2017-10

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精霊日記16日目

 深雪は年が明けてから、サクラ達と初詣に行く約束をしていた。
 初詣の為に髪の毛をセットして貰うため、プロのスタイリストの仕事をしているミリオンベルのもとを訪ねた。
 髪の毛のセットの際、深雪がKT2というアイドルユニットの一人、ともえさんに憧れているという話になった。
 ミリオンベルは、彼女と同じツインテールに挑戦してみたらどうかと深雪に提案した。
 深雪にとってKT2のともえは憧れではあったが、同時に崇拝に近い存在だった。
 憧れの人と同じ髪型は恐れ多いと、あまり乗り気ではなかった深雪だったが、うさぎの髪型になれるよと
 ミリオンベルが勧めると即座に承認した。
 うさぎが好きな深雪に合わせて、ミリオンベルがラビットスタイルのツインテールに髪をセットをすると、鏡を見た彼女はうさぎだうさぎだと目を輝かせて喜んでいた。
 ミリオンベルにお礼を告げて、フォルテと共に初詣の集合場所に向かった深雪は、着物姿で待つサクラや袴姿のレイヤ達と合流した。

「明けましておめでとう。ウルド、髪形変えたの?元気な感じでかわいい。」 
「おめでとー、サクラ!サクラの髪型も晴れ着も、すげー綺麗だよ。大和撫子みたい!」
「ありがとう。大和撫子はちょっとほめ過ぎかも?ウルドも内掛けみたいな羽織物が綺麗だよ……あれ、着物は持ってなかったんだっけ?」

 サクラが首を傾げると、ウルドはばつが悪そうに目を逸らした。

「あ、うん。クリスマスの準備とかで結構お金使っちゃって……羽織物だけでも、お正月気分でいいかなって。」
「小熊さんと一緒にやってたMMOでも、結構課金してたよね。」

 黒いうさぎの耳をピコピコとさせながらフォルテがツッコミを入れていると、いつの間にか周囲の人達がフォルテのもとに集まってきた。

「ママー、うさぎさんの女の子がいるよー」
「なんだこの黒いの、動くぞっ!?」
「うさみみ萌え~♪」

 見る見るうちに沢山の人に囲まれたフォルテは、両手を振って深雪に助けを求めた。

「ウルド、この人達何とかしてよー!」
「えっ、うさみみに反応してるのこれ。フォルテ、悪いけど先に帰って。」

 深雪の命令に不満そうにフォルテは口をへの字に曲げると、脱兎のごとく神社から逃げ出した。
 彼女を追いかけるように、フォルテの周りに集まってきた連中も散らばって行った。

「危なかった……なんだか知らないけど、ここの人達はうさぎの耳に反応するみたい。ツインテにしてるから、私も注目されちゃうかな。」
「うさぎの耳に反応するのは深雪も同じだろ。あと、ツインテは別にうさぎの耳じゃねーし。」

 深雪の分析にユカラはツッコミを入れながら、隣に居るマグノリアのうさぎ耳の帽子を深く被せ直した。

「ここでは、うさぎ耳を見せると注目されてしまうのでしょうか。なるべく出さないように収納しておきますね。」

 マグノリアが心配そうに周囲の表情を伺うと、深雪の目が途端に輝き始めた。

「えっ。マグノリアちゃんって、うさぎの耳が生えてるの!?見せて!見せて!」

 マグノリアに迫ろうとする深雪は、セツカに首根っこを捕まれて引き止められた。

「こら、深雪が率先して騒いでどうすんだ。兵庫さんと道産子さんが待ちくたびれてるだろ。いい加減お参りに行くぞ。」

 呆れ顔のレイヤと苦笑しているサクラも、セツカ達に続いて神社の境内へと歩き始めた。
 兵庫と道産子も、イチャイチャっぽくしながら後について来た。
 
 境内に近づくとお参りの人も増えはじめ、深雪達も互いの姿を確認して進むのが目一杯だった。
 人ごみに慣れないマグノリアが隣の人にぶつかった拍子、被っていた帽子が外れて人ごみの中に飲み込まれそうになった。
 隣に居たユカラは素早く人ごみをすり抜けると、帽子を拾ってマグノリアの元に戻ってきた。
 帽子を受け取ったマグノリアは、とても嬉しそうに白いうさぎの耳をゆらしながらユカラに微笑んだ。

「ありがとうございます。この帽子は山本様から頂いたものなので、大切なものでした。」
「あっ、マグノリアちゃんのうさ耳かわいい!じゃなかった!?生えてるよ、早く逃げてっ!」
 
