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2018-11

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精霊日記10日目


 このお話は魔術商会さん(E-NO.41)と連動しています。
 
 ―夜。
 ドアの静かに閉まる物音に気づいたウルドは、パジャマ姿で兎の縫いぐるみのFPを片手に抱えながら部屋の周囲を見回した。
 いつもなら、ウルドのベッドの隣に布団を敷いて寝ているはずのうさぎ先生の姿がなく、代わりにうさぎの着ぐるみだけが折りたたまれた布団の上に乗っかっていた。

「ふぉるて、大変だ……」

 ウルドはピンク色のうさぎの着ぐるみに駆け寄ると、愕然としてしゃがみこんだ。

「うさぎ先生が蒸発しちゃった!」

「へぇ、うさぎ先生って中身液体なんだ?」

 FPは冷静にウルドにツッコミを返した。

 黒塗りの鎧に黒い外套を羽織った男は、暗い森の中で獲物を待っていた。
 劇団グランギニョルの拠点と、兵庫こと宝塚灘の泊まる宿の位置からして、この森の小道を劇団員は通る筈だとナナは男に伝えていた。
 グランギニョルの劇団員が予め宿帳に目を通す機会があったとしても、宝塚灘と言う本名では周囲に兵庫と呼ばれている彼女の部屋を特定する事はできないだろう。
 部屋を手分けして探すため集団行動を取るとすれば、目立つ外見を持った彼らは宿に隣接しているこの森を経由することは間違いなかった。
 劇団員の中で特に注意するべき人物については、ナナが予め男に外見的特徴や戦闘スタイルを伝えていたため、できる限りの対策は整えてあった。
 男の顔や黒い鎧の隙間からわずかに見える肌は傷だらけで、死線をさまよう戦場を幾多も乗り越えてきた腕前である事は確かだったが、相手は生粋の殺人集団であり一筋縄で行く相手ではない。
 男は悪魔との契約において、とある人物に復讐を果たすまで決して死ぬことはない身体とはなったが、再生能力が高まった訳ではないので致命傷を負えば暫く動くことができない。
 万が一に自分が倒れたとしても、道産子こと富良野カムイがいれば宝塚灘は安心だと男は思っていたが、少しでも相手の強力な駒は潰しておくつもりだった。

「そろそろ時間だな……」

 黒い鎧の男は呟くと、懐から興奮剤や鎮痛剤などの飲み薬や錠剤を大量に取り出して無造作に口に放り込んだ。
 生身の人間には致死量のドーピングであったが、不死の身体である男にとっては劇団員を屠るための手段に躊躇はなかった。
 オーバードーズによって昂ぶりながら研ぎ澄まされる精神を鎮めつつ、森の暗闇を睨み続けているとランタンの灯りに揺らめく幾つかの影が見えてきたので、男はそれが劇団員だと確認のとれるギリギリまで息を潜めて待った。
 先頭に蜂のような姿をした男がいるのを確認すると、男は躊躇なく矢継ぎ早に黒塗りのダガーを暗闇に向けて投げつけた。
 至るところで悲鳴が上がる集団に向かって男は飛び込むと、黒塗りの大剣を風車のように振り回してまとめて何人かの劇団員を薙ぎ払った。
 
「むむっ、闇討とは卑怯ですな。そこの男、名を名乗るであります!」

 蜂男は針のようなレイピアを、黒ずくめの男に構えて叫んだ。

「同業者が何を言っている……ここ通りたければ、力ずくで来い。」

 黒い大剣を構えると、ファーヴニールは劇団員を睨みつけた。

「なんだ、もしかしてこいつ一人か?奇襲程度で調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

 独眼の鰐男は、傷ついて呻いている劇団員の背中を乱暴に掴み上げると、そのままファーヴニールに向かって投げつけた。
 ファーヴニールが投げつけられた劇団員をバターのようにあっさり斬り払うと、劇団員からはどよめきよりも歓声が沸いた。

「どいて、こいつは姉さんと俺がやる。」

 サングラスの上からでも顔の傷が分かる跳ねっ毛の少年が、猿轡に目隠しをしたレザーの生地のような服を着て四つん這いになっている少女を鎖のリードで引き連れてきた。
 鎖のリードと首輪をつけた少女は、猿轡をされながらまるで獣のような呻き声を漏らしながら、今にも襲いかからんばかりの姿勢で身構えていた。

「女子供は下がっていろ……犬死するだけだぞ。」

「なんだと、狼に犬とか馬鹿にしてるのか!俺たちの力を思い知らせてやる!」

 サングラスの少年が長い跳ねっ毛の少女のリードと猿轡を素早く外すと、少女の目隠しも自然に外れ、獣のような咆哮あげながらファーヴニールに飛び掛ってきた。
 素早い動きにファーヴニールの剣は彼女の服を切り裂く程度にとどまり、少女は男の手甲に噛み付いた。
 少女は巨大な狼の姿になると、手甲ごとファーヴニールの腕を食い千切ろうとしたが、狼の少女は突然悲鳴を上げ噛むのをやめた。
 そのまま後ろに飛び退くと、少女は狼の姿のまま苦しむようにその場でのたうち回った。

