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2018-11

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精霊日記?日目

 物心がついた頃から少女は、さる豪商の奴隷として身の回りの世話をして過ごしていた。
 少女の生まれながらの紫の髪と紫の目はこの地域でも珍しいもので、小太りな豪商は事あるごとに彼女を連れ出して見世物にした。
 少女はその髪の色と目の色に因んで、オルタンシアと名付けられた。
 お披露目の時だけ高級な服で着飾ったオルタンシアを、さも希少品のように小太りな豪商は他の商人や貴族に自慢した。
 豪商の意図に反し、オルタンシアは夢魔との混血種だったため、周囲から向けられる視線は奇異や侮蔑としての見世物でしかなかった。
 自由を奪われ服従の日々を繰り返すうち、オルタンシアは自分の商品としての価値を認識してゆくと、見世物としてただ生かされているのだと妥協するようになっていた。
 オルタンシアが少し成長した頃、小太りな豪商の自慢話が幸を奏したのか、彼女は好事家な貴族に高額で引き取られることになった。
 主人が変わろうと与えられる役割は変わるものでも無いと、少女はその事に対してなんの興味も希望も抱いていなかった。
 好事家な貴族の元へ馬車で届けられる途中、魔物達の襲撃を受けてオルタンシアの環境は急変した。
 蝙蝠の羽を持つ魔物に奪い去られたオルタンシアは、黒曜石でできた大きな建物へと連れ去られた。
好事家な貴族と魔物の住む館。
 どちらの生活がましなのだろうと、オルタンシアが考えていると蝙蝠の羽の生えた魔物は、開いた窓から黒曜石の館の広間へと舞い降りた。
 広間にオルタンシアを降ろすと羽の生えた魔物は、貴族のような黒服を着た端整な顔立ちの男に変化した。

「ククク……夢魔の娘か。少しは使えるかもしれんな。」

 黒服の男は椅子から立ち上がってオルタンシアに近づくと、値踏みをするように彼女の顎を手で持ち上げた。

「我が名はシュヴァルツ!お前と同じ夜の眷属の者だ。」
 
 マントを翻す男の赤く輝く目と鋭い牙は、伝承にある吸血鬼そのものだった。

「娘よ、私に仕えよ。来るべき宴に備え、夜の眷属の端くれとして忠誠を誓うのだ。」

 血でも吸われるのかと覚悟していたオルタンシアは、思いがけぬ展開に呆気にとられつつも素直に平伏した。
 オルタンシアは館の家事をこなしながら、シュヴァルツから魔術を学んだ。
 彼女の魔術の習熟はとても早く、半年も経たないうちに黒服の男よりも魔術においては秀でるようになった。
 黒曜石の館に住む吸血鬼のシュヴァルツを退治しようと、乗り込んだ騎士や冒険者を難なく撃退するオルタンシアを人々は恐れ、彼女を紫の魔女と呼ぶようになった。
 
「紫の魔女、オルタンシアか。ククク……私の見込んだ通り。お前は逸材だったようだ。」

 シュヴァルツは大袈裟にマントを翻すと、広間に高笑いを響かせた。
 
「我々夜の眷属は、再び栄華を取り戻すため次の計画へと移行する!」

 オルタンシアとシュヴァルツしか居ない広間で、シュヴァルツは高らかに宣言した。

「我々の王の復活は近い。オルタンシアよ、ヴィオレット王国へ向かうのだ。」

 シュヴァルツの言う王とは、太古に神族との戦いで肉体を失ってしまった魔王の事で、魔王復活の成就を各地に散った妖魔達は心待ちにしているとオルタンシアに教えた。
 妖魔たちの悲願は叶い、魔王はとある小国で波長の合う魂に目をつけ、王女が生まれる前に魂にとり憑いた。
 シュヴァルツは、王女が魔王の魔力に耐えられる器として成長した頃、覚醒の儀式を行うようオルタンシアに命じた。
 
「儀式は、新月の夜。王女が十六の誕生日を迎えた日に執り行う。約束の日まで、王女の身に危険がないよう監視するのだ。王女の歳と近いお前の方が、王女も心を許すであろう。」