 深雪が叫んだせいで注目を集めてしまったマグノリアは、あっという間に周りの人に囲まれ始めた。

「えっ、あのっ、どこに逃げたらいいんでしょう……」
 
 深雪とユカラはマグノリアを庇うように周囲を遮ったが、それでも身動きが取れなくなっていた。
 
「深雪のアホ。マグノリアはこっちに来たばかりなんだから、よけい迷子になっちゃうだろ。」
「えっ、そうなの!?そんなの初めて聞いたんだけど!?」
 
 ユカラが深雪の額を小突いているのを、耳を引っ込めたマグノリアがどうしていいのか分からずオロオロと心配そうに見た。
 
「とりあえず、一旦人ごみから出て仕切りなおそう。これじゃ、参拝所に何時になっても辿り着かないぞ。」

 セツカが三人を庇うようにして周囲を掻き分けて進むと、いつの間にかサクラやレイヤとも離れ離れになっていた。
 兵庫と道産子も、いつの間にか姿が居なくなっていた。

「あれ、サクラとレイヤ先生が居ない……二人ともはぐれたのかな。」
「はぐれたのは僕らの方だろ。兄上達なら先に参拝を済ませて待っててくれるよ。」

 心配そうに周囲を見回す深雪を無視して、ユカラは境内の方へマグノリアの手をとって歩き出した。

「ごめんなさい、今度は耳が出ないように気をつけます。」

 マグノリアは手を引かれながら、深雪とセツカとユカラに順々に頭を下げた。
 
「ううん、マグノリアちゃんは初めてこっちに来たんだから、いろいろ驚いちゃうよね。あっ、そうだ!いい事思いついた!」

 深雪は拍手を打つと、空いているほうのマグノリアの手を握って先頭を歩きだした。

「これなら絶対はぐれないでしょ、三人一緒だし。」
「勝手にマグノリアの手を握んなよ、嫌がってるだろ。」
「あっ、大丈夫です……深雪さま、よろしくお願いします。」

 三人がぞろぞろと参拝所のほうへ進んでいくので、セツカも追いかける形になりユカラの手を掴んで後を追った。

「なんだか小学生の遠足の引率みたいだな……でも、はぐれるよりはマシか。」

 無事に参拝を済ませた四人が神社の入り口で待っていると、サクラとレイヤも無事に参拝を済ませて帰ってきた。
 
「そういえば、何かまだ忘れてる気がするんだけど……ま、いっか。」
「ウルド、良くないよ。まだ、カムイさんと灘さんが戻ってきてないよ。」

 深雪が帰ろうとするのを、サクラが慌てて呼び止めた。

「あいつらはいい大人なんだから、迷子になったりしないだろう。とっくに参拝済ませて先に帰ったのかもな。」
「そうですね、兵庫さんと道産子さんなら心配ないですよ。俺達も帰りましょう。」

 レイヤの言葉に頷くセツカ。
 一足早く手を繋いで帰るマグノリアとユカラを、レイヤは見守るように見つめながら歩き始めた。
 深雪とサクラは、帰りにおみくじを引こうと話しながら、先ゆくユカラとマグノリアを追いかけて行くのだった。

精霊日記15日目

 気がつけばそこは、うさぎの模様の壁紙に囲まれたファンシーな部屋だった。
 モノクルを付けた黒髪の少女と、黒いうさぎの耳が生えたハートの形の瞳を持つ少女が私の顔をしげしげと覗き込んでいた。
 
「こんにちは、あなたがフィーさんですか?セツカ兄ぃがお世話になってます。」

 モノクルを付けた黒髪の少女が、緑色の目を輝かせながら笑顔で私に挨拶をした。

「えっ、これは……どういうことなの。」

 私は自分自身が発する声にまず驚いて、次に自分自身に身体の感覚がある事に再び驚いた。
 今の私は、セツカの持っているペンダントの中に閉じ込められている筈なのに、何故か目の前の少女は私に話しかけてきている。
 身体の感覚もとっくの昔に失った筈なのに、まるで自分の身体のように自由に動かすことができた。
 私はうさぎ柄の毛布に包まれた身体を確かめるように触れながら、混乱する頭を整理しようとした。

「えへへ、突然の事で混乱しちゃってますよね。実はノウァから、フィーさんを人の姿に戻すように頼まれたんです。」

「えっ、ノウァから?確かに、ノウァと身体を取り戻す為に協力してもらう約束はしたけど……こんなにあっさり元の姿に戻れるなんて、夢みたい。」

「元々は僕のために深雪……ウルドが研究した魔法なんだけどね。縫いぐるみの僕に使えるなら、ペンダントにも応用できるんじゃないかって。本当に成功しちゃったね、ウルドって実は凄いんだね。」

 黒いうさぎの耳の少女が褒めると、深雪と呼ばれたモノクルの少女は照れながら頬を掻いた。

「えへへ。ノウァの為でもあるけど、セツカ兄ぃの大事な人だって聞いたし。猫さんのフィーの事だと思ってたから、ペンダントの方を渡されたときはビックリしましたけどね。」

 深雪が近くに畳まれた服を私に手渡すと、真剣な表情になって耳元で囁いた。

「でも、ごめんなさい。ペンダントに強い魔法が掛かっていて、フィーさんに掛けた魔法も一日ぐらいしか持たないと思います。大事な時間ですから、セツカ兄ぃといっぱい使えるように早めに支度しちゃいましょう。」

