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2018-12

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精霊日記15日目

 気がつけばそこは、うさぎの模様の壁紙に囲まれたファンシーな部屋だった。
 モノクルを付けた黒髪の少女と、黒いうさぎの耳が生えたハートの形の瞳を持つ少女が私の顔をしげしげと覗き込んでいた。
 
「こんにちは、あなたがフィーさんですか?セツカ兄ぃがお世話になってます。」

 モノクルを付けた黒髪の少女が、緑色の目を輝かせながら笑顔で私に挨拶をした。

「えっ、これは……どういうことなの。」

 私は自分自身が発する声にまず驚いて、次に自分自身に身体の感覚がある事に再び驚いた。
 今の私は、セツカの持っているペンダントの中に閉じ込められている筈なのに、何故か目の前の少女は私に話しかけてきている。
 身体の感覚もとっくの昔に失った筈なのに、まるで自分の身体のように自由に動かすことができた。
 私はうさぎ柄の毛布に包まれた身体を確かめるように触れながら、混乱する頭を整理しようとした。

「えへへ、突然の事で混乱しちゃってますよね。実はノウァから、フィーさんを人の姿に戻すように頼まれたんです。」

「えっ、ノウァから?確かに、ノウァと身体を取り戻す為に協力してもらう約束はしたけど……こんなにあっさり元の姿に戻れるなんて、夢みたい。」

「元々は僕のために深雪……ウルドが研究した魔法なんだけどね。縫いぐるみの僕に使えるなら、ペンダントにも応用できるんじゃないかって。本当に成功しちゃったね、ウルドって実は凄いんだね。」

 黒いうさぎの耳の少女が褒めると、深雪と呼ばれたモノクルの少女は照れながら頬を掻いた。

「えへへ。ノウァの為でもあるけど、セツカ兄ぃの大事な人だって聞いたし。猫さんのフィーの事だと思ってたから、ペンダントの方を渡されたときはビックリしましたけどね。」

 深雪が近くに畳まれた服を私に手渡すと、真剣な表情になって耳元で囁いた。

「でも、ごめんなさい。ペンダントに強い魔法が掛かっていて、フィーさんに掛けた魔法も一日ぐらいしか持たないと思います。大事な時間ですから、セツカ兄ぃといっぱい使えるように早めに支度しちゃいましょう。」

「そう。でも、ありがとう深雪さん。ペンダント越しにノウァがセツカに会わせたい人が居るって言っていたのは聞こえていたけど……自分の事だとは思ってなかった。」

「えへへ。魔法は切れちゃったら、かけ直せばいいだけですからね。準備に時間は掛かっちゃいますけど。あ、そうだ!」

 深雪は何かを思い出したらしくポンと手を叩くと、机の上にあったノートを私に手渡した。
 
「これ、お勧めのデートコースを纏めたノートです。フィーさん、この辺のこと詳しくないでしょうからきっと役に立つと思います。」

「良かったねウルド。デートコースの無駄な下見がリサイクルできて。」

 黒いうさぎ耳の女の子が微笑むと、深雪は微笑みを返しながら無言で彼女のこめかみをグリグリした。

 お昼の公園の時計台の下でセツカが待っている。
 急いで支度を整えた私は、はやる心を抑えながら約束の場所へと急いだ。
 待ち合わせをしている人達の中から、なにやらソワソワと落ち着かないセツカをすぐ見つけることができた。

「……お待たせ。セツカ。」

 久々に会った私に、セツカは気づいてくれているのだろうか。
 きょとりとした表情で私を見る彼の視線に、私は次第に不安が募ってきた。

「え、フィー?あれ?ノウァさんの身体とかじゃくて、フィー?」

 セツカが頭から爪先まで何度も見るので、自分が変な格好をしているのでは無いかと別の不安も生まれてきた。
 
「うん。この前セツカが渡したペンダントを媒体にして、人化させる魔法をウルドさんが掛けてくれたの。自分でも不思議な感覚だけど、本当の身体みたい。」
「っ……ノウァさんがペンダントを貸してくれって言ったのは、そういう意味があったのか……」