「姉さん、どうしたの!?おまえ!姉さんに何をしたんだ!」

「早く手当をしないと手遅れになるぞ。鎧にも剣にもウルフズベインが塗ってある。」

 ファーヴニールは黒塗りの剣を再び構え、他の劇団員の攻撃に備えた。

「姉さん!姉さん……!嗚呼、姉さんに何て事を!」

 苦しむように鼻や口元を前足で擦りうずくまる狼姿の姉を、少年は担ぎ上げてファーヴニールから背を向けた。

「おいどこ行くんだよ!まだ始まったばかりだろ!」

 鰐男は呆気ない結末に、不満そうな態度を丸出しにして少年を怒鳴った。

「うるさい!姉さんの安全の方が先だ!お前達だけでなんとかなるだろう、俺は姉さんを看るんだ。」

 狼姿のままの姉を抱えながら、少年はもと来た森の道を走り去っていった。

「なんという姉弟愛……自分、感動であります……ッ」

 蜂男は泣いてもいないのに目元を涙で拭う仕草をして狼姉弟を見送った。

「お前らもトリカブトぐらいでビビってんじゃねぇよ!さっさと行きやがれ!」

 鰐男が手当たり次第に劇団員を無理やり押し出すと、満足な受身も取れずにファーヴニールの剣の餌食となった。

「黒い剣の男よ。見事であります。だがしかし、だがしかし!蝶のように舞い蜂のように刺す自分の一撃は避けられますかな!」

 いつの間にか高い木の上に登っていた蜂男は、何やら本人が格好良いと思っているポーズを決めると、木々の間を跳躍してファーヴニールに襲いかかった。
 同時に何人かの劇団員がファーヴニールに向かってきたため、劇団員を切り伏せて態勢を崩した。
 蜂男はその隙をついて、レイピアでファーヴニールの腹を刺し貫いた。

「勝負ありですな!自分の毒針を受けて生きて帰った者は未だかつて居ないのであります!」

 腹からレイピアを引き抜き勝利の余韻に浸っていた蜂男は、即効性の毒が効いて倒れるはずのファーヴニールが倒れない事に首をかしげた。
 蜂男は首を傾げたままファーヴニールの剣で薙ぎ払われると、枯れ木のようにポキリと身体が折れて吹っ飛んだ。

「女王様万歳ー!」

 吹っ飛ばされた反動で地面を二、三回転がると、蜂男はバンザイをしたままの格好で事切れた。
 主力である蜂男と狼姉弟が敗れ、劇団員がどよめき始めると、鰐男がそれを一喝した。

「お前ら、逃げ出そうなんて考えんじゃねぇぞ。死に物狂いで行ってこい。さもなきゃ俺がぶっ殺す!」
 
 怒鳴っている鰐男にファーヴニールは素早く間合いを詰めると、下から上に振り上げるように剣で切り払った。
 鰐男はすかさず劇団員を捕まえて壁にして剣撃を受け止めると、お返しに太い尻尾をファーヴニールの身体に叩きつけた。
 衝撃によろめいて姿勢を立て直そうとすると、鰐男の大きな顎がファーヴニールの上半身を噛み砕いた。

「今のは危なかったんじゃない?一人で楽しそうな事してないで、私も混ぜなさいよ。」
 
 鏡の割れるような音と共に噛み付いた身体は砕け散り、呆気にとられている鰐男を楽しそうに眺めながら紫のフードを被った女は、鰐男から少し離れた場所でファーヴニールと共に立っていた。

「下がっていろ。これは俺の受けた仕事だ。」

 ファーヴニールが眉を潜めて手で払うような仕草をすると、フードを被った女は口元に笑みを浮かべて首を横に振った。

「こんな美味しい所を、私が見逃す訳がないじゃない。諦めなさい。」

「言っても無駄か。怪我もろくに治ってないんだから、あまり無茶はするなよ。」

 ファーヴニールはフードの女にため息をつくと、鰐男に剣を構え直した。

「小細工使いやがって!今度こそ噛み砕いてやる!」

 鰐男は長い爪の腕を振り回して襲いかかると、ファーヴニールと再び鍔競合いの状態となった。
 鰐男とファーヴニールの拮抗が破れたのは、森の奥から聞こえた少女の叫び声だった。

「ボクは仕事を失敗したぞ!さあ殺せ!」

 ファーヴニールがその声の主に気づくより早く、鰐男は巨漢を翻してナナの方へと駆け出していった。
 今この場を離れてしまっては、兵庫のいる宿に劇団員を通してしまうことになる。
 ファーヴニールはフードを被った女に手で追うように合図を送りながら、片手で剣を振るって劇団員の一人を斬り伏せた。
 
「ノウァ!ナナのことは頼む!」
「ちょっと!名前で呼んだらフード被ってきた意味ないでしょ!?」

 ファーヴニールに毒突きつつも、ノウァは劇団員達の間をすり抜けて鰐男を追った。 
 ナナの居た方向からは笑い声や怒鳴り声や悲鳴が聞こえてきたが、目の前の劇団員を斬り伏せるのに手一杯で、ファーヴニールには森の奥の状況まで把握することはできなかった。
 陽気な男の笑い声が木霊したあと急に森は静かになり、残された劇団員達も蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。

「ナナ!ナナはどこだ!いたら返事をしろ!」

 幾分かの反撃を受け血塗れのファーヴニールは、ナナを探しに森の中を駆け回ったが、彼女の姿を見つけることはできなかった。
 薬の効果も切れ、蜂男の毒が回り始めるとファーヴニールの意識は朦朧となり、そのまま森の中で突っ伏したまま死んだように動かなくなった。
 ノウァが倒れているファーヴニールを見つけたのは、真っ二つにされた黒犬を宿に持ち帰ってから人の姿になったFPと共にしばらく森の中を探し歩いてからの事だった。
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Author:佐藤深雪
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アイコンは魔術商会さん(E№41)からいただきました。とても感謝なのです。

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