「そう。でも、ありがとう深雪さん。ペンダント越しにノウァがセツカに会わせたい人が居るって言っていたのは聞こえていたけど……自分の事だとは思ってなかった。」

「えへへ。魔法は切れちゃったら、かけ直せばいいだけですからね。準備に時間は掛かっちゃいますけど。あ、そうだ!」

 深雪は何かを思い出したらしくポンと手を叩くと、机の上にあったノートを私に手渡した。
 
「これ、お勧めのデートコースを纏めたノートです。フィーさん、この辺のこと詳しくないでしょうからきっと役に立つと思います。」

「良かったねウルド。デートコースの無駄な下見がリサイクルできて。」

 黒いうさぎ耳の女の子が微笑むと、深雪は微笑みを返しながら無言で彼女のこめかみをグリグリした。

 お昼の公園の時計台の下でセツカが待っている。
 急いで支度を整えた私は、はやる心を抑えながら約束の場所へと急いだ。
 待ち合わせをしている人達の中から、なにやらソワソワと落ち着かないセツカをすぐ見つけることができた。

「……お待たせ。セツカ。」

 久々に会った私に、セツカは気づいてくれているのだろうか。
 きょとりとした表情で私を見る彼の視線に、私は次第に不安が募ってきた。

「え、フィー?あれ?ノウァさんの身体とかじゃくて、フィー?」

 セツカが頭から爪先まで何度も見るので、自分が変な格好をしているのでは無いかと別の不安も生まれてきた。
 
「うん。この前セツカが渡したペンダントを媒体にして、人化させる魔法をウルドさんが掛けてくれたの。自分でも不思議な感覚だけど、本当の身体みたい。」
「っ……ノウァさんがペンダントを貸してくれって言ったのは、そういう意味があったのか……」

 まだ驚いたままの表情のセツカに、私は深雪から教えてもらった事を説明した。
 ペンダントに掛かっている魔法が強くて、人化の魔法も一日もすれば解けてしまう事。
 魔法が解けたとしても、準備に時間は掛かるがまた魔法を掛け直す事はできる事を話した。
 
「……でも、きょう一日ぐらいは十分保つと深雪さんも言ってたから、その事はあまり気にしないで。」

 話を黙って聞いていたセツカは、真剣な面持ちで私に近づいてきた。

「……フィー。ごめん、ちょっと、抱きしめていい?」
「あっ、えっ、いきなり!?ってか、周りの人がいるし!?」

 私がうろたえていると、セツカの顔の方もみるみるうちに赤くなっていった。

「いや、だってさ、その……嬉しすぎて、顔がにやけまくりそうで、我慢できなくて。」

 私が黙ってセツカの背中に手を回すと、冷たい感覚がセツカの服越しからでも感じ取ることができた。

「……もしかして、結構前から待ってた?身体冷たいよ?」
「あ、いや、全然。全然待ってない。ほんの一時間ぐらい。」
「一時間……ごめん、準備に時間掛かっちゃって。早く会いたかったけど、変な格好だったらセツカに悪いと思って。」
 
 私が項垂れていると、セツカがまだ冷えきった手で私の手を握りしめた。

「いや、ちょっとこう、俺が浮かれまくってただけだから気にしないでいいよ。それに、一日あるけど、一日しか無いって思うとなんか時間が勿体無い気がするし……ええと、とりあえず喫茶店にでも行こうか。」

 ペンダントに閉じ込められる前は、セツカと手を繋いで歩いた事はなかった。
 こうしてぎこちなくはあるが、すすんで手を繋ぐ気持ちになったのは、成長した彼を自分が信頼してるからなのだろう。
 今はこうしてセツカに守って貰っている立場ではあるが、生きていた頃はセツカと恋人だった訳ではない。
 思いがけないデートに確かに私の心は弾んだが、私の死を自分が守れなかった所為だと思い込んで、五年も後悔し続けていたセツカの事を思うと、手放しには喜べなかった。
 ペンダントの中で落ち込むセツカをただ見ている事しかできなかった私は、本当に彼に想われるだけの資格があるのだろうか。
 そして、ペンダントに閉じ込められた理由も、私自身にあるとセツカが知ったら、愛想を尽かすのではないかと不安で仕方がなかった。
 そんな事を考えながらセツカと歩いていると、彼は猫の看板の軽食屋を指さして私に微笑んだ。
 
「あ、じゃ、この軽食屋に入ろうか。」
「うん、看板が猫なんだね。セツカもオリフ姉さんに影響されて猫好きになっちゃったの?」

 私が微笑むと、師匠のこともあるけど飼っている猫のフィーの影響だとセツカは言った。
 セツカが落ち込んでいた時期に拾った青紺色の毛の猫で、私と同じ色のヘテロクロミアだったのでフィーと名付けたそうだ。
 落ち込んでいる時に猫のフィーと一緒にいると、元気付けられたと笑顔でセツカは言った。
 私の知ってる限りでは、猫のフィーは未だにセツカに懐いていない様だったが、それでも私の居ない分彼を支えてくれた同じ名前の猫に、私は心の中で感謝した。

