2017-05

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精霊日記19日目

 ここではない何処か。
 鬱蒼と茂った木々の道無き道を、二人の少女が木漏れ日を頼りに歩いていた。
 紺色の髪に紫の目をした少女は、森の少し開けた場所を見つけると、一緒に歩いていたもう一人の藤色の髪の少女に話しかけた。

「オリフィアさん、霧も出てきたようですので、少しここで休憩しませんか?」

 オリフィアと呼ばれた少女は頷くと、リュックを降ろして一息ついた。
 
「ノウァ様が一緒に居て下さって心強いです。お兄様も出掛けてしまっているので、独りになってしまう所でしたから。」

 足元には既に靄がかかり始め、時間が経てばさらに視界が悪くなることは明白だった。
 薄暗い森は、二人だけを世界から隔絶したように錯覚するほど静寂に支配されていた。
 うさぎの耳の生えた少女、マグノリアが居なくなってからのオリフィアは、気丈には振舞っているものの、ノウァにはどこか寂しげにも見えた。

「……やるなら、今しかないわね。」

 ノウァは腰掛けているオリフィアに近づくと、覆い被さるように背中から彼女の首に手を回した。

「……ノウァ様?」
 
 突然の事にやや驚いたオリフィアは、ノウァの方に振り向こうとしたが、首元の冷たい刃物がそれを阻んだ。
 漆黒の鎌の刃は、掠めただけでも首筋にはうっすらと赤い線が浮かび上がり、オリフィアが少しでも動けば首と胴体が離れてしまいそうだった。
  
「ごめんなさいね。あなたに恨みがある訳では無いのだけど。魔王なんてものが目覚めてしまうと厄介だから、消えて貰うわ。」 

 ノウァは、感情を押し殺したような抑揚のない声でオリフィアに囁いた。

「何の事でしょう……私はただの旅の女ですが……?」

 身じろぎもせず、オリフィアは普段通りの落ち着いた声で返事を返した。

「今のあなたが人間でも魔王でも関係ないわ。私にとっての不穏分子には変わりないから。マグノリアさんがこっちの世界に来られたって事は、あなたもこちらの世界に干渉する手段があるって事でしょう?」  

 オリフィアが答えるのを待つことはなく、ノウァは首元に近づけた鎌の方に意識を集中させながら話を続けた。

「私がここに来た目的は、一緒に出口を探すふりをしてずっとあなた達を閉じ込めておく事だった。目的が果たせなくなりそうだから、根源を絶つわね。」

「ええ、ノウァ様……ノウァの目的は薄々分かっていました。」
「そう、なら話は早いわ。いたぶるような趣味はないから、一瞬で終わらせてあげる。マグノリアさんの方には元気でやってるって伝えておくから安心してね。友達として、約束は守ってあげるわ。」

 ノウァが鎌に力を込めようとすると、オリフィアは明らかに場違いな穏やかな表情でくすりと笑った。

「私の首はいつでも取れるのでしょう?ノウァ……少し、お話を聞いていただけますか?」

 首元に刃物を突きつけられても狼狽えない様子を見たノウァは、オリフィアが死ぬ事を覚悟しているのか、ただ虚勢を張っているだけなのかと考えたが、もう一つの選択肢である自分が彼女を殺すことができないというイメージが脳裏を掠めた。
 それは、同じ眷属としての彼女に対する恐怖心や畏敬などではなく、憐れみでも罪悪感でもない、もっと温かい素朴な感情だった。
 惑わず心を凍らせて、芽生えた不可解な感情をノウァは頭の隅に追いやった。

「あら、遺言でも託したいのかしら。いいわ、話だけは聞いてあげる。」

 あくまでも彼女の話を聞くだけ。
 ノウァが鎌を持つ手を少しだけ緩めると、オリフィアは抵抗する素振りもなく静かに語りはじめた。

「……そんな馬鹿な事、本気でやるつもりなの?」

 話を聞き終えたノウァは、半ば呆れたような表情でオリフィアの目を見詰めた。
 彼女の目的は衝撃的ではあったが、ノウァの理念に沿った行動でもあり、ただただ困惑するしかなかった。

「ええ、その為にノウァにもお手伝いして欲しいの。」

 首に突きつけられた鎌を振りほどく事もなく、オリフィアはノウァの手に自分の手を重ねた。

「私があなたに手を貸す謂れがないわ。」

 彼女の金色の目に見つめ返されると、動揺を見透かされているような気持ちになって、ノウァは視線を逸らすと首を横に振った。

「あなたと私はお友達でしょう?」

 オリフィアの言葉で、頭の隅に追いやった不可解な感情がまた湧き上がってくるのをノウァは感じた。
 眼の前に居るオリフィアとは少し違う、懐かしいような彼女が微笑む温もりすら感じられるイメージ。
 少女の頃に読んだ絵本のヒロインだった王女、オリフィアに対する自分の憧れが蘇ってしまったのだろうか。 
 既視感のように曖昧なものにも関わらず、彼女に執着してしまう自分の感情に、ノウァは焦燥感すら覚え始めた。

「……そうね。お友達ごっこに、もう少しだけ付き合って上げてもいいわ。」

 ノウァは突きつけた鎌を降ろすと、ため息を一つ吐いた。
 もしかしたら、過去に記憶を失った時のように、オリフィアに対して何かを忘れているのかもしれない。
 呼び起こされる記憶の欠片の正体を知るためにも、もう少しオリフィアと一緒に行動した方が良いとノウァは自分に言い聞かせることにした。

「ノウァは、一言余計なんですよ。もう少し素直になったらどうですか?」

 服の埃を払って立ち上がったオリフィアは、目を細めて笑みを浮かべた。

「それこそ、余計なお世話よ……首、少しは痛むでしょ。治してあげるからこっち来なさい。」

 ノウァはオリフィアの手を引くと、少し強引に身体を引き寄せた。
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