 まだ驚いたままの表情のセツカに、私は深雪から教えてもらった事を説明した。
 ペンダントに掛かっている魔法が強くて、人化の魔法も一日もすれば解けてしまう事。
 魔法が解けたとしても、準備に時間は掛かるがまた魔法を掛け直す事はできる事を話した。
 
「……でも、きょう一日ぐらいは十分保つと深雪さんも言ってたから、その事はあまり気にしないで。」

 話を黙って聞いていたセツカは、真剣な面持ちで私に近づいてきた。

「……フィー。ごめん、ちょっと、抱きしめていい?」
「あっ、えっ、いきなり!?ってか、周りの人がいるし!?」

 私がうろたえていると、セツカの顔の方もみるみるうちに赤くなっていった。

「いや、だってさ、その……嬉しすぎて、顔がにやけまくりそうで、我慢できなくて。」

 私が黙ってセツカの背中に手を回すと、冷たい感覚がセツカの服越しからでも感じ取ることができた。

「……もしかして、結構前から待ってた?身体冷たいよ?」
「あ、いや、全然。全然待ってない。ほんの一時間ぐらい。」
「一時間……ごめん、準備に時間掛かっちゃって。早く会いたかったけど、変な格好だったらセツカに悪いと思って。」
 
 私が項垂れていると、セツカがまだ冷えきった手で私の手を握りしめた。

「いや、ちょっとこう、俺が浮かれまくってただけだから気にしないでいいよ。それに、一日あるけど、一日しか無いって思うとなんか時間が勿体無い気がするし……ええと、とりあえず喫茶店にでも行こうか。」

 ペンダントに閉じ込められる前は、セツカと手を繋いで歩いた事はなかった。
 こうしてぎこちなくはあるが、すすんで手を繋ぐ気持ちになったのは、成長した彼を自分が信頼してるからなのだろう。
 今はこうしてセツカに守って貰っている立場ではあるが、生きていた頃はセツカと恋人だった訳ではない。
 思いがけないデートに確かに私の心は弾んだが、私の死を自分が守れなかった所為だと思い込んで、五年も後悔し続けていたセツカの事を思うと、手放しには喜べなかった。
 ペンダントの中で落ち込むセツカをただ見ている事しかできなかった私は、本当に彼に想われるだけの資格があるのだろうか。
 そして、ペンダントに閉じ込められた理由も、私自身にあるとセツカが知ったら、愛想を尽かすのではないかと不安で仕方がなかった。
 そんな事を考えながらセツカと歩いていると、彼は猫の看板の軽食屋を指さして私に微笑んだ。
 
「あ、じゃ、この軽食屋に入ろうか。」
「うん、看板が猫なんだね。セツカもオリフ姉さんに影響されて猫好きになっちゃったの?」

 私が微笑むと、師匠のこともあるけど飼っている猫のフィーの影響だとセツカは言った。
 セツカが落ち込んでいた時期に拾った青紺色の毛の猫で、私と同じ色のヘテロクロミアだったのでフィーと名付けたそうだ。
 落ち込んでいる時に猫のフィーと一緒にいると、元気付けられたと笑顔でセツカは言った。
 私の知ってる限りでは、猫のフィーは未だにセツカに懐いていない様だったが、それでも私の居ない分彼を支えてくれた同じ名前の猫に、私は心の中で感謝した。

 テーブルの席につくと、セツカは私にメニューを見せて指差した。

「折角だし軽食も取るかな。カップル用メニューとかあるけど頼む?」
「えっ、カップル用メニュー!?そんなのあるんだ……じゃ、食べ物はそれで。飲み物は食後にレモンティーかな。セツカは?」
「俺はジンジャエールで良いかな。それじゃ、頼もうか。」