 テーブルの席につくと、セツカは私にメニューを見せて指差した。

「折角だし軽食も取るかな。カップル用メニューとかあるけど頼む?」
「えっ、カップル用メニュー!?そんなのあるんだ……じゃ、食べ物はそれで。飲み物は食後にレモンティーかな。セツカは?」
「俺はジンジャエールで良いかな。それじゃ、頼もうか。」

 セツカが近くの店員を呼んでメニューを頼むと、割りと早いうちに注文した料理を持ってきた。

「お待たせ致しました。カップルプランのランチ。アツアツオムライス、海の幸ふんだんスープ、オードブルでございます。」

 店員は料理の皿をテーブルに並べた後、スプーンを一個だけ置いた。

「ええと、スプーンが一つしかついてないけど……これは?」
「バグではありませんお客様。仕様です。」

 セツカの問いに店員は何事もなかったように一礼して立ち去った。

「どういうことなの。」

 私が呆然と店員の後ろ姿を見送っていると、セツカはスプーンを持ってオムライスを掬った。

「一つのスプーンで交互に食べるの……かな?折角だし、カップルらしいことするか。はい、フィー。あーん。」
「ひゃ、ひゃい!?」

 私が驚いてあげた声を返事と勘違いしたセツカは、そのまま私の口にスプーンを咥えさせた。
 私は周りの視線がないことを確認すると、音が出ないように気をつけながらオムライスを食した。

「……あ、フィー可愛い。」

 セツカがにやけてそんな言葉を漏らすので、私は恥ずかしくなってセツカのスプーンを取り返した。

「なんか、今は頭が真っ白で味がよくわからない……セツカも味見しなさいよ。」
「あ、はい。よろしくお願いします。」

 セツカが素直に頷くので、私はちょっとだけ得意げになってスプーンでオムライスを掬うと、セツカの口元に近づけた。

「うふふ、素直でよろしい。はい、あーん。」
「あーん。えーと、フィーが食べた後だから、美味しい。」
「うぇっ!?それは関係ないでしょ!?交互にこんなのやってたら冷めちゃうじゃない。もう少し食べなさいよ!」

 セツカの言葉にまた恥ずかしくなった私は、誤魔化すようにスプーンでオムライスを掬ううと、セツカにまた食べさせた。

「えー、フィーの後がいいなぁ、折角なら。」
「なにそれ、私猫舌だから、そんな早く食べられないしっ……じゃあ、残ったのはセツカが食べてよね。」

 私はスプーンをセツカに返すと、スープのほうを飲もうとした。   

「じゃ、冷ましてやるよ。」

 セツカはオムライスをサクッと掬うと、ふーふーと息を吹きかけて、私の口元に持ってきた。

「はい、冷めたよ?」
「うっ……い、いただきます。」

 その後もセツカと私は交互に食べさせ合って、無事に食事を終えることができた。

「……誰よ、こんなメニュー考えた店員。ちょっとおかしいんじゃない?」
「そう?このメニューを考えた店員に超感謝したい気分。」

 私が文句を言いながらレモンティーを飲んでいると、セツカはジンジャーエールをストローで啜りながら微笑んでいた。
 飲み物を飲んで落ち着いた所で、私は深雪から貰ったノートをバッグから取り出すと、セツカにも開いてみせた。

「そういえば、ウルド……深雪さんにオススメスポットの案内ノートを貰ったわ。
「へ?深雪がなんでそんなものを……?あんまりイメージわかないんだけど。」
「ええ、深雪さんの友達にデートスポット聞かれた時に困らないようにって、男の子の友だちと一緒に調べてきたらしいわ。周りの事分からないだろうから、使ってって。従妹さん、親切な子だね。」
「そうだな……今度、お礼がてらにウサギグッズでも買ってやるか……ええと、それじゃあ有り難く参考にさせてもらおう。」

 セツカと私はドリンクを飲みながら、深雪のノートを一緒に眺めて相談し始めた。
 オススメのスポットとして、高台の教会や水族館。遊園地に美術館等があった。
 中でも遊園地は、ナイトパレードがクリスマス用のイルミネーションに切り替わるという情報だったので、セツカは遊園地を選んで私もそれに同意した。

「あ……さっきはドタバタしちゃって言いそびれたけど、セツカの服似合ってるわ。鎧を着てる時のほうが多いから、なんだか新鮮。」
「ありがとう。でも、どっちかっていうと俺の方が新鮮だけど。っていうか、魔女服以外のフィーの服見たの初めてなんだけど。凄く可愛い。」
「えっ、そう?ありがとう……自分の姿が鏡に映らないから、お店ではかわいい服を選んだつもりだけど、着こなしてる自信がなかったわ。そう言ってもらえると嬉しい。」