 確かにシュヴァルツのような吸血鬼が突然王女の前に現れたら、普通は逃げ出すだろうとオルタンシアも納得した。
 オルタンシアは夜の眷属の復権には意欲的ではなかったが、魔王様の復活により人々から虐げられた過去の記憶が精算されるのであれば、協力を惜しむつもりはなかった。
 オルタンシアは旅の支度を整えると、黒曜石の館を出てヴィオレット王国へと向かった。
 
 
 ある所に田舎ではあるけれど豊かな国に、王族の赤ん坊が生まれた。
 赤ん坊は薄紫の髪に金色の目をした、可愛らしい女の子だった。
 王女の誕生に人々は歓喜し、王族のみならず国民すべてが彼女の将来を祝福した。
 小さいけれど豊かな国の名は、ヴィオレット王国。
 王女の名はオリフィアといった。
 小さい頃から才能豊かな王女は、歌と踊りを好み大人たち顔負けの技量を発揮した。
 王女は薔薇がとても好きだった。
 王は愛する娘の為に、城の庭園を薔薇で埋め尽くし、色とりどりの薔薇が枯れることなく咲き誇った。
 愛情あふれる父である王と、心優しき王子である兄に囲まれ、オリフィア王女は健やかに毎日を過ごしていた。
 紫の魔女が王女の前に現れたのは、オリフィアが十六の誕生日を迎える約ひと月前の事だった。
  
 
 オルタンシアがのどかな農園や街並みを抜けると、白壁の綺麗な建物がすぐ目に付いた。
 白壁のお城の周辺にある庭園は、よく整備されていて美しい薔薇が絨毯のように敷き詰められて咲いていた。
 城と周りを隔てるものは庭園が覗ける程度の柵しかなく、オルタンシアがここに来るまでに一度も衛兵に会わなかった。
 いつでも柵を超えての城への侵入が可能だと分かると、オルタンシアは一旦偵察を終えて街へ戻るため庭園を後にしようとした。
 
「こんにちは。薔薇の花はお好きですか?」

 背後から掛かる声に振り向くと、オルタンシアは驚きのあまりその場に立ち尽くしてしまった。
薄紫色の長い髪の薔薇の純白のドレスを身に纏った少女は、目の色こそオルタンシアとは違うものの、鏡に映った姿のように自分にそっくりだった。
 決定的に違う部分は、佇んでいるだけでも分かる身に纏った高貴さで、彼女の光溢れる気品にオルタンシアは内心怯んでしまった。
 金色の目をした少女もオルタンシアの容姿が自分に似ていると気がついたようで、驚いたように目を丸くしながら柵越しに近づいてきた。

「ええ……でも、私には華やかすぎて気後れしてしまいそう。貴方には薔薇がとてもよく似合うわ。そのドレスもね。」

 オルタンシアはなるべく平静を装って、身分の高そうな純白のドレスの少女にお辞儀をした。

「あはー、ありがとうございます。私も薔薇が大好きです。お庭の薔薇は、お父様が庭師さんにお願いして植えてくださったんですよ。庭師さんが、ここの土と相性が良いから手入れが楽だと喜んでくれてました。」

 純白のドレスの少女は癖のある笑い声で微笑むと、ドレスのスカートを軽く摘んでオルタンシアにお辞儀を返した。

「私はオリフィア・ヴィオレットと申します。以後よしなに。あの、よろしければお名前を教えていただけますか?」

 ヴィオレットの名を名乗るという事は、このオリフィアという女性が王女なのだろう。
 邪悪な気配とはまったく無縁な屈託のない少女の笑顔に、オルタンシアは本当に魔王の魂がこの身体に眠っているのかと疑いたくなるほどだった。
 
「オルタンシアと呼ばれているわ。よろしく、オリフィア。」
 
 その名前は奴隷時代に豪商が紫色の目に因んで名付けたもので、本当の名前は自分も知らない。
 不快な記憶に彩られたオルタンシアの名を、彼女の前で名乗る事に抵抗を感じながらも偽名も咄嗟に思いつかなかった。