 セツカが近くの店員を呼んでメニューを頼むと、割りと早いうちに注文した料理を持ってきた。

「お待たせ致しました。カップルプランのランチ。アツアツオムライス、海の幸ふんだんスープ、オードブルでございます。」

 店員は料理の皿をテーブルに並べた後、スプーンを一個だけ置いた。

「ええと、スプーンが一つしかついてないけど……これは?」
「バグではありませんお客様。仕様です。」

 セツカの問いに店員は何事もなかったように一礼して立ち去った。

「どういうことなの。」

 私が呆然と店員の後ろ姿を見送っていると、セツカはスプーンを持ってオムライスを掬った。

「一つのスプーンで交互に食べるの……かな?折角だし、カップルらしいことするか。はい、フィー。あーん。」
「ひゃ、ひゃい!?」

 私が驚いてあげた声を返事と勘違いしたセツカは、そのまま私の口にスプーンを咥えさせた。
 私は周りの視線がないことを確認すると、音が出ないように気をつけながらオムライスを食した。

「……あ、フィー可愛い。」

 セツカがにやけてそんな言葉を漏らすので、私は恥ずかしくなってセツカのスプーンを取り返した。

「なんか、今は頭が真っ白で味がよくわからない……セツカも味見しなさいよ。」
「あ、はい。よろしくお願いします。」

 セツカが素直に頷くので、私はちょっとだけ得意げになってスプーンでオムライスを掬うと、セツカの口元に近づけた。

「うふふ、素直でよろしい。はい、あーん。」
「あーん。えーと、フィーが食べた後だから、美味しい。」
「うぇっ!?それは関係ないでしょ!?交互にこんなのやってたら冷めちゃうじゃない。もう少し食べなさいよ!」

 セツカの言葉にまた恥ずかしくなった私は、誤魔化すようにスプーンでオムライスを掬ううと、セツカにまた食べさせた。

「えー、フィーの後がいいなぁ、折角なら。」
「なにそれ、私猫舌だから、そんな早く食べられないしっ……じゃあ、残ったのはセツカが食べてよね。」

 私はスプーンをセツカに返すと、スープのほうを飲もうとした。   

「じゃ、冷ましてやるよ。」

 セツカはオムライスをサクッと掬うと、ふーふーと息を吹きかけて、私の口元に持ってきた。

「はい、冷めたよ?」
「うっ……い、いただきます。」

 その後もセツカと私は交互に食べさせ合って、無事に食事を終えることができた。

「……誰よ、こんなメニュー考えた店員。ちょっとおかしいんじゃない?」
「そう?このメニューを考えた店員に超感謝したい気分。」

 私が文句を言いながらレモンティーを飲んでいると、セツカはジンジャーエールをストローで啜りながら微笑んでいた。
 飲み物を飲んで落ち着いた所で、私は深雪から貰ったノートをバッグから取り出すと、セツカにも開いてみせた。

「そういえば、ウルド……深雪さんにオススメスポットの案内ノートを貰ったわ。
「へ?深雪がなんでそんなものを……?あんまりイメージわかないんだけど。」
「ええ、深雪さんの友達にデートスポット聞かれた時に困らないようにって、男の子の友だちと一緒に調べてきたらしいわ。周りの事分からないだろうから、使ってって。従妹さん、親切な子だね。」
「そうだな……今度、お礼がてらにウサギグッズでも買ってやるか……ええと、それじゃあ有り難く参考にさせてもらおう。」

 セツカと私はドリンクを飲みながら、深雪のノートを一緒に眺めて相談し始めた。
 オススメのスポットとして、高台の教会や水族館。遊園地に美術館等があった。
 中でも遊園地は、ナイトパレードがクリスマス用のイルミネーションに切り替わるという情報だったので、セツカは遊園地を選んで私もそれに同意した。

「あ……さっきはドタバタしちゃって言いそびれたけど、セツカの服似合ってるわ。鎧を着てる時のほうが多いから、なんだか新鮮。」
「ありがとう。でも、どっちかっていうと俺の方が新鮮だけど。っていうか、魔女服以外のフィーの服見たの初めてなんだけど。凄く可愛い。」
「えっ、そう?ありがとう……自分の姿が鏡に映らないから、お店ではかわいい服を選んだつもりだけど、着こなしてる自信がなかったわ。そう言ってもらえると嬉しい。」