セツカに褒めて貰ったせいか気恥ずかしくなった私は、視線を逸らすようにレモンティーのカップを両手で持って啜り始めた。
飲み物を飲み終えて一息ついた後、会計を済ませた私達は遊園地へと向かうことにした。
 喫茶店から出ると、セツカがまた手を差し出してきたので、私も緊張しながら手を握り返した。

「い、未だに慣れないのよね。こういうの。」
「なんか、初々しい感じがして俺は嬉しい、かな。可愛いし。」

 セツカが何度も可愛いと繰り返すので、私はよけいに意識してしまって上手く歩けなかったのだが、彼はまったく気づく様子はなかった。

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精霊日記14日目

 成り行きで深雪とデートスポットを回ることになった小熊猫は、約束の時間より三十分程早く時計台の下に着いてしまっていた。
 少し早めに出掛けようとは思っていたが、こんなにも早く着いてしまうのは変に意気込んでしまっているからだろう。
 小熊猫は深呼吸して気持ちを落ち着けると、時計台の座れそうな場所で携帯ゲームを出して時間を潰すことにした。
 最近やり始めたゲームは○び○せ動物○森で、自分が村長になって村を大きくしてゆくゲームだった。
 村から少し離れた場所へ向かって、珍しい昆虫を採集しているのに夢中になっていると、不意に自分の肩を叩く人の気配に気づいた。
 小熊猫が振り返ると、そこにはいつもの錬金術師の服装ではなく、大きめのボタンの付いたコートに、ロングブーツを履いた深雪がニッコリと微笑んでいた。
 
「あっ、深雪さん!俺も今来たとこッス!」

「え、なんかすげーやりこんでるように見えましたよ。話しかけても反応なかったし。」
 
 せっかく約束の時間の前に来たのに、初っ端から印象悪くしてどうするんだと、小熊猫はゲームしていた自分の時間を巻き戻したくなった。
 慌てて携帯ゲームを仕舞いながら小熊猫は、深雪と比べて自分がドノーマルな普段着で来てしまったことを激しく後悔した。

「すみませんッス!あと、デートコースの下見って聞いてたから、服もすげぇ油断してたッス。深雪さん、ちゃんとお洒落してきたのに申し訳ないッス……」

 何度もペコペコと頭を下げる小熊猫に、深雪は苦笑いしながら手を振った。

「あ、大丈夫ですよー。せっかくのデートコースの下見でお洒落な所に行くから、アカデミーの制服で来るのはどうかなーと思って。褒めてもらって嬉しいです。」

「はいッス!いつもは錬金術師の服だから、嫌でも違いに気づくッス!なんか冬服って感じで!」

「あ、うん。冬服だから気づくよね。ありがとう。」

 深雪が引きつった笑顔で答えたので、小熊猫はまた自分が余計な事を言ってしまったのではないかと、胃がキリキリと締め付けられるように痛んだ。
 
 公園を出た二人は街へ繰り出すと、先ずは雰囲気の良さげなお食事処を探す事にした。
最初に見つけたのは、赤煉瓦の壁に鉄枠の付いた重厚な木の扉が入り口の、いかにも高級そうなレストランだった。
 
「あ、ここなんかどうかな?すっごい、お洒落だと思うんだけど!」

 深雪が目を輝かせて入ろうとするので、小熊猫は慌てて呼び止めた。

「ちょっと待ってくださいッス、深雪さん!このレストラン看板にメニューも書いてないし、ランチもやってないっぽいッス!結構高そうッスよ!」

「ゔっ……ほんとだ。雰囲気は良さそうだけど、料理も高そうだよね。」

「うぅ、すみませんッス。手持ちそんな持ってなくて。」

「えへへ、私も学生だから、お金あんまなくて……ほか、探そっか。」

「……はいッス。」

 小熊猫と深雪は肩を落としながらトボトボと、安めな食事何処を探すことにした。
何件か探し回って、猫の看板のついた軽食屋に辿り着いた時、深雪も小熊猫も空腹の限界に達しつつあった。

「小熊さん、もうそこの軽食屋さんにしない?ほら、小熊猫さんっぽい看板もあるし。」

「そうッスね……何か歩きすぎて腹ペコッス。でも、小熊猫はレッサーパンダで猫じゃないッスよ。」

「えへへ、でも中は雰囲気良さそうだよ。実は穴場なのかも。」

 深雪が聞き逃したのか無視されたのか、小熊猫のツッコミに対しての返事は返ってこなかった。
 深雪の事は十二歳の頃も知っているが、マイペースな部分に関しては見た目は大人っぽくなった今でも変わってないなと、小熊猫は染み染み思うのだった。
 落ち着けそうな奥のテーブルに案内された二人は席につくと、メニューをお互いに見えるように拡げて眺め始めた。
 メニューをひと通り眺めると、ハンバーグやパスタなど手頃な値段で小熊猫はひと安心したが、ふと気になるメニューに思わず目を留めた。
 カップルプランのランチメニューは、中身が二人分の量で値段は普通メニューより遥かに安かった。
 深雪も同じ所を見ていたようで、小熊猫に指をさして目を輝かせながら微笑んでいた。