「オルタンシアさんですね。素敵な名前です。とても良くお似合いだと思います。」

「そう、ありがとう。」

 名前自体は、ね。
 オルタンシアは心の中で呟いた。

「あの、私達どこか似ているような気がします。こんな偶然は余りありませんもの。お友達になりませんか?」

 自分と容姿がそっくりなのに、境遇は正反対の華やかな舞台で生活するオリフィアに、オルタンシアは強い羨望と好奇心を覚えた。
 天真爛漫な彼女が自らに魔王の魂を宿していると知った時、どんな風に私に振る舞うのだろう。
 運命に抗うことができないのなら、いっそ何も知らないまま過ごす方が彼女は幸せかもしれない。
 
「ええ、私もそう思うわ。親しくなれたら、素敵ね。」

 魔王の魂を目覚めさせることがオルタンシアの使命だが、儀式の日にはまだ猶予がある。
 それまでは、偽りでも友達を演じてみようとオルタンシアは思った。
 柵越しに、白い長手袋を外して差し出したオリフィアの手を、オルタンシアは握りかえすと目を細めて少しだけ微笑んだのだった。


 ―薔薇の姫君と紫の魔女との出会いから六百年が過ぎた。
 紫の魔女は魔王の封印を選択し、王女と小国の民すべての魂が彼の地に封じられた。
 強力な結界も長い歳月によりいつしか綻び、魔王は長き眠りから目覚める。
 目覚めたばかりの魔王は、未だ封印の楔となった王女の身体から離れることができず、封印から解放さ れるための鍵を探し求めた。
 錆び付いた物語の歯車は、軋み音を上げながら再び時を刻み始める。


 世界から隔離されたような霧に包まれた場所に、黒色のケープを覆い薄紅色のコートを羽織った薄紫の髪の女性が佇んでいた。
その隣にはロップイヤーのように兎の耳が垂れている帽子を被った少女が、寄り添うように立っていた。
 
「オリフィア様、最近ノウァさんを見かけませんね。何かあったのでしょうか。」

 垂耳うさぎ帽の少女が、朱色の目を潤ませて不安そうにオリフィアを見上げた。

「ええ、ノウァさんはあちらでもお忙しいのでしょう。でも、またお会いできますわ……近いうちに。」
「はい。ノウァさんは、オリフィア様と見た目がよく似ていましたね。」
 
 オリフィアがこちらの世界で偶然出会ったノウァは、オリフィアのように深い紫の髪色をした目の色も紫の女性だった。

「……オルタンシア。」

 オリフィアは金色の目を細めてポツリと呟いた。
 
「どうかなさいましたか、オリフィア様?」
「何でもありませんよ、マグノリア。ノウァさんの髪や目の色が、紫陽花のようだと思っただけです。」
 
 オリフィアは、不思議そうに首をかしげるマグノリアの頭を、垂れ耳うさぎの帽子越しに黒い手袋で優しく撫でた。
 
「こんな偶然は余りありませんもの。お友達になれたらと思うのです。」

 垂れ耳の帽子は中に本物の耳が入っているように、マグノリアのご機嫌に合わせてピコピコと揺れた。

「親しくなれたら素敵ですね。」

 オリフィアが頷いて手を差し出すと、マグノリアはその手を握り微笑みを返した。

「ええ、私もそう思うわ。親しくなれたら、素敵ね。」

 オリフィアは、金色の目を細めてマグノリアに微笑んだ。

「山本様からいただいたお洋服、あたたかいですね。」

 オリフィアの手を握ったまま、マグノリアは嬉しそうに目を輝かせながら、ぴょこぴょこと跳ねた。
 マグノリアが着ているセーターもオリフィアの羽織っているコートも、こちらの世界で出会った玩具屋の山本が、二人の為に見立ててくれた冬服だった。
 オリフィアは、マグノリアの無邪気な様子を愛おしむような眼差しで見つめた。

「お似合いですよ、マグノリア。霧も晴れてきました。まずは、山本さんにお礼を言いに参りましょうか。」
「はい、山本様のところへ行きましょう。オリフィア様のお洋服も、とてもかわいいです。」

 マグノリアはオリフィアの手を少しだけぎゅっと握ると、手を繋いだまま霧の晴れた道を歩き始めた。
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