セツカに褒めて貰ったせいか気恥ずかしくなった私は、視線を逸らすようにレモンティーのカップを両手で持って啜り始めた。
飲み物を飲み終えて一息ついた後、会計を済ませた私達は遊園地へと向かうことにした。
 喫茶店から出ると、セツカがまた手を差し出してきたので、私も緊張しながら手を握り返した。

「い、未だに慣れないのよね。こういうの。」
「なんか、初々しい感じがして俺は嬉しい、かな。可愛いし。」

 セツカが何度も可愛いと繰り返すので、私はよけいに意識してしまって上手く歩けなかったのだが、彼はまったく気づく様子はなかった。

「着いたよ。フィーは、こういう場所はじめて?」
「……あ、うん。初めて……かな。」

 ここは、最近セツカが金色の目をした私によく似た女性を、怪しい男達から助けだした場所だった。
ペンダントの中でセツカの行動を監視しているように思われるのも嫌なので、私ははぐらかそうと曖昧な返事を返した。

「ん、何でもないわ。この身体で来るのは初めて。乗り物に乗ったり、館みたいな場所を探検する所だよね。まずはどこにいこっか?」
「ええと、そうだね。フィーは高い所とか大丈夫?大丈夫そうなら、ジェットコースターとかから、駄目そうならメリーゴーランドとかでもいいけど。」

 パンフレットを拡げてセツカが説明したが、この前のペンダントの中で見ていた時の記憶で大体アトラクションは理解していた。

「乗り物なら恐らく、何に乗っても大丈夫ね。セツカも楽しめそうな乗り物に乗りたいわ。その、ジェットコースターっていうのにしましょうか。」
「じゃあ、そうしようか。」

 ペンダントの中の記憶では、たしかに激しい動きではあったもの一度見ていれば怖いものではない。
 筈だった。
 
「んー。やっぱり、そこそこ激しいよな、ここのコースター……フィー、大丈夫だったか?」 
「……あ、うん。なんか高かったり低かったりぐるぐる回ったりしてすごかった。」
 
 私は足元がふらつくのに耐えてジェットコースター降りると、大丈夫そうな振りを装った。
 アレはペンダントから映像を見ているだけだったから平気なだけで、身体に掛かる負荷をまったく考慮していなかった。
 とりあえず、食後で一番に乗る乗り物ではないと私は後悔した。 

「結構ぐったりしてるみたいだけど……乗り物酔いとかしてないか?大丈夫?」
「だ、大丈夫だっていってるでしょ!ちょっと、びっくりしただけよ。お腹が。」
「あ、お腹か。お腹撫でればよかった?じゃあ、次はえーと……お化け屋敷にでも行くか。さすがにそんなに怖がったりはしないだろうけど。」
「やめてよ、お腹撫でるとか恥ずかしすぎるわ。えっ、そこ?い、いいわよ。い、行こうじゃないの!」
 
 思い出すつもりはないが、セツカが金色の目をした私によく似た女の人と一緒に行った場所は、どうしても意識してしまう。
 あの人が大丈夫なアトラクションが、自分は乗れないというのは何となく嫌だった。
 
「ふっ、楽勝だったわ。」
 
 私は暗闇の鏡に気付かずにぶつけた額を擦りながら、得意げに呟いた。

「えーと、明らかに楽勝って表現おかしくない?あと、額は大丈夫?応急手当でもするか?」
「あっ、そうね。何で私張り合ってるのかしら?額は大丈夫よ。暗闇の鏡は不意打ちね、お化け屋敷侮れないわ。」
「そだね……痛いの痛いの、飛んで行け。」