「あっ、これにしましょう。カップルプランとか、一人じゃ頼めないですし。美味しかったらサクラにもオススメしちゃいます!」

「そ、そうッスね。値段的にも単品で頼むよりお得ッス。浮いたお金でデザートかドリンク頼めそうッス。カップルっていうのがちょっと気が引けるッスけど。」

 カップルという言葉が気恥ずかしくて、小熊猫は照れ隠しに頭を掻いた。

「えっ。それって、私とだと気が引けるって意味ですか?」

 深雪が小首を傾げたので、大熊猫は慌てて首を大きく横に振った。

「そういう意味じゃないッス!ホントのカップルじゃないのに頼むのは気が引けるって意味で、深雪さんとじゃ嫌とかとんでもないッス!?」

「あ、良かった。それじゃ、これにしちゃいましょうー」

 小熊猫が必死に弁解するのを気にする様子もなく、深雪は上機嫌で近くの店員を呼び止めると、カップルプランのランチを注文した。
 その様子に小熊猫は胸を撫で下ろしたが、寿命が一年ぐらい縮んだような気分になった。
 しばらくすると店員が大きめの皿に乗った特大オムライスと、大皿のシーフードスープを持ってきた。
 食欲を唆る香りに小熊猫はお腹が鳴るのを抑え、深雪は美味しそうと呟いていた。
 特大オムライスとシーフードスープをテーブルの真ん中に置いた店員は、スプーンを一個だけ皿に乗せて立ち去ろうとした。

「ちょっと、待ってくださいッス!スプーンが一個しかないッスけど……」

 小熊猫に呼び止められた男の店員は、お前は何を言っているんだというような表情で小熊猫の方へ振り向いた。

「カップルプランのランチセットですから。仕・様・で・す。」

 唖然として店員をしばらく眺めていた小熊猫はふと我に返ると、ずーっと見詰めている深雪の視線に気づいた。

「どうしようって、感じッスね……ははは。」

 小熊猫はスプーンでオムライスを掬うと、漫画などでよく見る相手にスプーンであーんさせる姿を思い浮かべ、心臓の音が耳元で聞こえてくると錯覚するほどバクバクいっていた。

「カップルプランって、そういう意味だったんですねー。あ、じゃあ私はスープ先に飲んでますから、小熊さんオムライスの方どうぞ。さっき、お腹ペコペコだって言ってたし。」

「あ、そッスね。交代で食べれば済む話ッスよね……じゃあ、お言葉に甘えてお先にいただくッス。」

「はい、私は小熊さんが先に食べてるのを見てますので、どうぞどうぞ。」

 深雪はスープを飲みながら、小熊猫の食べる様子をじっと見つめ始めた。

「美味しいですか?」

「はい、美味しいっす……ははは。」

 オムライスが冷えてしまっては、後で食べる深雪が美味しく食べられなくなってしまう。
 小熊猫は女の子に見詰められながら食べることに緊張していたせいか、急いで食べようとオムライスを口に掻っ込んだら激しく咽た。

「大丈夫ですか、小熊さん?そんな、食意地張らなくてもいいのに。」

 小熊猫は涙目になりながら違うと手でジェスチャーしたが、咽て言葉にはならなかった。
 苦笑いしながらお冷を差し出す深雪の表情に、顔や皿に吹き出さなくて良かったと小熊猫は心から思った。
 ある程度オムライスを平らげた小熊猫が深雪にスプーンを渡すと、彼女はスープの皿を小熊猫の前に差し出してオムライスを受け取った。

