭なナナや堅物な俺よりもよっぽど人間らしく、常識人だった。
 堅気であるカオツを巻き込むことのないよう、前もって暗殺者だと俺は名乗っておいたが、俺の素性を知る前と変わりなくカオツは俺に友好的に接した。
 何故かナナや周囲にはカツオと呼ばれ、大の甘党だが辛い物が苦手なのを面白がれて、よくナナに辛いものを食わされていた。
 カオツは、暑い時期に体温が下がり寒い時期に体温が上がる不思議な体質だった。
 暑さにめっぽう弱いナナは、夏場になるとカオツに小判鮫のようにへばりついて、よく涼をとっていた。
 事ある事に喧嘩する割には、仲良くお菓子を食べていたりするナナとカオツは、まるで兄妹のような関係に見えた。
 仕事以外でもナナやカオツと一緒になる機会は増え、春や冬に宴会をしたりプレゼントを贈りあったりして、俺は束の間の平和を満喫することができた。
 異世界から迷子でやってきた兵庫や道産子と知り合ったのもその頃で、道産子には何も教えてないのに、うさぎ先生と呼ばれて尊敬された。
 異世界から来た兵庫は、よく分からない異国の常識を自信顔で語るのでナナの好奇心の的となった。
 ナナの好奇心は知らないうちに兵庫のパンツへと向くようになり、パンツを取られた兵庫がナナを追い掛け回すのが日常となった。
 兵庫や道産子も宴会やパーティに加わり、お互いにお馴染みの面子という意識が強くなった頃、親衛隊長を斬ったお咎めが無くなったとジェラルドから手紙が届いた。
 グランツ王国に戻る際、カオツやナナとも軽い別れの挨拶を交わしたが、割りと幸の薄いカオツは兎も角、ナナとは再び会えることは無いだろうと心の中では思っていた。
 グランツに戻ってジェラルドの裏切りに遭い、自分が先に命を落とすはめになったのは皮肉な話だが。

 ノウァとの契約で限定的な不死の力を手に入れたものの、致命的な傷を負った影響でまともに身体が動かない俺は、ナナから貰った着ぐるみを再び着込んで生活を送るようになった。
 黒剣を抜けて、ノウァと行動を共にするようになり何年か過ぎた頃、成長したナナと再会する事となった。
 劇団には相変わらず所属しているようだが再会したナナからは、ニフルハイムの少女兵のような危うげな印象は消え去り、性格がそれほど変わったわけではないが、話してみると前よりずっと年相応の女の子になっているように思えた。
 ナナが人間らしくなったのは、兄であるメイガスと再会したことが原因だと思っていたが、その後再会したカオツとの話で違う理由だった事が分かった。
 小熊という青年の釣竿で一本釣りされて現れたカオツは、尻尾が増えたぐらいで以前と変わりはなかったが、片目が無くなっていた。
 ナナが肌身離さず持っているランタンに、光る目玉のような物が入っているので訪ねてみると、カオツから抉って貰ったものだとナナは答えた。
 普通欲しくても目玉は貰わないだろうとツッコミたくなったが、当事者のカオツにも事情を聞いてみることにした。
 カオツの話でも割りと好奇心程度のレベルでナナに目を抉られた事を知ると、やはりニフルハイムの少年兵や少女兵達と同じように、壊れた心は戻らないのだなと思ったが、その話には続きがあった。
 目玉を抉ったナナをカオツはちゃんと叱って、目玉をやるかわりに殺しをしない事を約束させたとカオツは普通の事のように説明した。
 俺がずっと目を背け続けてきた壊れた心の子供を人の道へ戻す努力を、カオツが真正面から取り組んでいた事を知ると、俺にはないカオツの心の強さと優しさにただ感服するしかなかった。

「カオツは偉いな。俺なんかよりもずっと凄い。」
「え、いきなり何を言ってんスかニールさん。 ナナに聖典カーンで叩かれた時に、頭でも強く打ったんですか?」

 酒場でエールを煽りながらカオツを褒めると、チョコパフェを隣で食べるカオツがすかさずツッコミを返した。
 カオツが身を犠牲にしてまで導いた道をナナがまた踏み外そうとしている話は、命の危険も孕む内容なので、カオツにはまだ黙っておこうと思った。
 汚れ仕事は暗殺者である俺の役目だ。
 ナナが再び道を踏み外さぬよう、今度こそ目を背けずに正面から向かい合おう。
 親友の為に心の中で俺は誓った。
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