 セツカがおでこにキスしようとしてきたので、私は驚いて手をぶんぶんと振った。

「なっ!?大丈夫よ!?次は何処にするの?怖いのと激しいのは制覇したから、後はなんでも大丈夫なはずだわ。」
「そっか。じゃあ、次はどうしようかな。ミラーハウスとか大丈夫?」
「……それはお願い、勘弁して下さい。」

 合わせ鏡の部屋に入ったら、自分の姿がまったく見えない私は完全にパニックである。
 ミラーハウスだけは、何処かにしがみついてでも行きたくなかった。

「あと、最後でいいからコーヒーカップかメリーゴーランドに乗りたい。ああいう乗り物、憧れてる部分もあるし。」

 子供の頃に絵本を読んで憧れていた、白馬の王子様とお姫様。
 この年になって思いも薄れてきたけれど、仄かに憧れは残っている。
 お姫様みたいに扱われたいなんて知られたら、少女趣味だと笑われないだろうかとセツカの表情を伺ったが、からかっている雰囲気には見えなかったので安心した。
 
「じゃあ、両方乗ろうよ、折角なんだし。先にどっちに乗りたい……あ、メリーゴーランドにしよう。」
「え、ほんとう?でも、似たような感じの乗り物だからメリーゴーランドに乗れば十分よ。行きましょうか。」

 乗り場に着いて、私がセツカの後に馬に乗ろうと待っていると、セツカは私の背中を押し出して微笑んだ。
 
「じゃあ、フィー先に乗って?後ろに俺が乗るから。」
「えっ、私が前?別にいいけど……セツカが私にしがみ付くの?」
「そ。フィーを抱っこしながら馬に乗ってるみたいで俺が嬉しい。」

 私はセツカの言葉に、自分が横乗りして抱き抱えられている姿を想像して頬が紅潮してゆくのを感じた。

「あ、うん。それは、いいけど。お姫様抱っこなんて、店員さんに怒られたりしないかな?」

 セツカは一瞬きょとんとしたので、私の思っていた乗り方が、セツカの思っていた乗り方と違うという事にはっと気づいた。

「あっ、今の無し!そんな乗り方したら危ないし!」
「ちょっと聞いてくる。待ってて。」

 セツカは馬から身軽に飛び降りると、店員に確認を取りに行って電光石火で戻ってきた。

「暴れたりしなければ、大丈夫だって。」
「はやっ!?」
「それじゃあ、失礼して。よいしょ。」

 身動ぎする隙もなく軽々と私をセツカが持ち上げたので、夏の日の思い出が蘇りセツカの表情が、出会ったばかリの頃のちょっとお調子者な彼と重なって見えた。
 
「えっ、いいの!?あばれたりは……しません。」
 
 憧れが叶ったとはいえ、実際に周りの視線を感じると恥ずかしくて仕方がなかったので、
 やや身を強ばらせながらセツカの顔だけを見ている事にした。

「無理させちゃってごめんなさい。ジェイド王国に一緒に戻れたら、本当の馬でこういう事できたらいいよね。夢が一つ叶えられて嬉しい。」
「いや、無理じゃないし個人的にはこう、なんか本当の騎士になったみたいで嬉しいかな……なんて。新しい夢も出来たな。」
「何言ってるの……セツカは本当の騎士でしょ。私はお姫様ではないけど。新しい夢って?」
「騎士といっても、正式に叙勲されてなったわけじゃないから。俺は、フィーだけの騎士でいいよ……ジェイド王国で一緒に乗馬。勿論、お姫様だっこで。」

 このままセツカと一緒に国へ帰って暮らせたなら、それはとても幸せなことだろう。
 深雪の魔法のお陰で此処に居られることを、忘れてしまいたくなるぐらい今はセツカの温もりが暖かかった。

「うん、私は騎士だと思ってるわ。今も私を守ってくれている。素敵な夢ね、私もそれが叶うようにしたい……」

 夢見心地になればなるほど、私は自分の心の中に仕舞った真実の爆弾の存在を意識した。
 今の幸せを、すべて壊してしまうかもしれない爆弾。
 それを告げない限り、私はセツカに守られる資格すら本当は無いのだ。
 どんな理由であれ、彼を騙し続ける結果となった事を謝りたい。
 真実を告げた結果、セツカに拒絶される事になっても。