「あっ、皿のこっちに口付けたんで、こっちから飲めば大丈夫ですよー」

 深雪が残ったオムライスを美味しそうに平らげるのを見て、小熊猫のほうが何だか気恥ずかしくなった。
 
 ランチを食べ終えた二人が次に行った場所は、水族館だった。
 水族館には様々なクラゲ、ウミウシ、ヒトデなどが展示されていて、魚はなぜか深海魚ばかりだった。

「……なんだか、ブレインさんがいっぱいって感じッスね。」

「あ、うん。ブレインさんならいつも見てるし、クラゲとかもういいかなって感じですね。素材的には珍しいのが多いから、サクラやレイヤ先生は喜びそう。」

「ははは、興奮して水槽破壊したりしたりしそうッス。」

「うん、なんかあの二人なら盛り上がりそうだよね。違う意味で。」

 綺麗な魚やイルカのショーが見れると期待していた二人は、ブレインを見るのに見学料を払った気分になって、ため息をつきながら水族館を出た。
 
「他にお勧めな場所は、遊園地とか美術館とか、高台にある教会のイルミネーションとからしいですねー」
 
 深雪は、何処からか貰ってきた観光ガイドのパンフレットと睨めっこしながら、小熊猫に説明した。

「遊園地なら色々遊べそうッスね。深雪さんはアトラクションとか好きな感じがするッス。」

「私は遊園地好きなんですけど、サクラ達がこの前デートに使った場所なんで、行っても仕方ないんですよね。」

「あ、そうだったんスか。そうすると、美術館とか……スかね。」

 小熊猫があまり乗り気じゃない表情で深雪を見ると、彼女も苦笑いをしながら頷いた。 

「えへへ、私もそんな芸術詳しくないんで。アニフェスだったら好きなんですけどねー」

「あっ、実は俺もッス。ゲームショウだったら見に行きたいッス。」

「じゃあ、残った高台の教会のイルミネーションにしますか?ここから距離もあるし、歩けばいい時間に着きそうですよ。」

「高台の教会の方でいいッス。あんま夜景の浪漫とか分かんないッスけど。」

「えへへ、私も夜景見て楽しいとも思わないですねー」

 二人は笑顔で見つめ合いながら、はたと首を傾げた。

「……それって、行く意味あるんスか。」

「いやぁ、せっかくオススメだし、行くだけ行ってみよう……的な?」

 深雪が曖昧な返事をしてスタスタと歩き始めたので、小熊猫も仕方なく後を追いかけることにした。

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精霊日記13日目

FPのおまけ日記。

 ウルドが小熊さんから、大熊猫さんのお部屋のプレートを貰って一緒に住む事になった。
 小熊さんの話だと、自分の望む大きさの空間に好きな物を配置できるという。
 ウルドの作った部屋は、うさぎ柄の壁紙にうさぎをモチーフにした家具。
 大小のうさぎの縫いぐるみに囲まれたうさぎまみれの部屋だった。
 今は怪我をしているファーヴニールの看護もしてるので、寝たきりに近いけど彼も一緒に住んでる。
 僕のことはファーヴニールも気がつかなかったみたいで、人間の姿になったら「誰だお前。」って言われた。
 うさぎの着ぐるみ着てた人に、そんなこと言われたくないと思う。

 今までうさぎの縫いぐるみの姿の時は、自由に動けなくて不便を感じたことはなかった。
 でも、人の姿になって自由に動けるようになると、動けないことは不自由なんだと感じるようになった。
 うさぎの縫いぐるみの姿の時はウルドの扱いが酷いけど、人間の姿になってる時は大事にしてくれるのも有難い。
 人間の姿になってから、白黒写真みたいだった周りが色がついて見えるようになった気がする。
 今までは言葉でしか表現できなかったことも、仕草や表情をウルドから真似てするようになって表現の自由度も増えた。 
 ずっと人間の姿でもいいとは思うんだけど、魔力的を消費するみたいでちょっと疲れちゃうのが難点だよね。
  
 ノウァが僕の姿を初めて見たときには随分驚いていたみたい。
 ノウァの使い魔だった時も、今のように手助け出来ていたらノウァもサクラも怪我しなくて済んだかもね。
 まぁ、時系列的には無理な事だから言っても仕方がないけど。
 縫いぐるみの時に傷んだところを、自分の力で治療できるようになったのも助かるよ。
 ……なんかそのせいで、余計ウルドに雑に扱われてる気がするけど。

 僕が人間の姿になる為にウルドが魔法の研究をしてくれたのは、些細なきっかけだった。
 酒場でブレインに会った時に、ブレインがグラマーな女の人にとても興味を示していた。
 たまたま、ウルドと話をしている時ブレインの話が出てきたので、
「僕が女の子の姿になったらブレインが喜ぶのかな。」
 って言ったことだった。
 ウルドも僕が人の形になれる方が、楽しいって言い始めてそれから研究が始まったんだよね。
 そんなに願ったつもりもないのだけど、ウルドのお陰でこうして人の姿になる事ができた。
 でも、ブレインが好きな女の子っておっぱいがもっと大きい子だと思うんだよね。
 ウルドにそれを言ったら、
「私より大きいとかありえないから。」
 って言われた。
 ウルドってケチだよね。
 僕はまだ人の姿でブレインに会った事がない。
 僕のこの姿を見たら、ブレインがどんな反応を示すのかとても興味があるんだ。
 今度会った時に、驚かせてみようと思う。

精霊日記12日目

 裏路地を他愛もない話を交わしながらメルフィーと歩いていると、目の前に薄紫のワンピースを着た白髪の少女が二人立ち塞がった。
 一人は斧を構えながら此方に頬笑みを浮かべ、もう一人は装飾の施された長い棒のようなものを両手で抱えながらじっと俺の方を見つめていた。

「ファーヴニール……見ツケタ♪」

 大きな斧を軽々しく構えた少女が、こちらを警戒する様子もなく近づいてくる。

「ちょっとー、何よいきなり。ロングソード伯の娘の前で、物騒なことやらかすつもり?私に何かあったら、貴方たちの首二つ飛ぶだけじゃ許されないわよ?」

 メルフィーは相変わらずヘラヘラした笑を浮かべながら、それでもしっかりとピアサーと呼ばれる針のような形状の剣を少女の目の前に突き付けた。

「ロングソード卿の娘。アウレア……そっちには手を出しちゃダメ。ファーヴニールだけ片付ける。」

 斧を持った少女をアウレアと呼んだ少女は、後ろの方で長い棒のようなものの先端を此方に構えた。

「チッ……退ケ、お前エ邪魔!」

 アウレアと呼ばれる少女が乱暴に斧を振り回すのを、メルフィーはすかさず一歩飛び退いて避けた。
 斧を振り回した反動で隙だらけの少女の身体に、一応は手加減として鞘に収めたままの剣で胴体に俺は一撃を見舞った。

 ガキィン!