「私ね……ノウァにもセツカにも黙っていたことが一つだけあるの。」
「ん…?」
「セツカのペンダントを狙っている男。私、多分会ったことがある。」

 セツカがそれ以上尋ねずにじっと私を見るので、胸が締め付けられるような痛みに耐えながら話を続けた。

「取引をしたわ……彼と。オリフィと戦う時の保険に。死ぬ前にペンダントに一時的に魂を移して、新しい身体をくれるって言った。」
「……なんでそんな取引を、とは言わない。多分、それしかなかったんだよ、な。」

 そう答えるセツカの表情が急に曇る。
 私とオリフィとの戦いを思い出したのかもしれない。
 セツカからすれば、私はオリフィに目の前で殺されたように見えたのだから、相当のショックだった筈だ。

「あの男が、もしかしたら、本当に私の身体を用意してくれるのかもしれないって期待してた。でも、恐らくそれはないわね……セツカに守られて相手の正体が嫌というほど分かったわ。ただ……」

ペンダントを狙う男の罠で、セツカが生死の狭間をさ迷うような怪我を負った事もあった。

「そのせいでセツカを何度も危険な目に遭わせたのは私のせい。そして、これからもそういう事があるかもしれない。」

 なぜオリフィとの戦いの時に、セツカを呼んでしまったのだろう。
 ノウァにも責められた事だが、あの時セツカを頼らなければ彼の人生を狂わせることはなかったのだ。

「あなたが私のことを好きだって慢心で、取り返しのつかないことをしたと思ってます。」

 セツカに抱き抱えられたままでは格好がつかないが、私は頭を出来るだけ下げて謝った。

「少なくとも、この五年はもう戻ってこない。もう許してもらうには遅すぎるけど、今謝らないと永遠に謝れなくなるかもしれないから。ごめんなさい。それでもあなたと一緒に居たかった。」

 次に紡ぐセツカの言葉を、私は受け容れる覚悟を決めて彼を見詰めた。
 私の真剣な眼差しに反して、何故かセツカの表情はニヤけたままだった。

「……あのさ、フィーが凄く大事な事言ってる中、俺の顔大丈夫?にやけすぎてない?」
 
 場違いなニヤケ顔に、私はどう答えていいのか分からず、セツカの様子をうかがう事しかできなかった。
 
「正直、フィーがそう言ってくれて、凄く嬉しい。それぐらい、俺と一緒に居たいと思ってくれて凄く。」
「えっ、私なんか変なこと言ってた?」

 自分の予想している反応とあまりにも違いすぎるセツカの態度に、私は自分の伝え方がおかしいのでは無いかと動揺した。

「たとえ、何度危険な目にあっても、どんな命の危険にあっても、それでも俺もフィーと一緒に居たい。むしろ、ペンダントの男に感謝したいぐらいだ。」
「……怒らないの?そういう所は怒ってよ、昔みたいに。ばか……あの男がセツカを酷い目に遭わせてるのに、感謝してどうすんのよ。」

 目を逸らそうとする私の頭にセツカが顔を寄せて耳元で囁いた。

「昔のアレは、フィーが自分を大事にしなかったから怒ったんであって……どんなことがあっても、今度こそ…フィーが俺が守って見せる、救って見せる。だから、安心して。フィーが負い目を感じる必要も、謝る必要もないよ。」

 セツカの言葉に込められた、溢れんばかりの私への想いを確かに感じた。
 誰も信じる事ができなかった臆病な私でも、彼の事は信じてもいいのだと救われた気持ちになった。
 
「はい。今の私はあなたに守られることしかできないけど、元に戻ったら必ずセツカに恩を返します。」
「恩を感じたりする必要はないよ。俺がやりたくやってるんだからさ……」

 セツカは私の方をじっと見つめると「でも、男だから期待はしとくよ、一応。」と付け加えて、照れた表情を見せた。

「……うん。そろそろ、止まるみたいだよ。色々話したら疲れちゃった。少し休みましょうか?」

 メリーゴーランドから降りて一息ついた後、その他の乗り物にも幾つか乗って遊んだが、私もセツカも口数がどんどん少なくなって行った。
お互いに楽しい時間の終わり近づいてくるのを感じたのか、無理に乗り物には乗らないで日が暮れるまで一緒に遊園地の散歩を楽しんだ。

「そろそろ寒くなってきたし、温かい飲み物買ってくるね。セツカはコーヒーでいい?」
「もう、こんな時間か。1日も、そろそろ終わり……か。あ、ごめん。ありがとう、コーヒーで良いよ。」

 私は飲み物を買うついでに、セツカへのクリスマスプレゼントをおみやげ屋で選んだ。
 本当は自分で作ることが出来ればいいのだが、今日のデートですら奇跡なのにこれ以上の事は望んでも仕方ない。

「ただいま。あ、そうだ。ちょっと目を瞑っててくれる?コーヒー持ってて大丈夫だから。」

 私はセツカにコーヒーを渡すと、セツカが目を瞑るのを確認してから首元に猫柄のマフラーを巻いてセットした。

「はい、いいよ。さっきおみやげ屋さんで見つけてきたものだけど。首元暖かくて良いでしょ?」
「え?これは……ありがとう。ああ、あったかいよ。」
「ふふ、本当は手作りだったら良かったのだけど。喜んでもらえてよかった。」
「いや、凄く嬉しいよ……あ、そろそろナイトパレードが始まるみたいだ。見に行こうか。」

 私はセツカに頷くと、自分から先に手を出した。
 セツカも嬉しそうに私の手を握ると、ナイトパレードの会場へと歩き始めた。

「やっと、自分から差し出してくれた。」
「お姫様じゃないんだから、エスコートされっぱなしじゃ申し訳ないでしょ。私のほうばっかり見てないで、パレード見ましょうよ。」
「あ、ずっとフィーの方ばっかり見てるわけじゃ……すいません、見てました。」

 セツカが向き直ると、ナイトパレードの先頭が丁度やってきた所だった。
 
「……綺麗だな…あ、あの電飾の飾り物、ウサギ先生っぽい。」
「あ、本当。サンタのウサギ先生に見えるわ。ということは、あっちのトナカイの女の子はきっと深雪さんね。」

 パレードに出てくる出し物を、いつも旅をしているメンバーに例えながら楽しく時間を過ごしていると、いつの間にかパレードの最後尾も通りぬけて辺りの照明も暗くなっていった。

「……そろそろ遊園地も閉まるし、とりあえず一度最初の時計の下に戻るので、いいかな?」
「……ええ、そろそろ時間よね。戻りましょうか。」

 コートから取り出した懐中時計を見遣ると、そろそろイヴの終わりの時間に近づいていた。
 色々遊びまわって疲れたせいもあるが、それとは別に自分の体力がそろそろ限界に近付いているようだった。
 このまま眠ってしまいそうになる意識が途切れないように、私はセツカの手を強く握った。
 話しながら歩いていると、時計台に辿り着く前に倒れてしまうような気がして、私は口数が更に少なくなった。
 セツカも終わりの時間が近付いていることを感じ取って、ただ黙ったまま時計台の下に着いてしまった。

「……ええと、フィー。さっきのマフラーのお返しってわけじゃないけどさ、目閉じてくれる?」

 セツカの言葉に、私は頷いて目を閉じた。
 抱きしめられる用意をしてちょっと背筋を伸ばしながら待っていたが、緊張に耐えられなくなって私は薄目でセツカの様子を見た。
 セツカは懐から何かを取り出していたので、きっとプレゼントなのだと私は肩の力を抜いてリラックスした。
 セツカの手が私を握ると、金属のようなものが指にはめられた。
 金属の冷たさに驚いて身を竦めようとした瞬間、口元に柔らかい感触があって私は余計に驚いた。