 一撃を見舞った筈の俺の剣は、何かの衝撃に弾き飛ばされ鞘が衝撃で吹っ飛んだ。
後ろの棒のようなものを構えた少女の攻撃のようだったが、何をされたのかまで分かる程ではなかった。

「ちっ、魔法か……」

 俺は黒い刃の剣を構え、再び斧を持った少女に斬りかかる。
 アウレアはその剣を受け止めようと斧を構えるが、黒い剣は霧状になり相手の斧をすり抜けて少女の身体を斬るはずだった。
 霧のようになった魔剣の刃を、アウレアは普通の斧で受け止めニヤリと笑った。

「コレが黒剣カ……タイシタコト無ィ。」

 アウレアが俺の剣を弾くと、再び斧を振りかざしてきた。
 メルフィーはすかさず少女の懐に飛び込むと、胸元にピアサーを突き刺し、彼女の動きを一瞬止めた。

「グッ…!」

 踞る少女に一瞬、ナナの顔がよぎって攻撃を躊躇ったが、メルフィーをこれ以上身の危険に晒すわけにはいかず黒い霧状の刃を脳天に一撃を叩きつけた。
 
 が、黒い霧すら一瞬かき消す程の衝撃が、長い棒を構えた少女から放たれた。

「ちっ、またか!」

 流石に苛立ちを隠せず俺が舌打ちすると、いつの間にか立ち上がってきたアウレアがまた斧を振りかざし飛び込んできた。

「行クゾ!ルシリア!」

 霧散した黒い霧を集中して刃に変えアウレアの鋭い一撃を受け止めるが、斧をすぐさま少女は手放し、懐に飛び込んできた。
 俺が剣を構えなおす前に、少女の細い腕が俺の腕を物凄い力で握り締めた。

「捕マエタ♪」

 口元を釣り上げるアウレアの背後で、俺に例の棒を構えるルシリアと呼ばれた少女と目があった。

「……さようなら。」

 アウレアが俺の手を離して飛び退くと同時に、長い棒の先端から閃光と轟音が発せられるのが見えた。
 避けられない衝撃を覚悟した俺に、鈍い音と共に何かが寄りかかってくるのを感じた。
 それが、メルフィーの身体だと気づいたとき、彼女の足元には水溜りのような血が流れ落ちていた。

「あぁ、こんな終わり方するなんて情けなぁい。」

 血塗れの手をメルフィーが伸ばして俺の頬を撫でると、満足したように微笑んだ。

「貸一つ、できたね……高くつくよ。」

「ああ、だが借りを返すまで寝るなよ。少し休んでいろ。」

 メルフィーを壁に立てかけるように座らせると、俺は二人の少女に再び剣を構えた。

「予定変更。戻るよ、アウレア。」

 長い棒を持った少女が構えを下ろした瞬間、斧を拾い直したアウレアには目もくれず、俺はルシリアに向かって駆け出した。

「……っ!?」

 慌てて長い棒を構えなおしたルシリアは、長い棒から光の衝撃のようなものを放ってきたが、黒い霧を盾状にして構えるとそれを凌ぎながら彼女との間合いを詰めた。
 直線的な衝撃はやがて盾を避けるよう湾曲して身体に突き刺さったが、俺の歩みと気力を削るほどの力はなかった。
 ルシリアの表情が強張りながら長い棒を構えなおす前に、俺は盾状の霧を剣に戻して棒状の武器を斬り払った。

「終わりだ。」

 剣を再び構え直して、ルシリアの体を貫こうとした時。
 背中に強烈な衝撃を受けて、思わず俺は跪いた。
 片方の腕には力が入らず、辛うじてもう片方の腕で剣を杖がわりに体を支える。
 後ろを振り向くと、巨大な斧をトマホークのように俺に投げつけたアウレアが口元を釣り上げて憎たらしい笑を浮かべていた。

「チェックメイト、ダ♪」

 背中に突き刺さる斧のせいで蹲ったまま動けない俺から斧を抜き取ると、塵屑のようにアウレアは俺の身体を蹴り転がした。
 仰向けになり転がる剣に手を伸ばそうとすると、ルシリアがそれを弾くように蹴り飛ばした。
 それから肉屋が屠殺するような軽快な斧捌きで、アウレアは俺の四肢をメッタ斬りにした。
 あまりの激痛にどこまで意識があったのかは覚えていないが、最後に見えたのはアウレアという少女の恍惚に満ちた表情だった。

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Author:佐藤深雪
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アイコンは魔術商会さん(E№41)からいただきました。とても感謝なのです。

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