「えっ、指……じゃない、あっ!?」
 
 キスされた方にも驚いたが、薬指にはめられた指輪にはもっと驚いた。

「これって……もしかして、あれ?」
「クリスマスプレゼント、ずーっと何がいいか考えてたんだけどさ。正直、早いかもしれないって思うけど……それでも、フィーと繋がっていられる証みたいなものが欲しかったから。その、俺とペアなんだけど。」
「えっ、だって私はまだ、元の姿に戻っても居ないのに……本気なの?」
「受け取ってくれる?フィー。好きだよ。」
「うん、本気よね。ありがとう……クリスマスに告白なんて、恵まれすぎて夢のようだわ。」

 私は薬指にはめられた指輪を愛おしそうに眺めた後、セツカの方をきつく睨んだ。
「でも、不意打ちでキスするのは許せないわ。こっちにだって準備ってものがあるでしょう?」
「あ、ごめん。フィーを驚かせたくて……さ。」

 セツカが申し訳なさそうに頭を下げようとするので、私は仕方なくセツカに分かるように説明した。

「ちゃんと、抱きしめてキスしなさいよ。」
「えっ?」

 セツカが呆けた顔で私を見るので、自分のほうが恥ずかしくなって顔が熱くなった。

「ああ、もう。言わせんな恥ずかしい……」
「あ、はい。」

 セツカは咳払いをわざとらしくすると、改めて私に向き直って肩に手を回した。

「……フィー、愛してる。目、閉じて?」
「私もセツカの事が好き……もう離れたくない。」

 意識が薄れてゆくのを感じつつも、私はただひたすらにセツカの事だけを想った。

「……幸せすぎて死にそう。」
   
 長い抱擁のあと、少し離れたセツカが私を見つめながら言った。

「私も……この事はずっと忘れない。今も幸せだけど、もっと幸せになりたい……幸せにしてください。」

 セツカの胸元に頭を寄せて、私はセツカの腰に抱きついた。

「……今日は、時間までずっと抱きしめていて良い?」
「うん……残りの時間は私とセツカだけの時間にしよう。最後まであなたを感じていたいから。」
  
 他に誰もいない時計台の下で、静寂に包まれながら私達は強く抱きしめあった。

「……フィーの身体、暖かいよ……ずっとずっと。愛してるよ、フィー」
 
 最後に聞こえたセツカの言葉を子守唄に、私は心地よい気持ちのまま微睡みのなかへと溶けこんでいった。 




 
 

 オリフィアやユリシスに呼ばれて、マグノリアと一緒にクリスマスパーティを祝ったノウァは、心に直接フィーから「ありがとう。」とお礼を言われた。

『別にお礼を言われるほどの事じゃないわ。一日だけ自由に動けるようにしてあげただけだもの。』

 ノウァは、心の中でフィーに返事を返したが、フィーは疲れきって意識を失ってしまったのか返事は返ってこなかった。
 
 「どうかしましたか?」

 金色の目をした紫の髪の少女、オリフィアはノウァにやや首を傾げて尋ねた。

「……いえ、なんでもありません。」
 
 フィーが一日動けるようになったとしても、現状は何も変わらない。
 むしろ此方はペンダントからフィーを開放する手段を持っていると、彼女を狙う者たちを刺激させたに過ぎない。
 恐らく近いうちに、彼等はフィーに接触を試みるだろう。
 ノウァの世界では魔王の魂とオリフィアの魂は分離していたが、ここに居る彼女は明らかに並列世界にいたオリフィアとは雰囲気が違っていた。
 彼女がフィーを狙っているのかを確かめるためにも、フィーには囮になって貰うつもりだった。

「頑張って、フィーを守ってあげてくださいね。騎士のセツカさん。」

 ノウァは誰にも聞こえないように独り呟いた後、オリフィアの方へ気付かれないように微笑みを返した。
 
「それでは、お話をお伺いいたしますね、オリフィアさん。」


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